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朝。
静かな部屋。
昨夜の気配が、まだ少しだけ残ってる。
「……」
エリオットが、ゆっくり目を開ける。
隣。
ちゃんといる。
「……」
少しだけ、安心したみたいに息を吐く。
(……いる)
それだけでいいみたいに。
「……起きてんのか」
低い声。
チャンス。
目は閉じたまま。
でも、分かってる。
「今起きた」
「嘘つけ」
「バレた?」
少しだけ笑う。
距離が、近い。
自然に。
昨日よりも、ずっと。
「……」
視線が、合う。
言葉はない。
でも――
そのまま、ゆっくり距離が縮まる。
触れそうになる。
その瞬間。
――ぐぅ。
「……」
一瞬、止まる。
「……は?」
チャンスが眉を上げる。
エリオットは、真顔。
「……」
もう一回。
ぐぅ。
エリオットが顔を逸らす。
耳が赤い。
「……悪い」
小さく呟く。
数秒。
沈黙。
「……はは」
チャンスが、吹き出す。
「お前な」
「笑うなよ」
少しだけ不機嫌そうに。
「……ここ最近、あんま食ってなかった」
ぽつりと、観念したみたいに言う。
チャンスの表情が、少しだけ変わる。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
「行くぞ」
「どこ」
「飯」
短く言い切る。
「朝飯」
「……」
エリオットが少しだけ笑う。
「了解」
***
適当に身支度をして。
エリオットは、昨日のままの皺だらけのスーツに腕を通す。
「……これでいいや」
ネクタイも適当。
髪もそのまま。
ドアに手をかける。
その瞬間。
「……待て」
後ろから、声。
「ん?」
振り返ると。
チャンスが、少しだけ眉を寄せてる。
「髪」
「……あ?」
指で軽く触る。
整髪料で固まってるのに、寝癖でボサボサ。
「……別にいいだろ」
「よくねぇ」
即答。
「そのまま出んな」
「うるさいな」
軽く笑う。
でも。
次の瞬間。
「……ほら」
ぽん、と何かを乗せられる。
「……」
頭に、重み。
視界の上が少し暗くなる。
手で触る。
「……帽子?」
中折れ帽。
チャンスが、いつも被ってたやつ。
「……」
鏡を見る。
少しだけ整う。
「……は」
小さく笑う。
「何それ、優しさ?」
「違う」
即答。
「見てらんねぇだけだ」
「はいはい」
でも。
外さない。
そのままドアを開ける。
***
朝の街。
人もまだ少ない。
少し冷たい空気。
でも、どこか軽い。
並んで歩く。
自然に。
「……なあ」
チャンスが言う。
「今日、仕事は?」
「今日は遅番」
エリオットが答える。
「だから、今余裕」
「……そうか」
少しだけ、間。
「また食べに来いよ」
ふと、エリオットが言う。
前を向いたまま。
「ピザ」
その言い方。
少しだけ、照れ隠しみたいに。
「……ああ」
チャンスが答える。
短く。
「……」
エリオットが、少しだけ笑う。
帽子のつばを、指で軽く触る。
「じゃあ、待ってる」
朝の光の中。
二人の距離は、もう。
昨日より、ずっと近かった。
—-END—-
ゆゆゆゆ