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反射的に距離を取ろうとして、手に違和感を覚えて見ると、手首に水が巻き付いているのがわかった。両手首を拘束するように纏わりついているそれは、きっとこの男の異能。
水なら電気を使えば突破できると、阿部の目が碧色になるが電気が放出される気配がまるでない。
💚「え、なんで……?」
「俺の水は純水だからな。逃げらんねえよ」
ハッとして駆け出そうとする阿部の首に腕が回り、強い力で押さえつけられてしまった。
❤️「阿部!」
💙「阿部ちゃん!!」
心配するようなゆり組の声。
体の向きを無理やり変えさせられて、宮舘と渡辺に見えるように向かされた。
「おっと、動くなよ。動けばこいつの体内の水を一瞬で沸騰させる」
💙「……くそっ」
苦々し気に眉を顰める渡辺と宮舘。
そして、二人を囲むように立っている者達が十人ほど。この男の仲間であることは明白だ。
❤️「目的は何?」
「ハハッ! 久しぶりだなぁ、ゆり組。会いたかったぜ」
💙「……え……誰? 舘さんの知り合い?」
❤️「いや、全く」
💚「え? ウソでしょ? こんな感じに登場して、知らないの?」
💙「ぜんっぜん」
❤️「どちら様でしょう」
はて?というように首を傾げてしまった渡辺と宮舘に、阿部は二人の悪いところが出てるなぁと頭を抱えたくなった。
興味ない事にはとことん無頓着で、頭からすっかり抜けてしまう。
「俺だよ! 高校の時に一緒だった、浦川!!」
💙「……あー……誰?」
❤️「さあ?」
💚「……名乗っても分かんないんだ……」
「こんのっ! 舐めやがって! お前らはずっとそうだ! 高校の時も、お前らが転校して来る前は俺が学年で一番目立ってたのに、あっという間にみんなの心を奪っていきやがって! それ以来、誰も俺に見向きもしなくなったじゃねえか!」
💙「そんなことあった?」
❤️「さあ? そんなキャーキャーされた覚えもないけど」
💚「……それ、別に舘様も翔太も悪くなくない?」
「ゆり組尊い! って言われまくってたんだよ!」
💚「うん、その気持ちは分かる」
💙「阿部ちゃんもゆり組好きだよねぇ」
💚「なんかその関係性がすでに尊いじゃん」
「そうやってちやほやされまくってただろ! 勉強は全くできなかった癖に!」
💙「勉強できなかったのなんて最初だけじゃね? 阿部ちゃん来てからは俺らだってやってたし」
❤️「俺、阿部の授業すごい好きなんだよ」
💚「あ、ありがとうございます」
「探偵団やってるっつってまたモテて、そしたら今度はなんだ? こんな可愛い子とデートかよ! ざっけんな!」
💙「……阿部ちゃんが可愛いのはまあ、そうだけど」
💚「え?」
❤️「阿部が彼女っぽく見えるのもまあ、そうだけど」
💚「ええっ?!」
💙「なんか違くない? え、羨ましいわけ?」
「ああ、そうだよ! めちゃくちゃ羨ましいよ!」
💚「そこ認めちゃうんだ」
「こいつが《白耀-はくよう-の姫》だろ? 羨ましいに決まってんじゃねえか!」
聞いたことのない単語に、阿部が目をぱちくりさせる。
💚「ええと……なにそれ?」
💙「あ。阿部ちゃん知らないのか」
💚「へ?」
❤️「まあ、本人の耳に届くようなものでもないからね」
「とにかく、白耀の姫は俺らX-CHARGERがいただくぜ!」
💚「なんか目的変わってない? ゆり組への恨みはどこへ?」
「お前ら! ゆり組を思う存分やっちまえ!」
💚「目的ブレすぎだからっ!」
最早、和やかムードになっていたけれど、当初の目的はやはりゆり組への恨みを晴らすということなのだろう。
全力でゆり組に向かっていく、X-CHARGERの者達。
阿部が捕まっていることで抵抗できず、一方的に殴られ蹴られ、暴力を受けている渡辺と宮舘の二人。
浦川は自分の異能で阿部の体内の水を沸騰させると言っていた。そして、ずっと浦川の手が阿部から離れない。
捕まえているからだと思っていたけれど、もし、触れていないとその能力が使えないのだとするならば、何とかして離れなければ。
使えそうなのは、先ほどの会話の中にあった。
あまり乗り気はしないけれど、二人の為にもやるしかない。
💚「浦川、さん?」
「ん? 何だ?」
💚「この水の異能、凄いよね。自在に操れる感じだから、もっといろんな形もできるのぉ?」
