「ところで先程ミーニャさんが、『なにも壊さずに解決できたのは久しぶり』と言っていましたけれど、普段はどんな感じなんですか?」
「例えばメギア洞窟では、洞窟より上の岩石や土砂を吹き飛ばして、山を半壊させたニャ」
えっ!?
「山を半壊させた、ですか」
「メギア洞窟にいたチェルナボーグは、光がない場所ではほぼ無敵の魔物です。ですので、空が見える環境にしなければ殲滅できませんでした」
クリスタさん本人がそう解説、もしくは弁解した。
だから間違いなく事実なのだろう。
「その前のカリギア遺跡の時は、地底湖を爆破して第九階層以下の階層を水没させたのニャ」
「此処の洞窟と同様の、アンデッドを自動発生させる仕組みでした。ですが長年攻略されないままだった結果、発生した魔物の数が一万体を超えていました。個別に倒すことは困難だと判断しましたので、地底湖に聖別祈祷を施して湖水を聖水化した後、下層へ流したのです。魔物は全滅しましたし、水流によって仕組みも破壊できました」
今のやりとりで、俺は理解した。
解決のためには手段を選ばないタイプだということ。
そして手段を選ばない場合、大規模破壊魔法を使うことも辞さない人物だと。
なら念のため、確認しておこう。
「もし今回、俺が釣り道具を使用した方法で魚竜を倒せなかった場合、他にどういう解決方法が考えられたのでしょうか」
「……やはり周辺を崩して、空が見える環境にするのが一番簡単です。外の光が入るようになれば、アンデッド系魔物の力は弱まりますし、崩れた土砂で魚竜も身動きが取れなくなるでしょう。そうなれば、後の処理は簡単です。
カサクラ谷が埋まってしまいますが、居住者はいないので問題ありません。坑道も露出してしまいますが、むしろ露天掘りできる環境になるので、採掘効率は上がるでしょう」
なるほど、クリスタさん的解決方法がよく理解できた。
なら、ついでの再確認だ。
「参考までに、どんな魔法で山を崩すのでしょうか」
「一番簡単なのは、帯水層で水蒸気爆発を起こす方法です。山肌に近い部分から順に爆発を起こせば、綺麗に崩すのは簡単です。エイダンさんの魔力があれば、問題ないでしょう」
ほぼ完全に理解できた気がする。
クリスタさんが、危険人物だということを。
「とりあえず今回は、現場を崩さずに解決できたのニャ。だから問題はないニャ。あと、補食の査定が終わったニャ」
ミーニャさん、いつの間に。
大丈夫だろうかと思いつつ、記載事項を確認する。
うーん、これは……想定外だ。
「材料については小魚一匹まで完璧です。どこかにメモしていたんですか?」
フライや南蛮漬け、煮物で出した小魚まで、匹単位で記載されていた。
俺自身でさえそこまで把握していない、というほどに。
「一週間程度なら問題ないニャ。残念ニャがら食べられなかった物も含めて、全部覚えているのニャ」
「意外かもしれませんが、ミーニャさんは事務能力も高いのです。派遣されていた商業ギルドからも、移籍してほしいという話が何度もあったくらいです」
「商業ギルドは言葉遣いまで指示されて面倒ニャのニャ。そもそも外に出ないで書類相手なんて、性に合わないニャ。食べて寝て、時々戦う生活がいいニャ」
「この魚や野菜類の値段も、把握していたんですか」
この質問はジョンだ。ミーニャさんは頷く。
「一昨日正午のドーソン中央市場のデータニャ。昼食の買い食いをしながら調べたニャ」
何というか……
ミーニャさん、戦闘能力といい事務処理能力といい、無茶苦茶ハイスペックだったようだ。
食意地の張った駄猫、というイメージだったのだけれど……。
「それよりエイダンとジョンは、これからが大変なのニャ。今日はお祝いにしろ、明日からは覚悟を決めておいた方がいいニャ」
えっ!?
「どういうことですか?」
俺より先に、ジョンが尋ねる。
「相当に凶悪な依頼でも何とかできる、その能力があるということが冒険者ギルドとクリスタにバレてしまったのニャ。ニャのでこれからちょくちょく、今回のような面倒な依頼に駆り出されるのは間違いないニャ」
えっ!?
「あんな魔法や収納を使えるエイダンはともかく、俺は単なる弓使いですけれど」
「速射できて命中精度も高い弓使いは、何かと重宝するニャ。ちょうど、魔法が使えない場所なのに飛龍が群れている、という案件があるのニャ。今回も出てきたアレ絡みで、解決できないまま放置されているのニャ」
「そうですね。さしあたってジョンさんには、この先2週間でC級冒険者試験に合格していただきます。教本8冊を暗記すればいい程度ですから、そこまで難しくはないでしょう」
いや、クリスタさん。それって結構厳しいと思う。
俺は速読魔法でクリアしたけれど、魔法なしでそれをやるのは……。
そして飛龍って、かなり強力な魔物ではなかっただろうか。
教本に載っていた事例では、飛龍1体に対して、冒険者ではなく騎士団1個中隊100名と魔法騎士団1個小隊30名で対処したと出ていた気がするのだけれど。
案の定、ジョンは絶句している。
すぐには返答できないようだ。
「エイダンもニャ。このレベルで搬送と偵察と攻撃を兼ねた魔法使いなんて、まずいないニャ。ニャのでどんな現場でも大助かりなのニャ。特に大人数で攻略できないが故に放置されていた、遺跡や洞窟、高山での依頼には最適ニャのニャ」
ちょっと待ってほしい。
「俺は、生活できる程度に依頼を受けられれば、それでいいのですけれど」
「冒険者ギルドには特別指名依頼制度があるニャ。未解決の重要案件を解決するために、冒険者を指名して依頼を受領させる制度なのニャ。西部のギルドだけでも、アレ関係の未解決案件が7件あるニャ。ニャので、遠からずエイダンには特別指名依頼が来ると思うのニャ」
ちょっと待ってほしい。
そう言おうと思ったところで。
「そうですね。ここ10年ちょっとの間、西部に限らず力のある冒険者が不足しており、重要案件の解決が滞っている状況です。ですがこの4人パーティでしたら、それらの大半を解決することが可能でしょう。今まではこういった案件に、安心して付き合っていただける能力のある方がミーニャさんくらいしかいませんでした。ですが、これで晴れて継続的な活動が可能となったようです」
「私も籠もって事務仕事をするより、外に出る仕事の方がいいニャ。それにこの手の仕事を解決すると、依頼実施日数と同じだけ休暇が入るニャ。その間は寝放題で食べ放題なのニャ!」
……理解した。
つまりこの先、俺の意思にかかわらず、依頼がやってきて解決せざるを得なくなるということを。
これでは前世、業務過多で倒れたのと同じだ。
そう思いかけて、そして気づく。
解決すれば依頼日数と同じだけ休めるのなら、前世より遥かにましだと。
この点を確認しておこう。
「もし依頼が連続してきたとしても、間に必ず休みは取れるんですよね」
クリスタさんは頷いた。
「ええ、それは大丈夫です。特別指名依頼が連続する場合でも、必ず間に前の依頼にかかった日数以上の休みと、次の依頼に必要な準備期間を取ることと定められていますから。ですから、もし次にエイダンさんに依頼をお願いするとしても、明明後日以降になるはずです」
よし、ならば前世よりずっとましだ。
だからまあ、問題はないだろう。
「わかりました」
「では早速ですが、明明後日の22日、次の依頼について相談したいことがあります。具体的には、ジョンさんがC級冒険者に合格した後になりますが……」
(FIN)






