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なんか寂しげ😭😭 しょここーんの方もみてくるねー!
今回はsyokokoとの合作作品です!
遅くなってごめんね😭
桃青(病気パロ)
START
春。
桜の花びらが、教室の窓をゆっくり流れていった。
俺の視線の先では、黒板の前に立つ先生の声がぼやけて聞こえている。
けど、隣の席から聞こえた小さな咳の音に、意識がそっちに向いた。
――まただ。
「おい、いふ」
「ん、なんや?」
「お前、最近よく咳してね?」
「そやな。……まあ、春やし。花粉やろ」
軽い調子で返してくる。
でも、その顔色は、笑いながら話してるくせに妙に白い。
俺といふは中学からの付き合いだ。
いつも一緒に登下校して、くだらない話をして、馬鹿みたいに笑ってた。
高校に入っても同じクラスになって、当たり前のように隣の席に座った。
――だからこそ、わかる。
こいつの笑い方が、ほんの少しだけ“無理してる”ときの笑顔だって。
「……なあ」
「なんや、そんな顔して」
「ほんとに平気なのか?」
「心配性やなぁ、ないこは」
言いながら、いふは窓の外を見た。
風に揺れる桜を、何か思い出すみたいに見つめていた。
放課後。
部室棟の屋上に、いふが座っていた。
夕陽が沈む校庭を見下ろして、足をぶらぶらさせながらコンビニパンをかじっている。
「お前、勝手に屋上入るなよ」
「はは、うるさいなぁ。ええやん、先生おらんし」
俺も隣に腰を下ろす。
風が吹くたびに、いふの髪が少し揺れた。
その横顔が、やけに静かに見えた。
「なあ、ないこ」
「ん?」
「もし俺がさ、いきなり倒れたらどうする?」
突然そんなことを言うから、思わず振り向いた。
「は? なにその不吉な話」
「いや、別に。ただの例え話や」
「縁起でもねぇよ」
「そっか」
短く笑ったあと、いふは胸のあたりを押さえた。
少し苦しそうな顔。
「おい、ほんとに大丈夫か?」
「……ちょっと、痛むだけや。なあ、夕陽きれいやな」
話を逸らすように、夕焼け空を見上げた。
それ以上何も言えなかった。
怖かった。
この沈黙の向こうに、何か“終わり”みたいなものが見える気がして。
翌朝。
いふが学校に来なかった。
LINEを送っても既読がつかない。
放課後になっても連絡がなくて、胸の奥がざわざわした。
その夜、いふの母親から電話がきた。
『いふくん、少し体調を崩して……入院してるの』
その一言で、世界が音を立てて崩れた気がした。
病室。
白いカーテン、白いシーツ、白い壁。
消毒液の匂いが鼻を刺す。
「……ないこ」
ベッドの上で、いふが笑っていた。
けど、笑顔の奥にある疲労は隠せていない。
腕には点滴、胸元には心電図のコード。
「なんで、黙ってたんだよ」
「言うたら心配するやん。お前、そういうとこ真面目やし」
「当たり前だろ。友達なんだから」
「……友達、な」
その言葉の響きが、少しだけ沈んで聞こえた。
「心臓、悪いんや」
「……」
「生まれつきやねん。けど、最近また悪くなっとるって。薬も効かんようになってきたらしい」
淡々と語る声が、逆に怖かった。
「……手術とか、できねぇの?」
「できる。でも、リスク高いらしい」
「なんだよそれ……」
「しゃあないやろ。……ないこ、そんな顔すんな」
いふは笑った。
笑って、弱々しく咳をした。
胸の奥が、ギュッと痛む。
日が暮れて、病室にオレンジ色の光が差し込んだ。
いふはベッドから半身を起こして、窓の外を見ていた。
「なあ、ないこ」
「ん」
「俺な、前から思っててん」
「なにを」
「“普通”って、ええなって」
「普通?」
「せや。朝起きて、学校行って、くだらん話して。昼飯食って、帰ってゲームして……そんなん全部、俺には当たり前やなかった」
言葉が詰まった。
いふの声は穏やかだったけど、どこか遠くを見ているようだった。
「俺の心臓、ちょっとズルいんや。時々な、“もうええか”って止まりかける。でもそのたびにな、思い出すんや」
「なにを」
「お前のこと」
目を合わせられなかった。
視線を逸らしたら、涙がこぼれそうだったから。
「お前と話してると、生きてる感じするんや。不思議やな」
そう言って、いふは照れくさそうに笑った。
その笑顔に、少しだけ光が戻った気がした。
次の日。
学校の昼休み、俺は屋上で空を見上げていた。
昨日の会話がずっと頭の中でリピートしていた。
――俺の心臓、止まりかけるたびに思い出すんや。
その言葉が離れない。
何もできない自分が嫌だった。
あいつが笑うたび、痛みを隠してることも知ってる。
それでも、どうすればいいのかわからなかった。
気づけばポケットからスマホを取り出していた。
『明日、見舞い行っていい?』
送信。
数秒後、既読がついて――
『待ってるで。プリン買ってこいな。』
そんなメッセージが返ってきた。
涙が出そうになった。
なんだよそれ、いつも通りじゃねぇか。
翌日。
病院の自販機でプリンを買って、病室をノックする。
「いふ、来たぞ」
「おお、ないこ。ほんまにプリン持ってきたんか」
「当たり前だろ」
「優しいなぁ。惚れてまうやろ」
「は?」
「冗談や冗談。……けど、ほんまにな。お前おらんかったら、俺多分もっと弱っとるわ」
そう言って、いふは窓の外を見た。
遠くで春の雨が降っていた。
「ないこ、知ってるか?」
「なに」
「心臓って、痛いだけやないんや。たまに、嬉しいときにも苦しくなるんやで」
「……それ、どっちの意味で言ってんの」
「さあな」
いたずらっぽく笑う。
けど、その笑顔の裏に少しだけ涙の色が見えた。
帰り際、ドアの前でいふが言った。
「なあ、ないこ」
「ん?」
「もし、手術受けることになったら……ちゃんと見送ってくれるか?」
その言葉に、胸がきゅっと縮んだ。
「そんなこと言うなよ」
「言わなあかん。……怖いけど、俺、逃げたくないねん」
「馬鹿か。怖いなら怖いって言えよ」
「怖いよ。……でもな、もっと怖いのは、お前に“さよなら”言えんまま消えることや」
その声が震えていた。
だから、俺は強く言い返せなかった。
ただ一歩近づいて、いふの手を握った。
冷たくて、でも確かに温もりがあった。
「絶対に戻ってこいよ」
「……うん。約束や」
いふは小さく笑って、俺の指を握り返した。
病室を出るとき、振り返った。
白いシーツの上、静かに息をしているその姿。
窓の外では、雨が少し止んで、光が差し込んでいた。
その光が、いふの胸の上で小さく揺れていた。
まるで、心臓の鼓動みたいに。
前半end
続きはしょこのほうで!
改めて、遅くなってごめんね😭