いつもより、ちょっと甘めの声を出してみる。
「お? お、おう! もちろん! え、見たい? 見たい?」
💚「みたぁい!」
「じゃあ、特別な!」
声だけで分かる上機嫌さ。単純でありがたい。
そう言って、阿部を捕まえているのとは逆の手を前に出すと、目の前に水で熱帯魚の形ができあがった。
💚「おぉー」
「まだまだ!」
エイ、マンボウ、ペンギン、ラッコ、オットセイ、イルカ、クジラなど様々な海の生き物がオオカミほどの大きさで出来上がる。
水で作っているからか、水族館にいるからか、海に関連するものだらけなのは何か意味があるのだろうか。もしかしたら、自分が今見ているものや知っているものの姿しか作れないのだろうか。
一方のゆり組は、羽交い絞めにされて殴られたまま、水で作り上げられる生き物たちを呆然と見ている。
今、あいつは何をしているのだろうか、と。
💚「すごぉい。もう一つの水族館みたいだねぇ。でも俺、実際にはいないものも見てみたいかも。例えば、龍とか。できるぅ?」
少し腕が緩んできたから首を傾げて上目に見ると、浦川の顔が赤くなった。
「りゅ、龍かー……よしっ、じゃあ、とっておきだ!」
それまで出来ていた海の生物が全て消え、一ヵ所に集まると吹き抜けを縦に長く伸びていく。
そしてそれは伸びながら細長い龍の姿へと変貌していく。
💚「わあぁ。すっごいね!」
手首を拘束されたまま、小さく拍手をする。
その姿がどう映ったのかは、浦川の顔を見ればすべてを物語っていて、もう目がとろけてしまっている。
「そ、そんなに好きなら特等席で見せてやるよ!」
龍がこちらに向かって来ると浦川が阿部から離れて、龍が阿部の体に巻き付いて空中に浮かび上がった。
💚「おおー!」
「どうだ! すげーだろ!」
💚「うん! 思惑に乗ってくれてありがと♡」
「……へ?」
💚「舘様!」
そこでようやく、阿部の真意を理解した宮舘から発生した冷気で周囲にいた者達を引きはがした。
そして阿部を取り巻いている龍の尻尾から瞬時に凍り付いていき、その途中で阿部の手を拘束している水をも凍らせていった。
❤️「これで、阿部を取り巻いてる水の支配が俺に変わった。翔太、遠慮しないでいっていいよ」
💙「あー、散々好き勝手やりやがって。覚悟しろよ、お前ら」
渡辺が右手を横に出すと、右手の上で小さな赤い種が膨れ上がり形を成していく。それはどんどん成長して大きくなり、赤いハート形の葉っぱのような苞の中央に黄色く細長い花が咲いた。
その花が一度揺らめくと、周囲に霧状のものが発生してその場にいるX-CHARGERの者達へと降り注いだ、次の瞬間。
「ぎゃあああ!」
「ひいいいぃぃい!」
あちらこちらで悲鳴が上がる。
「痒い痒い痒い痒い痒い!!」
「何なのこれぇ!!」
体中を掻きむしり、その場で悶え苦しむ者達。
それを、眉を顰めて見下ろす渡辺。
💙「アンスリウムって花の毒だよ」
「毒!? そ、そんな!」
💙「と言っても、かぶれるだけだから今すぐ皮膚科に行ったら治るけどな」
それを聞いた瞬間に、痒みで転げまわっていた者達が一斉にダッシュしてその場からいなくなった。それは一目散という言葉がよく似合うほどのスピード感で、この場に残されたのは浦川のみ。
渡辺も宮舘も、浦川を見据える。
「ひぃっ」
小さく漏れた情けない声。二人に凄まれただけで腰が抜けてしまったらしい。渡辺からも宮舘からも殺気が漂っているから無理もないだろう。
💙「こいつどうする?」
❤️「相手する価値もないんだけど、ここまでされて放っておけるほど心広くないんだよね」
💙「同じく。再起不能にしたいくらいだけど……」
言いながら阿部を見上げると、ブンブンと全力で首を横に振っている。
💚「ゆり組に攻撃したのは許せないけど、やりすぎダメ!」
💙「俺ら、阿部ちゃんのことで怒ってんだけどなー……」
❤️「でもその阿部がダメって言うなら、やっぱ再起不能はダメじゃない?」
💙「……はぁ。しょうがねえ。警察には捕まってほしいし、ギリギリのとこ攻めてやるよ」
もう涙目になっている浦川。
「や、やめ……」
💙「はあ? やめるわけねえだろ。結構キレてんだよ、こっちは」
渡辺が右手を上げると赤い花びらが数枚浮き上がって硬質化する。
💙「ぜってー動くなよ」
右手を下ろすと全ての花びらが浦川に向かっていって服だけを切り裂いた。パンツ一枚だけを残して。
