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🌹はなみせ🍏
数年ぶりに訪れたあのスタジオは、以前よりも少しだけ小さく見えた。それはきっと、私が通信制の高校で必死に勉強して、機材の名前やスタッフさんの動きの意味がわかるようになったから。
「あ、あのコンプレッサー、Behind動画で大森さんがこだわってたやつだ……」
そんなふうに、少しだけ専門的な視線でレコーディングを見学させてもらっていた。大森さん——いえ、やり取りを重ねるうちに自然と呼ぶようになった「元貴さん」は、相変わらず休憩に入った瞬間に爆速で打ち合わせを終わらせ、私の隣にやってきた。
「らんちゃん、お疲れ様。……どう? 前より色々わかったんじゃない?」
「はい! 皆さんの動きが無駄なくて、本当に魔法みたいです」
少し誇らしげに答えた私に、元貴さんはふっと視線を落とした。そして、スタジオの喧騒を切り裂くような、信じられない言葉を口にした。
「……ねえ、見習いとしてでいいから。ここで、僕たちの側で働かない?」
「……えっ!?」
思わず、スタジオ中に響くような声が出てしまった。
だって、まだ私は高校生。確かに通信制だから時間は作れるけれど。
「高校生でも、見習いからスタートできる環境は整える。上京するなら住むところも、生活のことも、僕が……いや、会社がちゃんとサポートするから。スタッフとして、僕らを支えてほしい」
元貴さんの瞳は、冗談を言っているようには見えなかった。むしろ、あの修学旅行の日に私を見つけた時よりも、ずっと強くて、逃げ場のないような熱を帯びている。
「……あ、あの……すぐに、お返事はできません。家族とも……ちゃんと話し合わないといけないから」
「うん。わかってる。ゆっくりでいいよ。でも、僕は本気だから」
その日の帰り道、東京の夜景がいつもよりずっと近くに感じられた。
憧れの世界への招待状。それはあまりにも急で、あまりにも甘い、私への「運命の打診」だった。
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