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アクチュアリティ女王へ
君からの手紙、楽しく読ませてもらったよ。
ヴァニティがそちらで「存分に」腕を振るったようで、何よりだ。
あの赤い帽子を愛用する、我が愛らしき料理人が――
君の誇る、あの真っ白な箱庭に。
これほど鮮やかで、これほど執念深く、そして消えることのない赤を刻みつけたというのなら……
私としても、実に鼻が高いというものだ。
もっとも。
本人は帰ってくるなり、
「二度とあんなところ行かない」
などと、随分と不機嫌そうに包丁を研ぎ直していたがね。
あれほど露骨に嫌そうな顔をするヴァニティを見るのも、なかなか愉快なものだったよ。
彼女は少々、潔癖でね。
命というものが何なのか。
恐怖が何を意味するのか。
そして、死の間際に生きようとする意思がどれほど美しいものなのか。
おそらく、彼女は誰よりも理解している。
ただ――
それらすべてを、彼女は「料理」という一つの形にしかできない。
血も。
恐怖も。
絶望も。
命そのものさえも。
彼女にとっては、最高の一皿を完成させるための素材なのさ。
だからこそ、君のような存在には弱い。
痛みを恐怖ではなく恍惚へ変えてしまう。
傷つくことすら受け入れ、むしろそれを望んでしまう。
彼女が積み上げてきた「完璧な解体理論」からすれば――
君は、あまりにも規格外の食材だったのだろう。
……いや。
食材ですらなかったか。
「料理人の理屈そのものを狂わせる存在」。
そう考えると、実に興味深い。
さて。
君からの手紙には、次のお客様を望む言葉があったね。
その願いに応えて――
すでに準備を始めているところだ。
次にそちらへ向かうのは、キラーではない。
我が領域FORSAKENで、幾度となく殺戮と逃走を繰り返している――
ひとりのサバイバーだ。
とても純粋な子だよ。
慈悲深く。
他者を傷つけることを嫌い。
そして何より――
途方もないほどの「包容力」を持っている。
どれほど酷い絶望を見せられても。
どれほど世界が歪んでしまっても。
それでも誰かを愛することを、決して諦めない。
自分が傷ついても。
自分が苦しくても。
他人の痛みを見つければ、その人を抱きしめようとする。
まったく。
困った子だよ。
この世界では、優しすぎるということは時として弱さにもなる。
けれど――
だからこそ、美しい。
華奢な身体のどこにそんな力があるのかと思うほど、あの子は他者を受け止めようとする。
人の痛みも。
世界の歪みも。
自分ではどうにもできない悲しみさえも。
全部、自分の両腕で抱きしめようとするんだ。
実に人間らしい。
実に脆い。
そして――
実に強い魂だよ。
だから、少し気になっている。
君のSWAPSAKENと、あの子が出会ったらどうなるのか。
君の世界が持つ、静かな愛。
拒絶することすら許さない、優雅な秩序。
苦痛さえ別の意味へと反転させてしまう、あの独特な法則。
それらすべてを、あの子はどう受け止めるのだろうね。
逃げるだろうか。
拒絶するだろうか。
それとも――
いつものように、すべてを受け入れてしまうのだろうか。
もし後者なら。
君の「愛」と、あの子の「慈愛」。
相反するようでいて、どこか似ている二つのものが出会った時――
いったいどんな形になるのか。
私は、とても興味があるよ。
もしかすると。
君の白銀の箱庭そのものが、今までとは違う姿を見せるかもしれない。
あるいは。
あの子自身が、君の世界に呑み込まれてしまうかもしれない。
……それとも。
君のほうが、あの子の優しさに呑み込まれるのかな?
ふふ。
どちらに転んでも、面白そうじゃないか。
安心して待っているといい。
終わりのないゲームの合間に――
またひとつ、素敵な余興を届けよう。
今度のお客様は、包丁を持っていない。
牙もない。
殺意すらない。
ただ、人を愛そうとする心だけを持っている。
だからこそ――
君の世界で、その心がどこまで耐えられるのか。
私も楽しみに見届けることにしよう。
それでは。
白銀の女王よ。
次の「お客様」を、どうか丁重に迎えてあげてくれ。
現世の捨て子たちの主より
スペクター
城プル
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