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第一部:砂漠の亡影編
序章 —黄砂の匂いと鉄の手触り
夜の砂漠は、息を潜めた獣みたいに静かだ。
俺は、テントの外で風に揺れる幕を押さえながら、カスタムした M16A4のボルトを指先で軽く撫でる。
MROサイトのレンズは砂埃を弾き、フォアグリップはしっかり手に馴染む。
レーザーサイトは必要最低限に抑えた赤点。
夜戦では眩しさのほうが害だ。
銃の重さは、もう身体の一部だ。
俺の名は──黒崎陽菜。
26歳。傭兵稼業。
基本は単独行動。
群れるほど余裕もないし、仲間を背負う性分でもない。
恋愛? 冗談じゃねぇ。
戦場でそんな暇があるか。
今日の依頼は一つ。
“砂漠地帯で活動する武装組織〈アーデント連盟〉の補給線を断て。
シンプルだが、危険度はそれなりだ。
俺は腕時計に目をやる、深く息を吐いた。
「よし、行くか。」
砂を踏む音すら殺しながら、夜闇へ溶け込む。
第一章 単独潜入
補給拠点までは1キロ。
夜風が砂粒を打ちつけ、バラクラバの布越しにも痛い。
崖影に身を伏せ、M16A4を構えながら敵の巡回を観察する。
十数人。
武装はAK系と旧式のRPK。
夜間装備は貧弱、対してこちらには十分な視界がある。
「雑だな。これならひとりで十分だ。」
俺は深呼吸し、静かに一歩踏み出した。
砂漠は音を吸い込む。
いや、音を殺しているのは俺のほうか。
見張りの一人が立ち止まり、煙草に火をつけた瞬間──
俺はM16A4を肩に当て、セミオートで二発。
パスッ…パスッ。
サプレッサー経由の乾いた音が、夜風に紛れる。
男は倒れる間もなく砂地に崩れた。
他の敵は気づかない。
俺はひとりずつ確実に、静かに仕留めながら補給テントへ歩みを進めた。
消えた情報源
拠点内部は簡易ランタンの光が揺らめいている。
だが、俺が目につけたのはその奥。
銀色のコンテナ。
情報や資材を保管する区域だ。
「ここか。」
コンテナの鍵を壊し、中を確認すると──あるはずの“補給記録”が消されている。
代わりに、黒いケースが一つだけ残されていた。
俺がケースを開けようとした瞬間──
背後で物音。
「ッ…!」
俺は即座にM9を抜き、振り向いた。
そこにいたのは小柄な少年。
武装はしていない。
震えながら俺を見ている。
「う、撃たないでくれ! 僕はただの…雑役だ!」
俺は銃口を少年から離しはしないが、引き金に力は込めない。
「名前は。」
「レ、レフィ…。ここで働かされてるだけだ。組織が…いや、連中が“D-07”へ物資を運んでるのを見た。俺、嘘じゃない!」
D-07──またその地名か。
さっきのケースにも同じ文字が刻まれていた。
「お前、D-07の位置を知ってるのか。」
レフィは怯えながらも頷いた。
「知ってる…けど、逃げたら殺される!」
なるほど。
つまり─利用価値がある。
俺は、M9をホルスターに戻し、淡々と言った。
「ならついてこい。ここに残っても、いずれ消されるだけだ。…俺は助ける気なんてないが、“情報”は逃す気もない。」
レフィは安堵したように泣きそうな顔をした。
「ありがとう!」
「礼はいらねぇ。足引っ張るなよ。」
俺はケースを肩に担ぎ、少年に目で合図した。
「行くぞ。」
D-07の正体
夜明け前。
岩場に身を潜め、俺は双眼鏡でD-07の位置を調べた。
地下施設。
外周には巡回兵と、旧式だが装甲車が数両。
地上部分は小さく、地下が本命だろう。
「これは、補給拠点なんてもんじゃねぇな。」
レフィが横でうなずく。
「連盟は、ここを中心に作戦を計画してるんだ。都市への攻撃も」
俺は深く息を吐いた。
嫌な予感しかしない。
「お前、内部の構造をどこまで知ってる?」
「強制労働で運ばされた時に、出入りルートを見せられた。全部じゃないけど…案内できる。」
俺はしばし沈黙した。
単独行動主義の俺に、同行者は邪魔だ。
だが、知らない施設に単独で突っ込めば、死ぬ確率は跳ね上がる。
結論はひとつ。
「わかった。ついて来い。ただし足は引っ張るなよ。邪魔なら置いてく。」
レフィは強く頷いた。
「うん…!!」
地下施設への潜入
夜になり、俺たちはD-07の換気口から内部に侵入した。
通路は細く薄暗い。
敵の足音が遠くに響く。
俺はM16A4を構え、レーザーサイトを最低出力で点灯。
赤点が壁をかすめる。
「レフィ、次は左か?」
「うん。監視室を避けるなら、そのルートが安全。」
俺は静かに走るスピードを上げ、巡回兵が現れる前に曲がり角へ滑り込む。
が─目の前に二人の兵士。
不意の遭遇。
俺は迷わず動く。
パスッ。パスッ。
セミオートで二人を倒す。
弾は最小限。
足音も最小限。
レフィは驚愕していた。
「す、すごい…よくこんな。」
「感心してる暇があるなら周り見とけ。」
そしてたどり着いたのは、施設の中枢部。
巨大スクリーンと機材が並ぶ部屋。
机の中央には、武器の設計図や攻撃計画が積まれている。
「これ……都市を攻撃する作戦だ。爆破だけじゃない、化学汚染も…!!」
俺は奥歯を噛みしめた。
「クソが。好き勝手しやがって。」
俺が資料を確認していると、警報が鳴り響いた。
「ちっ…バレたな。」
銃火の嵐
武装した兵が雪崩のように押し寄せる。
俺はコンバットナイフを腰から抜き、近くの敵の喉に一閃。
そのまま
M16A4を拾い上げ、フォアグリップを握り直す。
「レフィ、端末を調べろ! 俺が抑える!」
「わ、わかった!」
俺は遮蔽物に身体を滑り込ませ、セミオート射撃で
正確に頭部を抜いていく。
サプレッサー越しでも反動は心地よい。
だが敵の数が多い。
俺は手榴弾を一本抜き、ピンを引く。
「おらっ、派手にいくぞ。」
ドンッ!
破片の雨が降り、通路が開いた。
その隙に前進。
敵兵が、手榴弾を投げてきた
瞬間、俺は火炎瓶で反撃する。
ボゥッ!
