もしそれが曇り空だったら、雨空だったらどう感じるだろう。そう思いながら鈴木忍は崩れていく夕日を見ながら道を歩いていた。
すると、肩を強く叩かれた。
「あれー。忍が外を一人で歩いてるなんて珍しー。」 福本空だ。
空は去年転校して来たやつで、今年同じクラスになった。転校して来たこともあって友達がいなかったが、偶然家が近く、会話を交わすうちに仲良くなった。普段は強面で、近寄りづらい雰囲気があるが、笑うとまるで太陽みたいにニッコリ笑う。どこか懐かしさを感じる顔だ。
「痛ってーな。全身筋肉痛なんだ。」
「忍が運動なんて。いつも家から全く出ないのに笑」
「失礼な。俺だって動けるさ。人1人襲えるぐらい。」
「なにそれ、なんか怖い笑」
そうだ、人1人ぐらい。
俺は昔、夏休みの序盤、いじめっ子のリーダーに刃を向けたことがあった。記憶はあまりない。恨みと怒りと憎しみと憎悪と、それで頭がいっぱいだった。いじめっ子の服は赤く染まり、やがて人の形が崩れていった。
だが、俺はそこから奇妙な体験をした。まだ小学生だった俺は、事の重大さに気づいてなかったので、何食わぬ顔で日常生活を送っていた。
夏休み明け、久しぶりに学校に登校すると、いじめっ子の話題は瞬く間に学校中に広がり、ようやくそこで事の重大さに気がついた。
俺はとんでもないことをしてしまった。全身が震えた。恐怖と焦りで正気を保てなかった。だが、警察に自首することもできなく、ずっと怯えていた。家に帰り、すぐさま昔の新聞を漁った。しかし、いじめっ子の話題は載っていなかった。ニュースにもインターネットにも載っていなかった。
不思議に思い、いじめっ子を刺したあの場所に訪れた。だが、死体どころか血の跡すらなかった。
あれは夢だ。そう自分を錯覚させた。どれだけあの刺した感覚が体に残っていても、あれは幻であって現実ではない。と強く意識させた。
今になってもいじめっ子の死体がどこにあるのかわからない。
辺りが暗くなり、空の顔も見えないくらいになっていた。
「人って簡単に死んじまうよなー」気づけば俺はそう言っていた。
その瞬間、太陽みたいにニッコリしていた空の顔が暗闇からでもわかるくらいに険しくなった。
「冗談でも面白くないぞ。」
その日から空との友好関係は崩れた。学校で俺は一人ぼっちになった。空が俺の悪い噂を流したせいだ。次第にイジメと思えるくらいに進化し、やがて学校に行くのをやめた。空には悪いことをしたと思っている。申し訳ないことをしたと思っているが、やがてそれが、恨みに変わっていった。
怒りが溢れ出し、憎悪を抱く。もう止められない。
「空、謝りたいことがある。」
空をあの場所に呼び出した。殺すならあの場所しかない。人の形を失ったように俺は道の上を震えながら歩いていた。
「謝りたいことってなんだ?」
空がそう言うと、俺は全てを曝け出して叫んだ。
「お前を殺すためにここに来た!!」
刃を振りだし、力強く振りかざす。全てを捨て去る覚悟で暴れた。筋肉が痺れるのも関係ない。
もしそれが夢や幻だったらどう感じるだろう。
空が消えそうな声で言った。
「僕は死なない。何回でも君の隣に行く。あの時から….ずっと….。君がはじめての友達だから..。」
鈴木忍は崩れていく空の笑顔を思い道を歩いていた。
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