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第49話 〚花火大会直前、忍び寄る視線〛 (恒一)
――行くんだ。
恒一は、
その事実を知った瞬間から、
胸の奥がざわついていた。
花火大会。
夜。
人混み。
そして――
橘海翔と、白雪澪。
(……当然だよな)
誰が見ても分かる。
あの二人の距離は、もう――。
恒一はマスクの奥で、
小さく息を吐いた。
教室で、
廊下で、
雨の中で。
何度も見てきた。
澪が、
橘を見る目。
自分には向けられない、
あの柔らかさ。
(俺の方が、先に好きだったのに)
中二の運動会。
走る澪を見た、あの日。
胸が熱くなって、
世界が澪だけになった。
――あれは、本物だった。
なのに。
「……花火、綺麗だろうな」
誰に言うでもなく、
恒一は呟く。
スマホの画面には、
偶然知ってしまった待ち合わせ場所。
(偶然、だよ)
自分に言い聞かせる。
行くつもりなんて、
なかったはずなのに。
足は、
もう準備を始めていた。
マスクを外し、
鏡を見る。
(……変わらない)
顔立ちは、
前から変わっていない。
女子が騒ぐ理由も、
分かっている。
でも――
そんなもの、どうでもいい。
澪が、
俺を見ないなら。
夜の風が、
カーテンを揺らす。
恒一は、
ゆっくりとマスクをつけ直した。
(見るだけだ)
(話しかけない)
(壊さない)
――本当に?
胸の奥で、
別の声が囁く。
あの距離を、許せるのか?
花火の下で、笑う二人を。
恒一は、
答えを出さないまま、
部屋を出た。
夜の街へ。
花火大会が始まるまで、
あと少し。
そして、
誰にも気づかれない視線が――
静かに、近づいていた。
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