直後、浦川の真下の床から氷の塊が突き出し、浦川を宙に押し上げた状態で浦川の体を凍らせる。
何とも無様で不格好なその姿は見るに堪えないので、渡辺と宮舘が視線を送るような事はない。
背を向け、阿部の方に向かった宮舘が氷に触れると弾けるように氷が砕けて、落ちてきた阿部を宮舘が受け止める。
❤️「阿部、平気?」
💚「うん。ありがとう、舘様。二人とも、ケガしたとこは? 手当てしなきゃ」
💙「や、大丈夫だから」
💚「でも、あんなに殴られたり蹴られたりして、痛かったよね……」
💙「あれさ。実はあんま当たってないんだよね」
💚「え? どういうこと?」
💙「こう、当たる瞬間に体引いてリアクションでかくしただけ。殺陣みたいに、派手にやられたフリしてたんだよ」
❤️「そういうこと」
💚「さすがゆり組……」
諦めずにその時を待っていたということだろう。あの状況でそんな考えに至るところも、それを二人で合わせてできるところも、さすがとしか言いようがない。
どうやら、浦川達X-CHARGERがこの場所を立ち入り禁止にしていただけらしく、X-CHARGERがいなくなったことで一般人が入ってくるようになった。
それから残りの水族館を満喫して、渡辺と宮舘の二人は阿部を家に送り届けてから、宮舘が他のメンバーをグループチャットで招集し、事務所に戻る。
事務所に入ると、すでにみんなが揃っていた。
🩷「おかえりー」
🖤「あれ、阿部ちゃんは?」
❤️「家まで送って来た」
💜「舘さんから招集なんて珍しいよね。なんかあった?」
❤️「阿部に、白耀の姫のことバレた」
💜「へ?」
🤍「えっ、なんで?」
💙「今日、水族館行ったんだけど、そこで襲われてさ」
そこから、今日の出来事を宮舘が説明する。水族館に行って阿部が捕まったこと、それが記憶にはないけれど自分たちの高校の同級生で逆恨みされていた事、その人物が白耀の姫について口にした事、白耀の姫に興味を持っている者がいるという事。
みんなの表情が変わっていく。
🖤「白耀って確か、雪が煌めく現象のことでしたよね。SnowManの中でキラキラしてるからそんな異名になった、みたいな」
💜「それ考えた奴が文芸部だったらしい。だからちょっと詩っぽいっていうか、小説っぽいっていうか。でもなんか、阿部ちゃんに似合うねーって納得した憶えある」
🩷「でもその噂って、ずっと阿部ちゃんには知られてなかったのにね」
🤍「書き込みとかがあるわけじゃないからね。ネット上にない情報はさすがに阿部ちゃんもわかんないよ」
🩷「俺らも知ったのって、SixTONES経由だよね」
SixTONESは異能力者を纏めているグループのトップで、SnowManとは仲が良い。
🖤「そうそう。たまたま仕事が一緒になった時にね、そういう噂が一部で囁かれてるって」
🧡「そもそも、なんで姫なん?」
🖤「北斗くんが、SnowManが大事にしてるのは見れば分かるよって言ってた」
💛「そう言う北斗だって阿部に甘々なのにな」
🖤「で、その扱い方が男子校の姫にするものみたいだっていうのと、阿部ちゃんが可愛いからじゃない? って」
💙「あー……でもなんか今日言われたわ。あんな可愛い子とデートしてズルいって。男に」
🩷「うわあ、それヤバいね。阿部担が増えまくるじゃん……」
🤍「森林伐採の再来?」
💜「あー、ファンサしまくる阿部ちゃんに刈られて倒れてく人たちのアレね」
🧡「本人は植林いうてたけど、どう考えても伐採やんな」
💛「なんか、阿部のあれって年々増してる気がすんだよな」
🩷「わかるわかる。年々ファンサは増えるし、あざとくなってくし、ビジュもどんどん良くなってくし。最近、美人に拍車がかかってるんだよなぁ」
🖤「ホント。気が気じゃないっす」
それはどういう意味で、と聞きたくなる面々だったが、あえて誰も口にはしなかった。
💙「まあ、阿部ちゃんはあんまり気にしてなさそうだったけど」
💜「それがいいんだか悪いんだか」
💛「とにかく、現状は分かった。翔太も舘さんも大変だっただろ」
❤️「まあ、いろいろとね」
これからのことを考えると頭が痛くなるけれど、阿部がアイドル化していた大学時代に戻るだけだと思うと少し気持ちも和らぐだろうか。
#お悩み相談
yuka @語尾にゃん
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