※追スト要素もりもり
※死ネタ
※CPじゃない
彼岸花のお導き
「フサ!!おい!フサ!!何処にいんだ!!」 ズルズルと重い体を引きずって意地でユリレイズの暑い砂の上を歩いていく。時折視界に写る白い腕は小刻みに震えていて、エクレアから受け取った薬をオーバードーズしたせいだろう。あの時はああでもしないとアイツを引き止められなかったんだ、仕方ない、と自分に必死に言い聞かせる。あの場をフサに任せてしまって大丈夫だっただろうか。風船のように戻ってしまったあの小さな体で、何処まで耐えてくれただろうか。
「フサ、フサ⋯⋯!」
あのフサキンのことだ。俺の相棒のフサキンは強い。久しぶりにお互いの小手調べをしたあの日。あいつはもう俺の知ってるフサキンではなかった。ずっとずっと強くなっていた。そんなフサキンがあんな憎悪の塊に負けるはずが無い。
「⋯⋯⋯⋯血?」
なんだ?血が散乱している。確かにここら辺は返り血でベトベトだった。だが、ここまで酷かっただろうか。
嫌な予感がする。
「フサ!!フサキン!!何処にいんだ!!返事しろ!!」
大声で叫びながらなんとか歩みを進める。エクレアのこともあったし、薬のこともあった。メンタルにも結構キてるのかもしれない。だが、フサキンを見つけるまでは仲間たちの元へは戻れない。
「ここらだったハズ⋯⋯!!フサ!!いるんだろ!?返事しろよ!!おい!!」
なんとか動転する記憶を頼りに先程まで自分たちが戦っていた地点に到着した。刀の切り傷、ハサミの切り傷、足の擦れた跡、何かが爆発した跡。俺たちの爪痕がクッキリ残っている。
ふと、前方を見ると、肉塊がある。
「……ぐちゃぐちゃだな」
もう原型も分からないほどの肉塊。可哀想に、アイツに殺られてしまったのだろう。
「……⋯?糸?」
真っ赤な糸くずのようなものが落ちている。こんなとこに糸?不思議なこともあるものだ。
「…?なんだあれ、紺色、の、布……?」
その肉塊の近くに布切れが落ちている。近寄って拾い上げれば恐らくこれは紺色の布……服だろうか。
「はは、フサのマントにそっくり」
フサキンのマントもそういえばこんな色だった。紺鼠って言うんだ!とはしゃいで俺に自慢しに来たのをよく覚えている。
紺色?違う。この色は紺鼠色だ。なんとなく違いが分かる。幾度となく紺鼠は見てきた。
「……フサ?」
さぁっと一瞬で顔から血の気が引く。カタカタと布切れを持つ手が震えている。そういえば、この糸、よくよく見れば先の方が丸い。その丸い物体にそっと触れればもちりと弾力がある。
「まさか、嘘だよな……?」
ボロボロになった肉塊。その中の固い箇所を見つけ掴みあげる。これは顔だ。
ああ、よく見れば見覚えのある顔の形をしている。
「あ、あぁあ……」
凶悪なアイツが出てからまた首の下から紐のような手が生えてきて。それを必死に動かして重い刀を持っていた。
「ぁあ、あ、あ……⋯」
赤色の鉢巻きのようなものが頭に巻いてある。この色は、確か猩々緋と言うと、フサキンが言っていた。
「ぁ、あ…フ、サ…………」
ヒュッと浅い息を吸った音が自分でも聞こえた気がした。顔はもう分からない。目も、口も。だが分かる。この肉塊の正体は……
フ サ キ ン だ
「ぁ、あ゛ああぁぁ゛ああぁ゛あああァァァ゛ァァ゛ア゛アア゛ァァアア!!!!!!!」
嘘だ。嘘だ。あいつは、フサキンは、強くて、あんなヤツに負けるはずが、
「ま、まいど、まいどまいどまいどまいどああ゛ああァ゛ァアああ゛あ゛ああ゛ァァァ!!!!」
ドシコマイドの呪文を必死にその肉塊に向かって唱える。次にテクノリバイブ。次、次、次
「フサッ゛!!!!起き、ろ゛よォ゛!!!!!!おい゛ッッ!!!!!!!」
魔力操作が上手く出来ない。集中出来ない。フサキンだけではなく他のものにまで魔力を向けてしまう。
意味が無いことはもうなんとなく分かる。ソウルの僅かな魔力を感じられないからだ。それでも受け入れたくなくて、必死に魔力を流し込んで呪文を唱える。
「ガ、ハッ!!!゛!!!ゴホッ!!゛フサ゛ッ……フサ……」
ダラダラと口端から血が零れる。魔力切れだ。
「違う、違う……フサ、……」