炎の壁が上がり、敵は後退。
煙と熱気の中、俺の視界は安定している。
「暗号解析できた! 破壊コードも送信した!」
レフィが叫ぶ。
「よし、撤退するぞ!」
だが、最後の敵が現れた。
連盟の幹部クラス、ジャマル。
刃を構え、怒りの形相。
「貴様、何者だ…!!」
俺は音を立てて
M16A4を床に滑らせ、ナイフを逆手に構えた。
「悪いが、俺は生き残る主義なんでな。」
刃と刃が交錯し、金属音が響く。
最後に、俺のナイフがジャマルの腹を裂き、男は崩れ落ちた。
俺は息を整え、レフィに肩で合図した。
「行くぞ。ここは吹っ飛ぶ。」
夜明けの影
外へ脱出した瞬間、施設が爆音とともに崩壊した。
砂漠が揺れ、夜明けの光が地平線に伸びる。
レフィが言う。
「凄かった。本当に一人で戦えるんだな。」
「慣れてるだけだ。お前が足引っ張らなかったのは意外だったけどな。」
レフィは照れたように笑う。
「これから、どうするの?」
俺は砂丘の向こうを見つめながら答えた。
「仕事は終わってねぇ。連盟の残党がまだいる。俺は追う。お前は…好きにしろ。」
俺の戦いは、続く。
【黒崎陽菜:過去編と現在編】
灰色の原点
再び独りへ
砂漠の任務を終えて数週間。
レフィは組織保護下へ移送され、俺は再び単独任務に戻っていた。
相棒を持たないほうが、性に合ってる。
そもそも、俺は“誰かと並ぶ”ような人間じゃない。
俺は輸送ヘリの縁に腰かけ、カスタムしたM16A4
のボルトを確認する。
バレルもサイトも、手に馴染んだまま文句を言わない。
砂の匂いが、いつの間にか懐かしいものになっている。
「ま、今回も一人だ。気楽でいい。」
ヘリが降下する振動の中、俺は無意識に胸の奥をかすめた“記憶”に気づいた。
そういえば─
俺が傭兵になった理由を話したことは、一度もない。
話す相手もいなかったし、話す価値があると思ったこともない。
だが今日の風は、どうにも俺の背中を押してくる。
まあ、たまには“過去”ってやつを思い返してみてもいいか。
俺が初めて銃を握った日のことから──。
街の影
俺が育ったのは、日本の片隅にある、平凡で湿気た港町だった。
名前を出しても誰も知らない、観光地としても中途半端な場所だ。
家は母と俺の二人暮らし。
父親はいない。
母は昼も夜も働きづめで、家にはほとんどいなかった。
代わりに俺を構ってくれたのは、
港で働く漁師のじいさんたちと、近所の兄ちゃん姉ちゃん。
「陽菜は気が強いなぁ」
「口悪いぞ、女の子なんだからなぁ」
そう言われても、俺は一度も“女らしくしよう”と思ったことがなかった。
こっちの言葉遣いのほうが馴染むんだ。
男口調のほうが、気楽に息ができた。
だが中学に入った頃、一つだけ変化があった。
母の体調だ。
日に日に痩せていき、働きすぎだと周りに止められても休まない。
理由は金だった。
家の借金。
親父が残したろくでもない置き土産。
「陽菜
ごめんね。もう少しだけ、頑張るから…」
母は笑っていた。
笑っていたが、目の下のクマは隠せなかった。
そして、ある夜。
仕事から帰ってきた母は、それきり倒れた。
病名は現実的で、治療費も現実的だった。
つまり──払えない。
俺は机を殴りつけた。
「なんでだよ! なんで、こんな!」
泣くのは嫌いだ。
弱みを見せるのも嫌いだ。
だがその時ばかりは、どうしようもなかった。
母が入院している病室の白い壁が、やけに冷たかった。
「強くなりたい」
「俺が、どうにかしなきゃ」
そう思ったのが、すべての始まりだった。
最初の銃声
母の治療費を稼ぐには、普通の仕事では追いつかない。
高校を辞め、港で働いた。
日雇いも、裏稼業の運搬もやった。
やれることは全部やった。
だが足りない。
そんなある日、港の倉庫街で、俺は偶然“取引現場”を目撃した。
武装した男たち。
海外紛争地から流れてきたらしい銃。
その中心にいたのは、一人の日本人の男。
傭兵上がりの裏商人だと噂に聞いた。
俺は腹を括り、その男の前へ歩み出た。
「なぁ、金がほしい。仕事を回せ。」
男は最初、鼻で笑った。
「ガキが無茶言うな。銃声聞いただけで泣くタイプだろ。」
俺は床に置かれていた拳銃を手に取り、安全装置を外して言った。
「撃てばいいんだろ。」
その時の俺は、怖さより覚悟のほうが勝っていた。
男は少しだけ目を見開き、そのあと笑った。
「いい目してんじゃねぇか。気に入った。」
こうして俺は、初めて銃を扱う仕事に就いた。
最初は護衛や運搬。
次第に危ない任務。
気づけば小規模な武装抗争にも放り込まれるようになった。
だが
俺は驚くほど順応した。
銃の扱いも、判断も、危機回避能力も。
まるで生まれつきのように手足に馴染んでいった。
ある日の作戦で、同じチームの男が言った。
「お前、向いてるぞ。銃の世界に。」
俺は言い返した。
「向いてるんじゃねぇ。必要だからやってるんだ。」
だが本当は、俺自身が知っていた。
戦場という“枠外の世界”が、自分の性に合っていることに。
最後の別れ
金はたまった。
治療費も払えるようになった。
だが俺が病室へ戻った時、
母は意識が半分落ちた状態だった。
「陽菜…そんな危ない仕事、しちゃ…ダメよ。」
「これは俺が決めたことだ。気にすんな。」
母は弱く首を振った。
「あなたが普通の生活に戻れなくなる気がして。」
その予感は、当たっていた。
俺はもう戦場を知ってしまった。
日本の日常の狭さも、息苦しさも。
母は、俺の手を握ったまま言った。
「陽菜、強く…生きて。」
その言葉を最後に、眠るように息を引き取った。
俺は声を出して泣いた。
戦場では泣かなかったのに。
母の死は、俺の“帰る場所”を完全に奪った。
その日を境に─
俺は“日本人の黒崎陽菜”ではなく、
“傭兵・HINAへと生まれ変わった。
現在へ戻る
ヘリが着陸する。
俺は過去の記憶を断ち切るように深呼吸し、M16A4を背負い直した。
「さて。センチになってる場合じゃねぇな。」
今回の任務は、山岳地帯に潜む武装グループの拠点破壊。
単独潜入。
俺にはちょうどいい。
足元の土を踏みしめ、俺は森の暗がりへ踏み込んだ。
その一歩一歩が、過去の延長にあることは知っている。
母を失い、生きる場所を戦場に選び、
普通の幸せを捨て、
男口調になり、
