カチャ
屋上の扉が開く音がした。
振り返るとそこには一つの人影があった。
「あれ、うたくんおるやん」
ut「お、珍しいな。こんな時間に」
「全然寝付けへんねん…何となく屋上来たわ」
ut「奇遇だな。俺もなんだよ」
一人の静かな時間は消えた。
どうやら俺と同じ境遇の奴がこの基地にいたらしい。
綺麗な満月を独り占めするのは勿体ないと思っていたところだ。
ちょっと話すことにした。
と思ったら先手を打たれた。
「うたくん煙草吸ってたんや」
ut「ストレス発散中だからな」
「あーwなるほど」
ut「せっかくだしお前も吸えば?お前吸えるでしょ」
「まぁうたくんの誘いやし、しゃーなし吸うかw」
そう言うとポケットから煙草の箱を取り出した。
中身がスカスカな箱を振り、1本を器用に出す。
「ちょっと失礼〜」
煙草の先端を俺が加えてる煙草の火の部分につけた。
少し経つともう1本にも火が移り、煙が立ち込めた。
ut「お前ほんとそういうこと恥ずかしげもなくできるよな…」
「まぁ別に恥ずかしくないしな」
そう笑うと水色の髪を揺らした。
ut「にしても、お前が吸うなんて意外だよな」
km「昔行った外交の時に吸わされてからいけるようになっただけやからな。たまにしか吸わんよ」
ut「そういや言ってたな。きっかけは外交の時だって」
km「まぁ最近は行ってへんから外では吸わんけどな」
ut「俺も外では吸わないな。バレると色々めんどいし」
km「わかるわw俺も後輩組にバレた時めっちゃ心配されたんよな。煙草吸ったら寿命縮みますよ〜って言われるから人前では吸わんな」
ut「俺は多分後輩組にはバレてない…はず」
km「バレたらめっちゃ心配されんで?バレた後1週間ぐらい監視されとったもんw」
ut「相変わらず心配性多いな」
そんな他愛もない話で空間を彩る。
さっきまで静まっていた屋上が少し騒がしくなる。
お互いそこまで仲良しってわけでもなく、仲が悪いってわけでもない。
もちろんお互いのことは心配し合うし助け合う。
お互い過去に踏み込むことなく、そっとしておいてくれる。
だから、凄く心地よい存在だ。
この屋上も特段嫌な空間では無い。
喋りたくなったら喋り、どうでも良くなったら喋らない。
そんな状況が許されている、そんな空間なのだ。
お互いの紫煙が空に上がり続けている。
持ってきた一箱からもう1本取り出す。
ちょうど火が指に燃え移りそうなほど短くなってきてたのだ。
そして、またライターの音を鳴らす。
「煙草」として機能したものを口に加え、一息空に押し出す。
ut「綺麗に作れるもんだな」
先程口から出ていった煙はさっきみたいな朧月を作った。
上出来な朧月を見つめ、思わず笑みがこぼれる。
km「なんや?急に微笑んで」
どうやらこぼれた笑みはちゃんと拾われてしまったらしい
ut「いや、ただ朧月みてえだなって思っただけ」
km「ん?」
訳が分からない。
そういった顔で見つめられる。
ut「ほら、こうやって煙草の煙吐くとさ、月に雲がかかったように見えるだろ?」
km「…あ、そういう事か!理解したわ 」
腑に落ちた、という顔で月を見上げる。
そして煙を一息。
km「俺も作れるかな〜」
笑い混じりの声で無邪気に振る舞う。
ただひたすらに上っていく煙を二人で見つめていた。
km「あー…あんま綺麗に作れんな…」
ut「位置の問題じゃね?」
km「あ、なるほどな!頭良!」
ut「褒めても何も出ないぞ」
km「ケチやなぁ」
また屋上が明るくなった。
と言ってもまだまだ夜は中間地点を過ぎたぐらいだ。
まぁ頭のいい人なら説明しなくても分かるだろう、「空」じゃなく「雰囲気」ってことが。
ut「けどまぁ、月もいいけどこうやって二人並んで煙草をふかしてるってのもいいよな」
km「こうやってゆっくり出来る日も少ないしな。明日からまた色々仕事あるしな〜」
ut「あぁ…また明日から書類の山かよ」
km「あ、今仕事は禁句やったか」
やってしまったと笑いながら煙を口から吐き出している。
そんな光景に何故か笑いがこぼれる。
そして、自分も煙を吐き出した。
空に舞い上がった二つの煙は月を目指して混ざりあった。
ut「また吸う時は誘ってくれよな。話し相手が欲しいときにでもさ」
km「お、ええんやったら全然誘うで」
ut「書類に追われてる時以外で頼むわ」
km「誘われる側やのに要望多いな」
キレのいいツッコミに思わず笑わされる。
それにつられたのか二人分の笑いが屋上に生まれる。
混ざり合った煙草の煙と二人の笑い声は空に中和して消えていった。
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