「ちょっと待てよ!」
「待たない!」
「待てって!」
「ヤダッ」
「待てって言ってんだろ!」
俺はマナに追いつくと腕を掴んだ。
「離して! 私のことは放っておいてよ! 私が他の誰かのものになってもいいんでしょ?」
「――――」
「私が幸せなら、それでいいんでしょ? 全然平気なんでしょ?」
「――――」
「もういいよ! 追いかけてこないで!」
するとマナは俺の手を振り解くと、俺の胸を手で突き飛ばしてきた。
「ふざけんな! いい訳ねえだろ! 平気でいられる訳ねえだろ! 俺はお前のことが好きなんだぞ! 好きな奴が他の男と一緒にいるだけで、胸が苦しくて切なくてたまらないのに、お前が抱かれてるなんて考えたら胸が引きちぎられるようで、いてもたってもいられないんだよ!」
「圭ちゃん――」
「お前が好きなんだよ! 好きなんだ――俺じゃ駄目なのか? 俺じゃマナを幸せにしてやれないか?」
「そっ、そんなの私に聞かれたって困る――。でも1つだけ言えることは、こんなバカでどうしようもない私をずっとずっと傍で見守ってくれる人なんて世界中を探し回っても、たった1人しかいないよ」
マナは涙をボロボロ流しながら、俺をジッと見つめていた。
「マナ――10年後も20年後も50年後も100年後もずっと傍にいてくれないか? 何も出来なくてもいい。バカでもいい。ただ俺の隣で笑っていてくれさえすればそれでいい。だから――」
「圭ちゃん、私の初恋の人って誰だか知ってる?」
「初恋の人? 俺が知る訳ないだろ」
「だったら教えてあげる」
マナはそう言った後、何も言わずにただ俺を見ていた。
「誰なんだよ?」
マナは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに俺を見ていた。
「誰だよ?」
するとマナは、1度だけゆっくりと瞬きをした後、俺を見て微笑んだ。
「おっ、俺なのか?」
「そうだよ、悪い?」
「そんなの初めて聞いたんだけど――」
「いつも言ってたじゃん。〝圭ちゃん、だ~い好き〟って」
「あれは俺が食べ物とか飲み物をおごってやったから言ってたんじゃないのか?」
「勝手に圭ちゃんがそう思ってただけでしょ! 私は好きだから好きって言ってたんだから」
確かにマナの言う通り、〝圭ちゃん、だ~い好き〟ってしょっちゅう言われていた。でもまさか、その言葉がマナの本気の想いだなんて誰が考えるだろうか――。
「本気で言ってたのか?」
「好きでもない人に、好きなんて言う訳ないじゃん」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!