仲間も作らず、
恋愛もせず、
孤独であることを拒まなくなった。
全部、俺が選んだ。
だから後悔なんてしてねぇ。
だからこそ─
俺は今日も、銃を取る。
「生きるために戦う。それだけの話だろ。」
森の匂いが、俺の決意を包み込むように広がった。
陽菜は再び、影の中を進んでいく。
【黒崎陽菜:訓練編】
導かれた場所
母が亡くなり、俺が裏稼業の護衛・運搬を続けて三ヶ月ほど過ぎた頃だった。
銃の扱いにも慣れ、危険な現場にも顔を出すようになったが─そこには限界があった。
経験だけで生き残れるほど、戦いは甘くない。
ある夜、港の倉庫で荷を運んでいると、背後から声がした。
「おい、ガキ。」
振り向くと、長身で浅黒い肌の男が立っていた。
髭面に無愛想な目。
周囲の連中が距離を取るあたり、ただ者じゃない。
「お前が“あのガキ”か。ここの連中を黙らせるほど度胸があるって噂の。」
「噂なんざ知らねぇ。仕事なら受けるが?」
男はふっと笑った。
「口が悪い。気に入った。
…訓練、受ける気はあるか?」
訓練。
その言葉に、胸の奥が熱くなった。
「教わる気なんてねぇ。必要なことだけ教えてくれりゃ充分だ。」
男は俺をしっかり見据えて言った。
「ならついてこい。俺の名は、ゼイド。元傭兵部隊の教官だ。」
こうして俺は、港の裏稼業から一歩踏み出し──
“戦闘訓練”という地獄へ足を踏み入れた。
地獄の門を叩く
ゼイドの訓練拠点は、山の奥にある廃工場だった。
外見はボロだが、内部は驚くほど整えられている。
射撃場。
格闘スペース。
屋外には障害コース。
簡易医務室まである。
「ここで鍛える。いいか、俺は手加減しねぇ。」
「望むところだ。」
だが──訓練は想像以上だった。
体力地獄
朝四時起床。
走る。ひたすら走る。
坂道、砂利道、階段。
息が切れても止まるなと怒鳴られる。
腹筋、背筋、スクワット。
腕立て伏せは毎日300。
体が悲鳴を上げても“甘え”として切り捨てられる。
ゼイドは言った。
「戦場ではな、疲れたと言った瞬間に死ぬ。身体は限界を超えろ。」
俺は歯を食いしばって続けた。
射撃訓練
扱うのは主にM4系、ハンドガンはM9。
初日は的にすら当たらない。
「呼吸がバラバラだ。肩の力抜け。照準の捉え方はこうだ。」
ゼイドの教えは厳しいが的確だった。
何百発撃ったかわからないころ、ようやく“当てる感覚”が掴めてきた。
だがゼイドは言った。
「撃つだけなら猿でもできる。重要なのは“状況判断”だ。」
次の日から、移動射撃、遮蔽物利用、夜間射撃、複数目標の同時処理。
現場を想定した練習が始まった。
少しでも判断を誤ると、ゼイドの罵声が飛ぶ。
「遅い! そんな動きじゃ敵に腹を撃ち抜かれる!」
くそ、負けるか─そう思って続けた。
初めての“敗北”
ある日、ゼイドは言った。
「今日は“実力試験”だ。俺と戦え。」
格闘だ。
木刀すら渡されない素手での勝負。
俺は自信があった。
地元の喧嘩なら負けたことがない。
だが結果は
完膚なきまでの敗北。
殴られ、投げられ、地面に叩きつけられ、起き上がることもできない。
最後にゼイドは言った。
「これが“実戦”だ。お前みたいな才能あるガキでも、経験と技術の差は埋められん。」
俺は唇を噛み、握りこぶしを震わせた。
悔しかった。
情けなかった。
自分が無力だと痛感した。
その夜、食堂で飯も喉を通らず座り込んでいると、ゼイドが隣に座った。
「悔しいか。」
「あたりめぇだ…!」
「なら、強くなれ。
強くなるためには、敗北を正面から見つめることだ。逃げるな。」
俺はその言葉を胸に刻んだ。
“生き延びる技術”
訓練は日を追うごとに熾烈になった。
サバイバル訓練
山中に放り込まれ、水・食糧・地図は最低限。
夜は氷のように寒い。
一度、崖下に落ちそうになったが、根性で這い上がった。
「生き延びたら戻ってこい」とゼイドは言っただけだ。
俺は三日後、泥まみれで戻った。
ゼイドは笑った。
「死なねぇ気概はあるようだな。」
実戦模擬戦
弾の代わりにペイント弾を使ったチーム戦。
相手はゼイドの古い仲間たち。
プロばかりだ。
俺は撃たれまくった。
かすり傷だらけになった。
だが負けるたびに分析し、動きを磨いた。
ある日、初めて相手の背後を取り、仕留めた。
「よくやった、陽菜。判断が速くなった。」
初めてゼイドに褒められた瞬間だった。
初陣の夜
訓練開始から半年。
ゼイドが俺に正式な武器を渡した。
M4A1。
M9。
コンバットナイフ。
「これが、お前の初陣だ。」
初めての実戦任務は、
港近くで武器密輸を企む小規模犯罪グループの制圧。
規模は小さいが、実弾が飛ぶ“本物の戦場”だ。
胸が緊張で重くなる。
だが怖くはなかった。
ゼイドは言った。
「陽菜。お前ならできる。
だが忘れるな勝つためじゃない。生き残るために戦え。」
夜、倉庫へ潜入した。
影と影の間を縫い、静かに進む。
訓練で叩き込まれた通りに呼吸を整え、
敵の位置を聞き分け、
隙を突き、
一人目を制圧──二人目も即座に無力化。
だが三人目に気づかれ、銃を向けられる。
その瞬間、身体が勝手に動いた。
訓練の記憶が俺を導き、
反射的に回避し、
肩に痛みを感じながらも反撃した。
銃声が一つ。
敵が崩れる。
心臓がバクつく。
汗が流れる。
手が震える。
けれど──生きていた。
作戦後、ゼイドが俺の肩を叩いた。
「初陣にしては上出来だ。お前は……戦士になれる。」
俺は答えた。
「なりたいわけじゃねぇ。ただ……必要だからだ。」
ゼイドは微かに笑った。
「その覚悟が一番強い。」
旅立ち
訓練開始から一年。
俺はついに、ゼイドの元を離れる日が来た。
世界各地の仲介屋が、俺の“成長”を聞きつけていた。
傭兵として正式に契約できるレベルに達したのだ。
荷物をまとめ、俺はゼイドに頭を下げた。
「色々教えてくれて、ありがとう。」
「礼は要らん。
お前はもう、俺の手を離れた。
これからは自分で生きろ。」
「わかってる。死ぬ気はねぇ。」
ゼイドは俺の肩に手を置き、最後に言った。
「陽菜。
“独りで戦う道”を選ぶなら…
間違えるなよ。孤独は刃になる。
だが使い方を誤れば自分を切る。」
俺は短く笑った。
「心配すんな。俺は俺のやり方でやる。」
ゼイドは満足そうに頷いた。
