テラーノベル
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辺り一面が、真紅に染まる。中心に立っているのは、███。
「███…?」
声が震えて、名前が上手く言えない。手が、体が震える。
「✕さん。俺ね、✕さんのこと……」
笑っている。だけど、昔見た笑顔よりもずっと怖い。
「██████████」
————————————
「ッ……」
嫌な夢を見た。また、“あの子”の夢。手が、体が震える。ポタッと、手の甲に冷や汗が落ちる。
「夢……また夢…。もう、何ヶ月経ったと思ってるのよ……」
震える自分を落ち着かせるために腕を抱く。とりあえず、震えが治まったら水を飲みに行こう。
「……はぁ…」
ベッドから降り、立ち上がる。ふと、ドレッサーの鏡が目に入る。目の下には隈が浮かんで、酷く疲れた顔をしていた。
「仕事もあるのに…ちゃんと眠らないといけないのに…」
最悪、隈は化粧で隠せる…だけど、疲れは隠せない。早く水を飲んで、もう一度寝よう。そう思って、私は早足に部屋を出る。そして、キッチンの方へ向かう。食器棚を覗けば、この家に住んでいる子達のお気に入りの食器と、自分の食器が目に入る。食器棚の奥から、昔弟がプレゼントしてくれた水色と緑色のマグカップを手に取る。
「…懐かしいわね…」
こういう悪夢を見る日は決まってこれを使うと決めているのだ。最初は水を飲むはずだったのに、気づくと入れていたのは暖かいココア。
「偶には…ね」
レイチェルがよく飲んでいた、あの子のお気に入りのココア。一口飲むと、口の中に甘い味が広がると同時に、心まで温まるようだった。
「アナベルも、眠れなかったのかい?」
そんな時、ふと後ろから話しかけてきたのは黒髪のアイツ…カトラーだった。私と同じようにマグカップを手に取る。
「そんなこと聞くって事は、あんたもなのね」
アイツはマグカップに珈琲を入れながら言葉を続ける。
「少し、酷い夢を見てしまってね…」
そう言うアイツは、酷く辛そうな顔を隠すように笑った。
「……こんな夜中に珈琲なんて飲んだら更に眠れなくなるわよ。ただでさえ寝不足なくせに」
ココアを飲む手を止めて、そう私は呟いた。いつも寝不足で、皆よりも沢山仕事をしていて、疲れなんて殆ど取れて無い様子のアイツを見るのはもう嫌だった。
「……眠りたくないんだ」
ズキリと、心が痛む。
「……そう。なら、せめて珈琲じゃなくて、ハーブティーにしなさいよ。私のお気に入り、淹れてあげるわよ?」
ピタ…と、珈琲を入れる手が止まった。
「…珍しいね、いいのかい?」
まさか本当に乗ってくるとは思ってもいなかった。
「勘違いしないでくれる?あんたがあまりにも酷い顔してるからよ」
いつもの癖が出てしまい、ティーバッグを入れる手がすこし荒くなる。
「あはは…手厳しいね…」
そんなことを聞きながら、私はティーバッグを入れたマグカップにお湯を注ぐ。優しいハーブティー…カモミールティーのいい香りがキッチンに広がる。
「…いい香りだ」
少し待てば、ティーバッグを取り出しマグカップを彼に渡す。
「カモミールにしたから、飲めばきっとよく眠れるわ」
カモミールは、胃にも優しいと聞いたことがある。ろくに休もうとしないアイツには、きっと丁度いい。
「ありがとう……ああ、美味しいね」
胸の奥の重さが、ほんの少しだけ和らいだ気がした。
「当然でしょ。私が淹れてあげたんだから」
またこんなことを言って、自分の感情を隠す。本当に悪い癖だ。
「あはは、そうだね…アナベルが淹れてくれたハーブティーは、どの店で飲むものよりも美味しいよ」
なんてことを言うのだろうか、目の前の人は。本当に私のことを喜ばせたいのか…と、内心少し荒ぶってしまいそうなところを必死で抑える。
その後、暫くは静かな時間が続いた。お互い、ココアとハーブティーを飲みながら、自分たちの心を落ち着かせる。
「アナベル」
ふと、ココアも飲み終わりそうな頃、アイツが私の名前を呼んだ。
「少しだけ、御伽噺をしないかい?」
なんて、突拍子もないことを言い出すものだから、私は少し反応が遅れてしまった。
「……唐突ね…」
ココアを飲む手を止めて、話を聞く。
「ふと思い出してね……悪い夢を食べる、バクの話を」
バク…昔母親から聞いたことがある。元は隣国の話だったけど、この国に伝わってから少し内容が変わったらしい。
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紅葉@物語作成中
88
#能力
めんだこ
802
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「バクは、悪い夢を食べてくれるらしいんだ。尤も、空想上の動物だけどね」
「……だけど、案外悪い夢を食べてくれる存在っていうのは、空想の中だけじゃないかもしれないな…って」
アイツの言いたいことが、何となくわかった。
「…そうね。バクはいなくても、バクに似た“誰かさん”は居るかもしれないわね」
最後にひとくち、ココアを飲み終わらせて、私はそう言った。
「おやすみ、カトラー」
案の定、カモミールティーを飲み終わった後、アイツは眠ってしまった。マグカップを流し台に置いて、アイツをおぶる。私よりも年上で、私より身長が高くて、男なくせに、きっと私よりも軽い。ちゃんと食事を食べているのか分からなくなる。
「はぁ……本当にバカ…」
最初は、ただ眠れなくて落ち着こうと水を飲みに来ただけだったのに、結局二時半まで起きてしまった。あと眠れる時間は二時間半…。コイツを寝室に連れていったら、私も寝よう。そう思って、私はアイツの寝室に入る。部屋は綺麗に整頓されていて、とてもアイツらしいな…なんて思ってしまった。そして、私はベッドにアイツを寝かせた。その時ふと目に入ったのはサイドテーブルに置かれたスマホ。
「アラーム…消しといてやろうかしら…」
スマホを手に取って、パスワードを打ち込む。昔教えてもらったパスワードは、今もまだ変えられていなかった。
「本当にバカ……流石に変えときなさいよ…」
いたずらする気も無くなって、何もせずにスマホを置く。きっと、パスワードを変えてもまた教えられるんだろうな、なんて思ってしまう。
静かに部屋を出て、ゆっくり扉を閉める。
「悪い夢なら、私が食べてあげるわ」
そして私も、自分の寝室へと戻って行った。
コメント
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読了しました。夜中に二人が向き合う静かな時間の描き方が、とても繊細で好きです。アナベルが強がりながらもカトラーを気遣う台詞の一つ一つに、彼女の優しさがにじみ出ていて、胸がぎゅっとなりました。最後の「悪い夢なら私が食べてあげる」という言葉が、この作品のすべてを象徴しているようで、切なくも温かい気持ちになりました。素敵な物語をありがとうございます🌙