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ゆゆゆゆ
3,330
#doublefedora
朝。
静かな部屋。
昨夜の気配が、まだ少しだけ残ってる。
「……」
エリオットが、ゆっくり目を開ける。
隣。
ちゃんといる。
「……」
少しだけ、安心したみたいに息を吐く。
(……いる)
それだけでいいみたいに。
「……起きてんのか」
低い声。
チャンス。
目は閉じたまま。
でも、分かってる。
「今起きた」
「嘘つけ」
「バレた?」
少しだけ笑う。
距離が、近い。
自然に。
昨日よりも、ずっと。
「……」
視線が、合う。
言葉はない。
でも――
そのまま、ゆっくり距離が縮まる。
触れそうになる。
その瞬間。
――ぐぅ。
「……」
一瞬、止まる。
「……は?」
チャンスが眉を上げる。
エリオットは、真顔。
「……」
もう一回。
ぐぅ。
エリオットが顔を逸らす。
耳が赤い。
「……悪い」
小さく呟く。
数秒。
沈黙。
「……はは」
チャンスが、吹き出す。
「お前な」
「笑うなよ」
少しだけ不機嫌そうに。
「……ここ最近、あんま食ってなかった」
ぽつりと、観念したみたいに言う。
チャンスの表情が、少しだけ変わる。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
「行くぞ」
「どこ」
「飯」
短く言い切る。
「朝飯」
「……」
エリオットが少しだけ笑う。
「了解」
***
適当に身支度をして。
エリオットは、昨日のままの皺だらけのスーツに腕を通す。
「……これでいいや」
ネクタイも適当。
髪もそのまま。
ドアに手をかける。
その瞬間。
「……待て」
後ろから、声。
「ん?」
振り返ると。
チャンスが、少しだけ眉を寄せてる。
「髪」
「……あ?」
指で軽く触る。
整髪料で固まってるのに、寝癖でボサボサ。
「……別にいいだろ」
「よくねぇ」
即答。
「そのまま出んな」
「うるさいな」
軽く笑う。
でも。
次の瞬間。
「……ほら」
ぽん、と何かを乗せられる。
「……」
頭に、重み。
視界の上が少し暗くなる。
手で触る。
「……帽子?」
中折れ帽。
チャンスが、いつも被ってたやつ。
「……」
鏡を見る。
少しだけ整う。
「……は」
小さく笑う。
「何それ、優しさ?」
「違う」
即答。
「見てらんねぇだけだ」
「はいはい」
でも。
外さない。
そのままドアを開ける。
***
朝の街。
人もまだ少ない。
少し冷たい空気。
でも、どこか軽い。
並んで歩く。
自然に。
「……なあ」
チャンスが言う。
「今日、仕事は?」
「今日は遅番」
エリオットが答える。
「だから、今余裕」
「……そうか」
少しだけ、間。
「また食べに来いよ」
ふと、エリオットが言う。
前を向いたまま。
「ピザ」
その言い方。
少しだけ、照れ隠しみたいに。
「……ああ」
チャンスが答える。
短く。
「……」
エリオットが、少しだけ笑う。
帽子のつばを、指で軽く触る。
「じゃあ、待ってる」
朝の光の中。
二人の距離は、もう。
昨日より、ずっと近かった。
—-END—-