「なら行け。お前の戦場へ。」
こうして俺は、正式な傭兵“HINA”として世界に出ることになった。
訓練で積み重ねた汗と血は、
これからの“孤独な戦い”の土台になった。
俺は振り返らず歩き出した。
背中のM4A1が、やけに軽く感じた。
現在へ続く影
森の中、俺はM16A4を構えながら息を整えた。
今こうして戦えているのは、
あの地獄の訓練を乗り越えたからだ。
ゼイドの言葉が、今でも胸に残る。
“孤独は刃になる。使い方を誤るな。”
俺はひとつ笑った。
「心配すんなよ、ゼイド。俺はまだ生きてる。」
そして俺は、静かに闇へ溶けた。
次の任務へ──
次の死線へ──
独りの傭兵として。
俺が選んだ“道”を歩くために。
銃の好みが決まる
砂漠の訓練基地で暮らし始めて一年ほど経った頃、俺はようやく「傭兵としての身体」が整ってきた。
走り込みで肺は焼けるように痛み、射撃区画では汗と焦げた薬莢の匂いに包まれる毎日。
それでも、ひとつだけ決めきれないものがあった。
自分の主力銃だ。
どこの部隊もそうだが、使う銃で人間の戦い方は大きく変わる。
射線の癖、重量の配分、リコイルの方向、操作系の配置。
俺はその“相棒”を決めかねていた。
元武器商人でもある
ボーガンが、俺の迷いを見透かしたように言った。
「嬢ちゃん、銃は道具じゃねぇ。
あんたの性分を映す鏡だ。
選べないってのは、自分の戦い方をまだ掴めてないってことだ」
くそ…言い返せない。
初めての選抜射撃訓練
その日、俺は選抜射撃の実技を受けていた。
訓練場の前に並んでいるのは、メジャーどころのアサルトライフル。
* AK-74M
* G36
* SCAR-L
* M4A1
* そして、まだ触ったことのなかった M16A4 各社バレル
多数の光学機器とオプション
ボーガンが腕を組んで言う。
「片っ端から使ってみな。だが“心地良さ”じゃなくてな、勝つために必要な銃”を選べ」
言われなくたってわかってる。
勝てなきゃ生き残れない世界で、俺は生き続けたいんだ。
AK—好きになれない理由
まず最初に手に取ったのはAK-74M。
信頼性は抜群。だが…俺は構えた瞬間に違和感を覚えた。
「重心がしっくりこねえ」
弾道は素直で扱いは悪くない。しかし俺の肩には、どうにも馴染まない。
反動の戻りが俺の体の軸と合わない感じだ。
ボーガンが笑いながら言う。
「AKは“拳で距離を詰める”タイプのやつが好む銃だ
あんたは
そういう喧嘩はしねぇだろ?」
「まぁな。俺は狙って落とすタイプだ」
自分で言って少し腑に落ちた。
俺の戦い方のヒントが、またひとつ固まる。
◆ G36—快適だけど軽すぎる
次はG36。軽い、扱いやすい。
だが、撃ち始めてすぐ思った。
「悪くはねぇ。でも“軽すぎんだよな」
軽いは利点だが、俺の撃ち方では安定性が足りない。
俺のリズムには“ほどよい重み”が必要だと気づく。
◆ SCAR-L—悪くないが、違う
SCAR-Lは優秀だ。
反動も抑えやすい。
だが、俺は構えながら無意識に眉をひそめた。
「なにかが違え」
ボーガンが呟く。
「SCARは万能だが“突出しない”。あんたは突出してる部分があるだろう?」
その言葉に俺は無言になった。
突出─
それは射撃精度、集中力、冷静さ。
俺は自分の強みを自覚し始めていた。
◆ M4A1—扱いやすいが、軽快すぎる
M4A1は確かにいい銃だ。
だが、俺にとっては“素直すぎ”た。
「使える。けど…なんつーか、俺向きじゃねぇな」
自分で言いながらも理由は曖昧だった。
◆ M16A4—初めての感覚
最後に手に取ったのが
M16A4。
長いバレル、前重心、無駄な遊びのないデザイン。
構えた瞬間、俺は無意識に口元をかすかに緩めた。
「あぁ、これだ」
銃を引き寄せたときの重さが、俺の身体の軸にすっと馴染む。
照準を覗いたときの“ブレない安定感”。
射撃姿勢が自然に決まる感覚。
最初の三発を撃った瞬間、胸の奥がざわっと震えた。
撃ちやすい。
いや──“俺の撃ち方”に完璧に合う。
連射しても、着弾が揺れない。
トリガーの戻りが俺の指の癖とぴたりと合う。
「選ぶまでもねぇ。決まりだな」
ボーガンが満足そうに笑った。
「それが“あんたの銃”だ。長い銃身を嫌うやつは多い。
だが、お前は“正確に仕留める戦い方”をする。
なら、M16A4は最高の相棒になる」
俺は静かに頷いた。
◆ カスタム戦い方を形にする
その後、俺は自分の戦い方に合わせて銃を最適化していった。
MROサイト:素早い照準用
レーザーサイト(IR対応)
夜間行動のため
フォアグリップ:長時間保持でも疲れない
スリングはワンポイント:素早い転換のため
握ればわかる。
これは単なる鉄の塊じゃない。
“俺が生きるために選んだ、俺の相棒”だ。
◆ 銃が教えてくれたこと**
夜、初めて“自分のM16A4”を手入れしながら、ふと気づいた。
「そうか。俺は“確実に落とす”戦いがしたいんだな」
スピードや暴力性じゃなく、冷静で着実に。
一撃で任務を終わらせるための、静かな戦い方。
銃を選ぶことは、自分の性格と戦い方を選ぶことだったんだ。
M16A4
重く、長く、ぶれない銃。
それはまるで…
俺自身がどう生きたいかを形にしたものだった。
サイドアーム M9 を選ぶ
砂漠の夕日は、銃油の匂いが染みついた訓練場の瓦礫を赤く照らしていた。
長射程の主力は既に決めた。M16A4は俺にとって文句なしの相棒だ。
だが、傭兵として“自由単独行動”を選ぶ以上、近距離での保険は絶対に必要だ。
つまり──サイドアームの選定。
俺は武器庫に案内されながら、ボーガンの説明を聞いていた。
「Hina、あんたの場合は“冷静に狙える拳銃”か“扱いやすさ重視”のどちらかになる。
近距離での判断は一瞬だ。銃の癖が合わなきゃ死ぬぞ」
「わかってるよ。俺は死ぬために来たわけじゃねぇ」
武器庫の金属の匂いが、砂漠の乾いた風と混ざって独特な空気を作っていた。
棚には、ピストルが丁寧に分けて並べられている。
◆ 候補 1:グロック17
最初に手に取ったのは、訓練で何度か使ったことのあるグロック17。
「軽いし、信頼性は十分…だけど、なんか薄いんだよな」
手に馴染む感じは悪くないが、俺は“軽すぎる銃”があまり得意ではない。
