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Nanase*
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空彩
401
ゆいか
20
僕は、生まれつき運が悪い。
近くにいるだけで、
嫌なことが起きる。
触れたものは、壊れる。
それが普通じゃないことくらい、
ちゃんとわかってた。
だから、触れないようにした。
誰にも。
手袋は、そのためのものだった。
お父さんも、お母さんも。
僕に触れなくなった。
それでよかった。
壊さなくて済むから。
でも。
ひとりは、少しだけ怖かった。
そんな時、お兄ちゃんだけは。
そばにいてくれた。
怖がってるのに。
それでも、離れなかった。
優しい人だと思った。
あの日。
お父様が怒鳴っていた。
理由は、いつもと同じ。
されることも。
暴言を吐かれ、暴力を振るわれ、それで許してもらえる。
けど、その日はいつもと違った。
お兄ちゃんが、止めた。
そのせいでお兄ちゃんが殴られた。
その瞬間。
初めて怒りが湧いた。
お兄ちゃんが傷つくのがとてつもなく嫌だった。
気づいたら。
手袋を外していた。
怖かった。
でも。
守りたかった。
だから、気づけば殴っていた。
全部が終わって。
静かになって。
お兄ちゃんを見た。
少しだけ、安心した。
「……これで、もう大丈夫だよ?」
本気で、そう思っていた。
でも。
違った。
知ってしまったのだ。
僕がいる限り。
お兄ちゃんは、傷つく。
あぁ、いっそ嫌ってくれたら、今すぐにでも追い出してくれたら。
お兄ちゃんと一緒に居たいなんて思わなかったのに。
そう思って聞いてしまった。
お兄ちゃんは、何も言わず、ただ歩み寄ってきた。
「来るな」
そう言ったのに。
止まらなかった。
どうして。
お兄ちゃんは、怖がりだから。僕のことなんて、怖いはずなのに。
わからなかった。
「……一人で怖がらせてる方が、もっと嫌だ」
手を、掴まれた。
終わると思った。
「やめて」
そう言ったのに。
抱きしめられた。
あたたかかった。
それが、一番怖かった。
少しして。
お兄ちゃんの手に、血が滲んだ。
小さな傷。
でも。
ちゃんと、見えた。
お兄ちゃんは、優しいから多分、隠しているつもりなんだろう。
なんでもないように、僕でなければ気づくことなんて無い程度に顔を歪ませて。
壊れてる。
僕が、壊してる。
なのに。
「ほら、大丈夫だろ」
そう言って。
隠してる。
僕のために。
傷ついてるのに。
平気なふりをして。
……ああ。
この人は。
僕のためなら。
傷つくことも。
壊れることも。
受け入れてしまう。
胸が、痛くなった。
でも。
少しだけ。
嬉しかった。
この人は、僕のために傷つくことも受け入れる。
――違う。
こんなの、違う。
でも。
止まらなかった。
服を掴む手を。
離せなかった。
このまま一緒にいたら。
僕はきっと。
慣れていく。
お兄ちゃんが傷つくことに。
壊れていくことに。
もしかしたら。
自分から、壊しにいくかもしれない。
それでも、お兄ちゃんは。
きっと受け入れてしまう。
それが。
怖い。
そんなのは、愛じゃない。
ただの、依存だ。
だから。
離れないといけない。そう思った。
愛だと思えているうちに。
これ以上。
自分を嫌いにならないために。
相談して出ていった方がいいとも思った。
でも。
言えば、止められる。
お兄ちゃんは、優しいから。
また、抱きしめる。
その優しさに触れたら。
僕は、離れられなくなる。
だから。
何も言わない。
それが。
最後の選択。
手袋を、置いた。
もう、お兄ちゃんと会わないなら、気をつける必要もない。
振り返らない。
振り返ったら。
戻ってしまうから。
歩き出す。
ひとりで。
……ねえ、お兄ちゃん。
一つだけ、聞きたかったな、
こんな僕でもまだ、
愛してくれる?
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