フサキンの頭を抱き抱えてその場にへたり込む。肌に生暖かい血の感覚と暑い砂の感覚が伝わってくる。涙も、血も、嗚咽も止まらない。気持ちが、悪い。
「マリキン何処に行っちゃったバチか……!!今は一大事バチよ!!」
血まみれですっかり赤くなった砂を踏みしめ必死に足を動かす。私たちと合流した後、マリキンは「フサを探してくる」と言って飛び出して言ったっきり帰ってこないのだ。流石に大切な戦力を野放しにはしておけない。それで私が探しに来た、という訳だ。
「マリキン!!何処バチか!!」
探し回っていると血溜まりの中に座り込む白い小さな背中が見えてきた。あれは多分マリキンだ。それにしてはやけに小さく、惨めに見える。
「あ!マリキン!!こんなとこに居たバチか!!早く戻るバチよ!!」
「……バチ、キン…?」
私が到着するやいなや、まるで置物のようだったマリキンはゆっくりと首をこちらへ向けた。
「マ、マリキン!?どうしたバチかその顔!!」
マリキンの両目と鼻の辺りからはボタボタと血が垂れている。確かに時々魔力の使いすぎで鼻血を出しているところは見たことがある。けどここまで酷いのは初めて見た。
「フサ、フサキン……」
うわ言ようにフサキンの名前を呼びながら腕の中を何かを大切そうに抱きしめる。それは血でドロドロの肉塊だ。
「マリキン…?な、なんバチか?それ……」
「……フサ」
マリキンは光を失った瞳でその肉塊をじっと見つめている。そして、それを震える手で俺の前に見せてきた。もはや原型もほとんど分からないけれども、赤い鉢巻きが見える。フサキンが付けていた鉢巻きだ。
「フサ、キンの……死体…バチか…?」
「……フサ」
マリキンの顔や手はすっかり青くなっていて、ボタボタと滝のように血涙を垂らし、その肉塊を宝物のように抱きしめる。
「…マリキン……」
「フ、フサぁ……」
そのうち悲しそうな嗚咽が聞こえてくる。私でも分かる。フサキンはもう二度と生き返ることはないだろう。
フサキンは私から見ても良い奴だったと思う。私たちが闇堕ちした時も止めようとしてくれたし、おつかいと称してパシリに行かせたのはまだ許していないけど手合わせだってしてくれた。情報も集めて、私たちが有利になるように尽力してくれて……今思えば私たちはフサキンにかなり助けられている。
そんなフサキンが、今目の前で息絶えている。その肉塊を抱きしめてマリキンが嗚咽を漏らしている。肉塊にマリキンの血と涙が垂れて更に赤く染まっていく。
「……マリキン、帰るバチ。フサキンも連れて、シェルターに帰るバチよ」
私が声をかけると幼い子供ようにコクコク頷いてフサキンの頭と、マントの布切れを抱えて立ち上がり、重い足取りで私の後ろを追ってくる。
「マリキン、フサキン埋葬してあげるバチよ。それが一番いいはずバチ。」
「……違う、フサ、フサ、は……まだ…」
「……マリキン…フサキンは、もう生き返らないバチ……死んじゃった、バチよ」
「…ぁ、ああ…」
ドサリと重いものが落ちた音がする。振り向くとマリキンがその場に座り込んでいた。ショックが大きすぎたのだろう。そりゃそうだ。私だってまだ気持ちの整理が追いついていない。
「マリキン、立ってバチ。早く、行かないと……」
マリキンの肩を抱えて無理矢理立ち上がらせる。そうでもしないと立てないような状況でも、フサキンの頭はしっかり抱えて離さない。大切な相棒だから。
多分、私が同じ立場でも同じことをすると思う。もしシグキンが死んだら……考えたくもない。
「フサッ、ふさぁ…」
グズグズと鼻を啜る姿はまるで幼い子供のようで、かつて英雄と呼ばれた彼の面影は見当たらない。きっと肉体も魔力も、精神も限界だったのだろうに。そこにこの追い討ちだ。きっと壊れてしまったのだ。
「……絶対に生き残るバチよ、それがフサキンに対する弔いバチ。」
「……わ”ぁ、ってる…」
必死に喉から絞り出したのであろう小さな細い言葉。後もうひと踏ん張り。そうすれば埋葬まで……
「きっと、大丈夫バチよ。」
それ以上マリキンは口を開くことは無かった。ただ、少しフサキンを抱きしめる腕の力が強くなっているように感じた。
𝐹𝑖𝑛.
コメント
4件
好 き で す 話の作り方がうまい! 初コメ失礼しました。
きゃあああああああああああああ 最高です!!!!