ブレが大きいというほどではないが、銃身の跳ねが俺の射撃テンポと微妙にずれる。
「あんたみたいな集中型には、もう少し“重み”がある方が精度は出るかもな」
ボーガンの言葉は図星だった。
◆ 候補 2:P226
次にP226を構える。
金属の重量が掌にしっかり乗る感触。
悪くない。
だが、撃ち始めてすぐわかった。
「ダブルアクションの最初の重さが、俺には無駄だな」
初弾の重いトリガーは、慣れればどうということもない。
だが、“決断が早い俺”には適さない。
俺は常に無駄を嫌う。
初弾から確実に当てたい。
コンマ数秒のロスでも、気に入らない。
◆ 候補 3:CZ75
評価の高いCZ。
撃ち味は上品というか、滑らかだ。
しかし──
「…なんだろうな。悪くねぇけど“俺の”って感じじゃねぇ」
理屈じゃ説明できない違和感。
銃は“どれでもいい”で決めるものじゃない。
◆ M9──最初の感触でわかった
最後に、棚の奥に置かれていた M9を手に取った。
金属のひんやりした温度。
ずしりとした重量。
長めのスライドと、握り込みやすいグリップ。
構えた瞬間、肺の奥で息が止まった。
「あぁ、これだ」
自分でも驚くほどの静かな確信。
引き金を絞り込んだ瞬間
素直な跳ね返り
明確なトリガーの戻り
リズムが俺の指と完全一致
そして、連続射撃でも着弾の軸がブレない。
ボーガンがニヤリとする。
「気づいたか? M9は“手首の強い奴”ほど得意になる。
リズム重視のあんたには、よく馴染むだろ」
「ちっ…うるせぇよ。
でも…まぁ、悪くねぇ」
俺はスライドを引き、その感触を確かめた。
重さはあるが、扱いづらくはない。
むしろ、俺の握力や姿勢に合っている。
“狙って決める”俺には、軽い銃よりも
反動を吸ってくれる金属の重量
が必要だったんだ。
◆ 近接戦闘のイメージが固まる
銃を持って、そのまま近接の動きを試す。
左手で相手を弾き
右手でM9をスムーズに抜き
肘を締めて正面を狙い
一気に二連射
想像の中の動きが、まるで実戦のものであるかのように自然に完成した。
「この銃なら、最後まで戦える」
独り言のように呟く。
◆ 生き残るための“必然”
炎天下の訓練場で、俺はM9だけで何百発も撃ち続けた。
掌は真っ赤になり、水泡ができた。
それでも、撃つたびに思う。
これは俺の銃だ。
M16A4が“遠距離の確実な一撃”。
M9は“近距離の生存の刃”。
二つ合わせて、初めて“黒崎陽菜”の戦闘が成立する。
訓練が終わり、武器庫に戻ると、ボーガンが言った。
「Hina、理由を聞いてやる。
何で M9 を選んだ?」
俺は迷わず答えた。
「一番しっくり来た。
撃った瞬間に、俺が生き延びる未来が見えたんだよ」
するとボーガンは、小さく笑って頷いた。
「それでいい。銃の選択の理由なんて、それだけで十分だ」
◆ サイドアーム決定
こうして俺は、M9を正式にサイドアームとして選んだ。
その選択は──後の数え切れない死地で、何度も俺の命を救うことになる。
火炎瓶を導入する理由
俺が最初に火炎瓶を手にしたのは、戦場で必要に迫られたからでも、誰かが勧めたからでもない。
もっと単純で、もっと残酷な“必然”だった。
◆ 任務:山岳地帯の拠点偵察
ある任務で、俺は山岳地帯にある古い石造りの建物に潜入していた。
夜の空気は薄く、息を吸うだけで肺が痛くなる。
装備はいつも通り─M16A4、M9、ナイフ、手榴弾。
最低限の支援もなし、連絡も期待できない。
俺ひとり、敵地にぽつんと取り残された状況。
廃れた建物に身を潜めながら、俺は敵の動きを観察していた。
二十数名の武装組織が、火薬らしき荷物を運び込んでいる。
「おいおい、こんな人数いたのかよ」
舌を打ちながら息を殺した。
俺の任務は偵察だ。交戦じゃない。
が、状況が変わるのはいつものことだ。
その夜、異常が起きた。
◆ 敵が“ライトを消した”瞬間に気づいた異変
建物内で作業していた武装兵が、急にライトを落とした。
同時に、中でぼそぼそと緊張した声が上がる。
「火薬か? 量が多すぎるだろ、これ」
一瞬で理解した。
爆発物の処理中にトラブルが起きた。
やつら自身、火薬の暴発を恐れている。
つまり、
爆発物が“敵の弱点”になっている。
そこを突けば、少ない火力で大きな効果が出せる。
俺は風向きを確認し、ポケットにあった物資を確認した。
ガソリン入りの携行ボトル(暖炉用)
* 布切れ
* ライター
* 空き瓶
全部、基地の暖房のために置いてあったものだ。
それを見た瞬間、俺の頭の中に一つの結論が浮かんだ。
「…なるほどな。燃やせば一発か」
火炎瓶は原始的だが、燃え広がる力は手榴弾より強い。
火薬のそばで燃料をばら撒ければ、敵は自滅する。
音も小さい。痕跡も少ない。
「爆発物の山に火をつける。この状況じゃ、これが一番確実だな」
俺は瓶に布を詰め、静かに火を灯した。
◆ 放物線の向こうで、静かにすべてが終わる
火炎瓶は弧を描き、窓の中に吸い込まれるように落ちた。
次の瞬間、建物の内部が赤く染まる。
ドッ…という鈍い音。
続いて、火薬が連鎖的に爆ぜる。
だが、実際の爆発音は驚くほど小さかった。
石造りの壁が内部爆発を吸収し、外へ響く音を抑えたせいだ。
火の光が窓から漏れ、数人の敵が慌てて外へ飛び出してくる。
足元を取られて転倒し、そのまま煙に巻かれていく。
俺は見ていただけだった。
派手な銃撃戦は不要だ。
引き金すら引いていない。
一本の瓶で戦況が変わる。
その“効率の良さ”に、俺は戦術的な価値を見た。
◆ 火の光を見つめながら悟ったこと
炎に照らされる夜空を見ながら、俺は静かに思った。
「…原始的な武器でも、使い方次第で戦局は傾く。
むしろ、派手な兵器より使い勝手がいい場面だってある」
燃える建物の前で立ち止まり、少し息を吐いた。
火炎瓶には、
* 静か
* 軽い
* 現地で作れる
* 首尾よく使えば最少のリスクで広範囲を制圧
* 残弾を気にしない
という利点がある。
何より──
「たった一本」で任務が終わることすらある。
俺の戦い方に合ってる。
◆ 後日、装備リストに“火炎瓶”が増える
任務後、ボーガンに報告したとき、あいつは渋い顔をした。
「…火炎瓶で任務を片付けたのか?
