テラーノベル
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「どッ……!」
フレディが色を失ったのと同時に放たれた弾丸は、だれを傷つける事なく私の頭上十センチを通ってドアの上に叩き込まれる。
私に当たらないよう、咄嗟に銃口を逸らしたんだ。
その一瞬が隙を作る。
赤い舌がしなって飛び、彼の手から銃を弾き落とした。
舌打ちをして飛び退くと、腰のベルトから細い木の杭を引き抜く。
狂った蛇の舌の一瞬のスキを捉えて、その舌に突き立てた。
ギャアッと短い悲鳴が上がる。
木の杭が一瞬にして黒い炭に変わった。
その機を逃さず、流れる動きで冥使の鳩尾に蹴りが入る。
響く咆哮。
それでも伸びてくる舌を右手で掴みながら、叫んだ。
「姉ちゃん、銃を!」
呆然と立ちすくんでいた私は、はっと我に返る。
銃!?銃!どこ!?
焦って見渡すと、水場のすぐ近くに銀の銃が落ちていた。
あった!
駆け寄ってそれを拾う。
「フレディ!」
渡そうと振り返るが、めちゃくちゃにうねる舌と格闘しているフレディに近寄る隙がない。
どうしよう、近づけない!
「くそ!」
素早く視線を私に投げた。
「姉ちゃん!」
「!はい!」
「姉ちゃんが撃って!今俺がこいつの動き、止めるから!」
「で、でも、私、銃なんて!!」
「当たればいい!引き金を引くだけだ!反動があるから、ちゃんと持って!……いくよ!」
そう叫ぶと、左腕を自分から冥使の舌へ押し付ける。
ブスっと尖った舌の先端が腕に潜り込んだ。
獲物は捕えられたせいか、舌の動きが鈍くなる。
その隙を捉えて、フレディはもう一度鳩尾に蹴りを入れた。
がくんと冥使が膝をつく。
「撃って!」
震える手で銃を構えた。
情けないほど、銃が揺れる。
どうしよう、銃なんて撃ったこと!
「早く!!どこでもいい!!」
震える銃口を冥使の胸に向けた。
そして血で濡れた服のわずかに残るオレンジ色のロゴめがけて。
オレンジのロゴ?
心臓を針で撃ち抜かれた気がした。
まさか。まさか!
「マシュー……?マシューなの……!?」
私より少し高い背丈。
ちょっと癖のある赤毛。
サイズの合ってないトレーナー。
全てがマシューを示している。
「嘘でしょう……マシューまで!!」
「姉ちゃんッ!!」
フレディの悲鳴の声。
ブシュッと舌の尖端が、腕から抜けた。
「ガアアッ!!」
同時にマシューがフレディの顎を掴む。
そのまま引き下がると、小さな彼は易々と宙に浮いてしまう。
間髪入れず、彼はフレディを壁に叩きつけた。
どさりと彼の体が床に崩れる。
ぐるりと冥使がーーマシューがこちらを向いた。
「ア、アァ……」
「!」
理性を失った赤い目が私に照準を合わせる。
体の重心を左右で揺らす足取りで、近づいてくる。
構えたままの銃がブルブル震えた。
撃たなきゃ!あれはもう……マシューじゃないの。
「ウァ……」
マシューじゃ……。
ーーレナ。
耳に明るい声が甦る。
照れ屋で優しいマシューの声。
おどけてたくさん私に笑顔をくれた……。
「撃……てない……」
歪む視界の向こうで、冥使が吠える。
「撃てないわよ、マシュー!」
「ガアアァッ!!」
「姉ちゃんッ!!」
私めがけて舌が飛び出したのと同時に、小さな体が私を突き飛ばした。
壁にぶつかるようにして倒れ込み、舌の刃は代わりにフレディの肩を貫く。
勢いと衝撃で床を一回転した。
体勢を立て直す間もなく、マシューが彼に覆い被さる。
「フレディ!!」
傷を負った肩に爪が食い込み、フレディの顔が苦痛に歪んだ。
その顔めがけて、舌が伸びる。
彼は眼前でその舌を掴んだ。
舌はめちゃくちゃにうねる。
「……撃ってッ!」
「!」
フレディの声に、握りしめたままの銃の存在を思い出した。
その時狂った大きな舌がしなって、捕らえていた彼の手が外れる。
その一瞬をついて、舌は彼の口の中へ飛び込んだ。
「!!」
差し込まれた舌が、どくんどくんと脈を打ち始める。
フレディの口からごぼごぼと血が溢れた。
吸われているのではなく、血が送り込まれている?
耳鳴りがした。
脳を蝕む異音。それは本能が鳴らす警告音。
「マシュー、やめて……」
銃を握り、震える足で立ち上がる。
ーー覚えようよ、泳ぎ。オレ、教えてやるから!
「お願い……」
両手で銃を構えた。
ーー今度の夏にみんなでキャンプ行こうって計画してるんだ。
銃口の向こう、マシューの姿が涙でぼやける。
ーーだから早くよくなれよな。
「マシュー!!」
私の手の中で、銃が叫んだ。
予想した以上の発泡の衝撃に、尻餅をつく。
同時に彼が絶叫。
その瞬間、彼がマシューの舌を噛みちぎった。
そして腰から尖った木の杭を引き抜くと、彼の胸に突き立てる。
断末魔の悲鳴って、こういうのを言うだろう。
絶叫と大量の血飛沫と共に、マシューは倒れた。
全てのことがスローモーションに見える。
握りしめたままの銃。
手がこわばってトリガーから指が外せない。
激しい耳鳴りがして、現実じゃないみたいで。
その時フレディが勢いよく起き上がり、私はビクッと体を震わせた。
彼はその場でべっと血を吐き出すと、座り込む自分に目もくれず水場に駆け寄る。
頭から水を被って激しく嘔吐しながら、何度も口の中を洗い流した。
何度も、何度も。
コメント
1件
読んだ……うん、もう胸が苦しくなった。マシューだったんだね……あの優しかったマシューが冥使になっちゃってるの、辛すぎるよ。撃てなかった気持ち、すごくわかる。だって弟みたいな存在だもんね。フレディの「撃って!」って声が切実で、最後の場面の静かな絶望感が刺さった。でもフレディも必死で戦ってて、その姿に泣きそうになったよ。
#一次創作
ruruha
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