テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
珠莉と璃都は手を取り合い、近くの車のドアをそっと開けて中に身を潜めた。「りと、静かに……見えないように、下がってて」と珠莉は低い声で囁き、弟を座席の陰に押し込む。
外では、何かが重たい足取りで歩き回っている。
二人が息をひそめていると、座席のポケットに大きなハサミが落ちているのに珠莉は気づいた。不安な気持ちから、珠莉は念のためそのハサミを握りしめた。
やがて、何かが車のすぐそばを通り過ぎていく。
音が遠ざかったのを確かめてから、珠莉は璃都とともに車の外へ出た。
急いで麻里のもとへ戻り、「大丈夫ですか!?」と声をかけた、その瞬間――
麻里が「ぐ……」とうなり声をあげ、珠莉の腕を硬く掴んだ。
「ひぃっ!」
驚きに体がすくむ珠莉を、璃都が必死に引っ張る。「お姉ちゃん!!」
“何か”になった麻里は、よろめきながら珠莉に覆いかぶさろうとする。
珠莉は恐怖と本能のまま、握っていたハサミを麻里の腕に向かって振り下ろした。
ざくっ――
血とも腐臭とも言えない何かが飛び散る。それでも麻里は離さない。
「やめて!やめて……!!」
珠莉は何度も、何度も、力の限りハサミを突き刺した。
ついに麻里の腕がぐにゃりとねじれ、ちぎれる。
麻里の腕がちぎれたにも関わらず、“何か”になった彼女は呻き声をあげながら、なおも珠莉と璃都に向かってよろよろと歩み寄ってきた。
「え、なんで……腕……?」
珠莉は、あまりの異様な光景にその場から動けなくなってしまう。
そんな珠莉の横で、璃都が震えながら囁いた。
「お姉ちゃん……これ、映画とかで見たことない?ゾンビ……とか……」
「私……怖くて見てないよ……でも……まりさんから逃げなきゃ……」
珠莉が小さく震える声で答える。
その瞬間、麻里はもう片方の手で珠莉の肩をわしづかみにした。
「きゃあ! 怖い! どうしよう!!」
珠莉が悲鳴をあげる。
璃都は必死に思い出しながら叫んだ。
「お姉ちゃん!ゾンビは頭をやるんだよ!」
「……頭……?」
珠莉は、恐怖と混乱の中でほんの一瞬覚悟を決めると、握りしめたハサミを麻里の頭に向かって力いっぱい突き刺した。
何度も――何度も、叫びながらハサミを振るった。
やがて麻里の体が崩れ落ち、動かなくなる。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!もういいよ……もう、動いてないよ……」
璃都が泣きそうな声で珠莉にしがみつく。
珠莉は荒い呼吸のまま、璃都を見つめた。その瞳には、涙と絶望と、わずかな決意が混ざっていた。
「……りと……行こ……」
珠莉と璃都は、また歩きはじめた。
遥かに伸びる道路の先、二人きりの帰り道――胸に恐怖と喪失を抱えながら。