銃を使わずに?」
「効率的だったからな。俺は無駄な撃ち合いは嫌いなんだよ」
ボーガンは数秒黙り込んだあと、
「まぁ、あんたらしいな。
その発想は悪くねぇ。
あんたの戦場は“銃撃勝負”だけじゃないってことだ」
と、納得したように呟いた。
それ以来、俺の装備リストには
火炎瓶 × 1〜2本”
が当たり前のように追加された。
◆ 火炎瓶を導入した理由 — 陽菜自身の言葉
任務記録の後日に、俺はメモを残した。
いわば“戦術の哲学”みたいなもんだ。
「俺は勝ちたいんじゃない。
生き残りたいんだ。
銃だけが武器じゃない。
火は、状況をひっくり返す力を持ってる。
俺が火炎瓶を持つのは、派手だからじゃない。
─最も手堅く、生存率を上げる武器だからだ。」
それだけの話だ。
M9を愛した理由
“絶対絶命の山岳集落戦”
夜明け前。
霧が山肌に張り付き、景色のすべてを飲み込んでいた。
俺は単独で、武装組織が潜む山岳集落を偵察していた。
装備はいつも通り。
* 主力:M16A4(MROサイト、レーザー、フォアグリップ)
* サイドアーム:M9
* 手榴弾と火炎瓶
* ナイフ
そして─支援はゼロ。
誰も助けには来ない。
それが俺の選んだ生き方だ。
◆ 遭遇──“最悪のタイミング”
小さな瓦屋根の家の裏手に身を預け、俺は双眼鏡で敵の巡回ルートを確認していた。
「巡回は二人一組、二十メートル間隔か。
これなら、静かに抜けられる──」
そう思った瞬間。
背後で、砂利を踏む音。
一拍遅れて理解が追いついた。
俺の死角。
巡回とは別ルートの裏道から現れた兵が一人。
振り返るより早く、銃声が響いた。
M16A4を構える間もなく、俺は脇腹に衝撃を受けて転げ落ちた。
幸い、刺さることはなかった。
石壁が弾を逸らしてくれたらしい。
しかし──敵には俺の位置がバレた。
家々の影から怒涛のように足音が集まってくる。
「…っつ、マジかよ。なんでこんな時に!」
主力のM16A4は背中の位置。
構えて応戦するには距離が近すぎる。
敵はもう数メートル先だ。
ライフルを振るにも時間が足りない。
なら──抜く武器は一つ。
俺は反射的に脇腹のホルスターへ手を伸ばした。
◆ M9──“抜け”の速さ
右手でM9を引き抜く。
その動きは本能だった。
引き伸ばされた時間の中で、俺の意識は驚くほど鮮明だった。
重い。
だが、指が迷わない。
スライドが俺の手の一部みたいに馴染む。
初弾。
俺は息を一度だけ吸い込み、最も近い敵の胸部を撃ち抜いた。
乾いた発砲音。
M9のスライドが素直に戻る感触。
「やっぱり、これだ」
俺は連射せず、一発一発を正確に撃つ。
反動が俺の手首に“まっすぐ”返ってくる。
その戻りが次弾の位置を自然に導く。
この銃は、俺の射撃テンポを乱さない。
それがどれほど重要なことか、俺は今まさに身をもって感じていた。
◆ 近距離戦──弾が当たる理由
敵影は三、四…いや五か。
狭い路地で一斉に押し寄せてくる。
M9の弾倉は15発。
火力ではアサルトライフルに到底及ばない。
だが──近距離では話が違う。
俺は壁に身を寄せ、敵の重心の動きを読みながら射撃した。
* 腰だめで1発
* 前へ飛び出した敵の足を撃ち抜き2発目
* 建物の角から覗く影を3発目
全部“狙って落とす”。
慌てて撃ちまくる必要はない。
俺は慌てない。
この銃は、俺にそれを許してくれる。
リコイルが軽いわけじゃない。
むしろ重い。
だからこそ、制御しやすい。
力でねじ伏せるんじゃなく、
銃と“呼吸”を合わせる感覚。
この時、俺は気づいた。
俺はM9を信頼している。
こいつは裏切らない。
◆ 弾切れ──生き残るための“最後の判断”
だが、敵が多すぎた。
撃ち続けているうちに、とうとう弾倉は空になる。
「クソッ!」
俺はM9のスライドが後退した位置で止まったのを確認しながら、壁の陰に転がり込んだ。
敵はすぐそこまで迫っている。
リロードする時間は──一秒も無い。
だが俺は迷わなかった。
抜いた空マガジンを投げ捨て、
腰の装具から“火炎瓶”を引き抜く。
さっきまで敵を仕留めていた右手が、別の武器をためらいなく扱う。
俺は布に火を灯し、角に向かって勢いよく投げた。
瓶が割れ、炎が一気に視界を覆い、追跡してきた敵の足を止める。
黒煙の向こうで怒声が上がる。
「今だ!」
燃え上がった路地を敵が避けた隙に
俺は狭い裏道を駆け抜けた。
背後で炎が裂け、騒ぎが広がる。
だが、俺は振り返らない。
◆ 生還──M9が導いた結末
村外れの岩場に出た頃には、東の空がうっすらと明るくなっていた。
俺は腰を下ろし、荒い呼吸を整えた。
手の中には、使い切って空になったM9。
月明かりで光るその金属を、俺はしばらく見つめた。
「やっぱり、お前じゃなきゃダメだな」
軽い銃じゃ、あの距離では狙いがブレていた。
扱いにくい銃なら、抜く瞬間に手間取っていた。
反動の癖が合わない銃なら、テンポが狂って死んでいた。
M9は重い。
だが、その重みが
俺の射撃を安定させ、俺の判断を支えた。
俺を生かしたのは技能じゃない。
冷静さでもない。
俺に合った武器を選んでいた”こと。
それこそが俺が生き残った理由だった。
「これからも頼むぜ、相棒」
M9を静かにホルスターへ戻す。
その瞬間から、俺の中でこの銃は
単なるサイドアームではなくなった。
◆ M9を愛した理由(陽菜の独白)
「俺がM9を愛したのは、
勝たせてくれるからじゃねぇ。
“生き残らせてくれる”からだ。
どんなに状況が悪くても、
抜けば必ず手の中に戻ってくる。
こいつは俺の最後の砦だ。」
M16A4 と M9
霧の立ちこめる国境地帯。
今回の任務は、小さな町を支配している武装集団の指揮所を特定し、可能なら破壊すること。
もちろん、俺は単独だ。
背中にはカスタムしたM16A4。
腰には、俺が最も信頼しているM9。
まだ夜明け前の薄闇の中、俺は瓦礫の散らばる旧市街を一歩ずつ進んでいた。
M16A4─遠距離の支配者
町の外れにある廃工場の屋上に出たとき、眼下に敵の拠点が見えた。
俺は膝をつき、M16A4をゆっくりと構える。
MROサイトが、薄明の中でも敵兵の影をはっきり映し出していた。
呼吸を整え─
俺は一発だけ引き金を絞る。
乾いた破裂音。
遠距離でもブレない、鋭い直進弾道。
敵の肩が弾け、武装した男が後ろへ倒れた。
M16A4は、俺に“空間を支配する力”を与える。
敵が近づく前に削る。
動きを止める。
地形と距離さえ味方にすれば、これは最強の相棒だ。
「やっぱり…遠距離の主役は、こいつだな」
俺は位置を移し、二人目を狙う。
サイトの点と、標的の動きが重なった瞬間─もうそれで終わりだった。
◆ 第二章:距離が詰まる─M16の限界
しかし
敵もただやられるだけではない。
屋根の上からの射撃に気づいたのか、
町の中央ストリートから複数の武装兵が一斉に散開してきた。
奴らの動きは早い。
俺が撃ち抜いた兵士の無線を聞いたのだろう。
遮蔽物から遮蔽物へ、迷いなく接近してくる。
「ちっ…面倒な奴らだ」
M16A4は遠距離こそ強い。
だが、敵との距離が20メートル以下になると“強さの質が変わる”。
狙える。
撃てる。
だが
ラスト一撃が早くない。
サイトをのぞき続けるには距離が近すぎる。
銃身が長いぶん、取り回しに時間がかかる。
そして、接近戦には“別の力”が要る。
◆ 崩れた屋根─M16の不利を悟る瞬間
敵のロケット弾が建物に命中した。
俺の乗っている屋上が大きく揺れ、崩落が始まる。
「ッ──!」
俺は咄嗟に身体を伏せたが、瓦礫の塊が足元に落ちてきて、
屋上の縁から下の部屋へと転がり落ちてしまった。
煙と粉塵で視界がほぼゼロ。
立ち上がった瞬間、俺の目の前に──
距離5メートル。
敵兵が二人。
銃口がこっちを向く。
M16A4は手の中にあった。
だが、銃身が長すぎる。
この距離じゃ振れない。
構える時間もない。
だから俺は迷わず─
M9を抜いた。
M9─近距離の支配者
M9を抜いた瞬間、世界が狭まり、
すべての動きが研ぎ澄まされた。
俺は一歩横へずらし、敵の射線から身体を外した。
そして、
胸部へ一発。
続けてもう一人の右肩へ一発。
M9の反動は、“俺が想定している方向にしか来ない”。
だから次弾に移るのが異様に早い。
敵が倒れる。
荒い息を吐きながら、俺はもう一度状況を確認した。
この距離、この速度、この密度の戦闘。
M16じゃ無理だった。
M9だから突破できた。
「やっぱり近距離は、お前の領分だな」
M9のスライドは熱を帯びていた。
だが、俺の手の中でまだ軽かった。
◆ 役割の境界線
建物の奥からさらに仲間が来る足音がした。
複数だ。
俺はM9を残弾数の感触で確認し、すぐにM16A4を背負い直して構えた。
距離は30メートル。
近距離? いや、ここはM16の出番だ。
俺はレーザーサイトを消し、
MROで敵が影として浮かび上がる位置を狙う。
中距離戦に移行した瞬間─
俺の戦法はスムーズに切り替わる。
M16の初速は速く、軌道も素直。
M9では届かない位置を容易に制圧できる。
俺は“二つの武器の境界線”を、ここで完全に理解した。
◆ 二つの武器の哲学
追撃を振り切り、町外れの廃トンネルで息を整えた。
背中にはM16A4。
腰にはM9。
二つの武器を同時に意識しながら、俺は独り言のように呟いた。
「距離だな。
M16A4は、遠距離~中距離で俺を勝たせてくれる武器。
M9は、近距離と緊急時に俺を生かす武器。」
“勝つための銃”と
“生き残るための銃”。
役割ははっきりしている。
M16A4:空間を支配し、敵を寄せ付けないための主役。
M9:不意の遭遇戦を捌き、生存確率を最大にする切り札。
俺はどちらも手放す気はなかった。
この二丁があれば、俺はまだ死なない。
まだ戦える。
一人で。
トンネルの奥に静寂が満ちる中、
俺は二つの相棒を確かめるように装備へ戻した。
「よし。次だ。」
M16A4を最初に手にしたとき、俺はまだ新人に毛が生えた程度だった。
与えられたのは“標準品”、ただの軍用ライフル。
正直、最初の印象はこうだ。
「長ぇ。重てぇ。扱いづらい。」
それが後に、
“俺の戦い方そのもの”を形にした相棒になるとは、
そのときの俺はまだ知らなかった。
◆ カスタムは必要か?
傭兵基地の射撃レンジにて。
薄暗い照明の下、俺はM16A4を構え、標的に向けて連射した。
反動は素直だ。
精度は悪くない。
だが─なんか俺に合わない。
「悪くはねぇんだけどな」
ボーガンが横で腕を組んで俺を見ている。
「黒崎、あんたの撃ち方は速い。狙うより“動きながら撃つ”タイプだ。
その割に、その銃は少しでも取り回しが悪いと文句を言う」
「文句じゃない。事実だ」
「はいはい。
だったらカスタムしろ。“自分の銃”にするんだ」
この一言が、すべての始まりだった。
◆ 最初のカスタム──MROサイト搭載
まず俺が選んだのは光学サイトだった。
正直、悩んだ。
ドットサイトもホロサイトも種類が多い。
だが俺は“時間が惜しい”。
覗いて、点を見つけて、撃つ──
それが一番速いものがいい。
ショップの棚で、俺はトリジコンMROを手に取った。
・視野が広い
・頑丈
・点が見やすい
・軽い
シンプルで、余計なものがない。
「これだな」
装着した瞬間、銃の上に“目”が一つ増えた気がした。
試射したとき、俺は思わず鼻で笑った。
「見える。
足音より先に、動きの“気配”が見える。」
遠距離は苦手だった俺でも、
これなら中距離を確実に取れる。
◆レーザーサイト─夜戦のための武器
次に必要だと感じたのは夜戦対策。
ある深夜の任務で、俺は敵の影を見失った。
闇の中、建物の影を跨いでジャンプするように動く敵を追いきれず、
とっさの判断が一瞬遅れた。
「一瞬、迷った」
その迷いが命取りになる世界だ。
俺は翌日、軍用レーザーを追加した。
ただし、俺はバカみたいにレーザーを常時点灯させるタイプじゃない。
“必要な瞬間だけ”
敵の影に点を落とすための道具だ。
暗闇の廃ビルで試したとき、
レーザーの点が相手の胸に触れた瞬間、
射撃の精度が一段跳ね上がった。
「夜戦で“迷わない”ってのは、こんなに楽か」
◆ フォアグリップ
すべてを安定させる
反動が強いとか、制御できないとか、
そんな言い訳をしたことはない。
ただ─扱いに“無駄”がある。
M16A4は長い。
長物は、握りを増やすと世界が変わる。
俺はショートフォアグリップを選んだ。
縦握りではなく“ハンドストップに近いサイズ”。
理由は簡単だ。
・走りながらでも取り回しを維持
・縁や壁際でのポジション変更が速い
・伏せ撃ちが安定する
実際つけてみると、
M16A4の“鈍重さ”が一気に薄れた。
構えて、移動して、撃つ。
この一連の動作が滑らかになる。
走っても跳んでも捕捉が途切れない。
「ようやく俺の手足の延長になったな」
◆ 試練の任務─カスタムの“真価”を知る
カスタムを終えた数日後、俺は新任務へ向かった。
山岳地帯の監視哨を潰す単独任務。
霧が多く、視界は悪い。
だが俺は焦らない。
MROサイトが霧の中で敵の輪郭を拾い、
レーザーが影を捉えた瞬間、
俺は一発で頭を抜いた。
距離を詰めてくる敵には、
フォアグリップで銃を抑えつつ連射。
動きながらでもポイントは外れない。
「これだ。
俺が求めてたものは、これだ。」
以前まで苦手だった中距離戦が、
今では一番の得意距離になった。
銃が俺に合わせたんじゃない。
俺が銃を合わせたんだ。
◆ 相棒と呼べるもの
任務を終えて帰還した夜、
俺はM16A4を分解し、ひとつずつ丁寧に手入れした。
金属の匂い、焼けたガスの匂い、油の匂い。
それら全部が、
今の“俺の戦い方”に刻まれている。
銃身を拭きながら、俺はぽつりと呟いた。
「お前は、もうただの武器じゃねぇな。
俺が生き残るための“意志”だ。」
MRO──俺の目。
レーザー──俺の感覚。
フォアグリップ──俺の動き。
M16A4はようやく“俺だけの銃”になった。
この銃となら、
俺は何度でもこの世界を渡っていける。
「武器の哲学─M16A4とM9」
戦場には“運の強い奴”と“技量のある奴”がいる。
だが結局、生き残るのは──
“自分の武器を理解している奴”だ。
それに気づいたのは、俺が傭兵としてまだ若かった頃だった。
周囲の連中は新しい銃を次々に試し、
気に入らなければすぐ別の銃に変える。
だが俺は違った。
気がつけば、M16A4とM9──
この二つだけをずっと握っていた。
◆ 武器は“数”じゃない
ある夜、同じ部隊の外人傭兵・ロペスが俺に言った。
「よう、ヒナ。お前、なんでいつも同じ銃なんだ?
最新のカービンもあるし、ハンドガンもいくらでも揃ってるぜ?」
俺は答えた。
「俺は“撃ち合い”がしたくてここにいるわけじゃねぇ。
生き残るために戦ってるだけだ。
だから、よく知ってる武器を使う。」
ロペスは笑った。
「武器なんて使えば慣れるだろ?」
「違うな」
俺は即答した。
「慣れるんじゃねぇ。“馴染む”んだ。
馴染む武器ってのは、そう多くねぇ」
ロペスはそれを理解できなかった。
だが、俺にとっては当たり前だった。
◆ M16A4──距離を制し、状況を支配する
M16A4は長い。
重い。
トリガーも軽くはない。
だが、その“癖”こそが俺には必要だった。
・距離が離れれば離れるほど安定する
・中距離を確実に取れる
・弾道が素直で読みやすい
・撃つより“当てる”ための銃
・冷静さを保てる性質
つまり──
焦りを潰し、戦況をコントロールするための銃。
俺の性分は短気だ。
焦ると、勝てる戦いも落としかねない。
だからこそ、M16A4の“制御の必要性”が逆に俺を冷静にする。
「こいつを構えた瞬間、頭が冴えるんだ。
戦況を上から俯瞰できる」
それが“俺の戦い方”になった。
◆ M9─刃より速い、命を繋ぐ切り札
M9は地味だ。
派手な威力はない。
9mmだし、他に強烈な拳銃なんていくらでもある。
だが俺がM9を使い続ける理由はたった一つだ。
“決められる動作が、誰よりも速くて正確だからだ。”
例えば──
敵が5メートル先に突然現れたとき。
・振り向いて
・抜いて
・構えて
・撃つ
この一連の動作を、俺はM9なら“思考より速く”やれる。
手に吸いつくように勝手に動く。
「近距離は反射勝負だ。
そこで使い慣れない銃なんて、命の無駄遣いだろ」
俺は何度もM9に助けられた。
決定的な死線を何度も越えた。
もはや“武器”ではなく、
体の一部に近い。
◆ 装備を増やすことは“強さ”じゃない
ある作戦で、新顔の若い傭兵が俺にこう言った。
「陽菜さん、サイドアームにもう一丁持てば?
最近のハンドガンはM9より軽くて強いっすよ」
俺は肩をすくめた。
「二丁持っても撃てるのは一本だろ」
「え?」
「荷物が増えりゃ動きが鈍る。
銃が増えりゃ迷いが増える。
戦場で迷った瞬間、死ぬんだよ。
俺には迷う余裕なんてねぇ」
若い傭兵は黙った。
◆ 戦場が教えた“武器の真実”
数か月後、その若い傭兵は撃たれた。
振り向いた瞬間、どの銃を抜くか一瞬迷ったらしい。
その“0.5秒”が命取りだった。
その時、俺は確信した。
武器は多ければ強いわけじゃない。
大切なのは“迷いを殺す選択”。
そしてそれを支える経験だ。
俺はM16A4とM9という
“二つの答え”にたどり着いた。
◆ 陽菜の武器哲学
俺は銃を選ぶときに、
強さや流行じゃなく“生き残り方”で判断する。
結論はこうだ。
● M16A4
=戦場の空間を支配し、冷静さを維持するための武器
・中距離で必ずアドバンテージを取る
・多人数戦で優位を作る
・焦りを消し、判断を正確にする
● M9
=生存率を最大に引き上げる緊急の武器
・遭遇戦の最後の砦
・反射神経だけで扱える
・命の瞬間に迷わない
● 武器哲学 黒崎陽菜
「武器は“強いから”選ぶんじゃねぇ。
俺を生かすから選ぶんだ。
迷いなく動ける武器が、最強だ。」
だから俺は M16A4 と M9 を捨てない。
それが俺の戦い方であり、生き方だ。