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やがて、二人とも疲れてきたので、後ろの白いソファに頭を預け、並んで空を見上げた。
「そういえば、うちの実家は、雑草のようにジャガイモが自生してるんですよ。
芽が出たジャガイモを庭に植えてみたら、花が咲いて、ジャガイモ、地下にできてたんです。
わあ、ってみんなに自慢してたら、とりそびれて、そのまま置いておいたら、今年もジャガイモ育ってました」
「……それ、自生してるっていうか。
毎年、収穫しそびれてるジャガイモがあるってだけだろ」
食え、と夜空を見たまま、貴弘が言ってくる。
「でも、置いておいたら、また、来年も出てくるかな~と思ったり。
あ、そういえば、小芋も毎年……」
「どうなってんだ、お前んちの庭。
まあ、ジャガイモだって小芋だって、もともとは普通にその辺に生えてたものだろうからな。
人間が畑で栽培するから、野菜って感じなだけで」
「そうですよねー。
そういえば、雑草って、いざ、育ててみようと思っても、上手く育たないらしいんですよ。
あんなに抜いても抜いても生えてくるのに。
表が雑草まみれなのはよくないって業者さんたちが言うので、裏に雑草畑を作ろうかと思ったんですけどね。
雑草は自分で考えて芽を出すタイミングを決めているらしいので、人間が、今生えてっと思っても、芽を出さないらしいです」
不思議ですよね~と言ったのどかはいつの間にか、左手が温かくなっていることに気づく。
空から視線を下ろすと、貴弘の手が自分の手を握っていた。
ちょっと笑っている。
「……なんですか?」
と照れながら問うと、貴弘は、……いや、と言ったあとで、
「明日、寮に入ったら、また騒がしい感じになるんだろうから、今日中にお前を俺のものにしとかなければと思ってたんだ」
と言い出す。
い、いやいや。
私の意思は何処に、と思いながら、赤くなって俯いたのどかに、貴弘は握る手に力を込め、言ってきた。
「でも……、よかった。
これでよかった。
お前を抱くより、お前のことがよくわかった気がするし。
お前のことを前より身近に感じた……。
……前より、好きになった気がする」
そう言い、貴弘はそっと口づけてきた。
「俺は、ちょっとずつ、お前を好きになっていってるのか。
ちょっとずつ、お前を好きなことを自覚していってるのかわからないが。
お前が……
俺より少し遅れて、俺のことを好きになってってくれたら嬉しい」
そう貴弘は言う。
「少し遅れてですか?」
「そう。
俺は、いつでもなんでも先を行きたい人間なんで。
いつも俺はもう此処までお前のことを好きなのに、お前はまだ、そこまでか、と思っていたい」
いや、それ嬉しいですか……?
と思うのどかの手を取り、貴弘は言った。
「今まで俺は、自分の負けん気が強くて、先に行きたいんだと思ってた。
でも、お前と出会って気づいたんだ。
俺が先に行きたいのは、振り返って誰かの手を引きたいからだって。
俺は今、お前の先に進んで、危険がないよう、見渡してから、お前の手を引きたい」
恋というより、探検隊の話みたいですね、とのどかは苦笑する。
「俺がお前を好きなほど、俺を好きにならなくていい。
その代わり、絶対、ついて来るんだぞ」
「え……?」
「俺がお前を死ぬほど好きになったら、お前も俺を、まあ、死んでもいいかな~くらいは好きになれ」
と言うので笑ってしまった。
貴弘はそんなのどかを見つめ、言ってくる。
「そうは見えないかもしれないが。
俺は今、お前とこうしていて、結構どきどきしている。
学生時代、好きな子の側を通ったりするだけで緊張するとかみんな言ってて、意味わからんと思っていたが、今はよくわかる。
俺は緊張している」
しゃ、社長が私に緊張してるんですか?
そんなこと有り得ないような気がするのだが。
だが、貴弘はのどかを見つめ、
「だから、お前も少しはどきどきしろ」
と強制してくる。
「いやあの……言われなくても、ちょっとしてますけどね」
とバラすと、
そうか。
……うん、と貴弘はちょっと嬉しそうに笑った。
か、可愛いではないですかっ。
なんですか、今の顔っ。
きゅんと来てしまいましたよっ。
私も、側に好きな人が来ただけで緊張するとか意味わからんとか思ってたクチなんですけど。
今、すっごいどぎときしましたよっ。
でも……、とのどかは思う。
でも、貴方のどきどきを超えてはいけないのですよね。
もう今、軽く超えてしまった感じもしているのですが。
「のどか」
と貴弘がのどかの背に手を回して言う。
「もう一回、キスしていいか?」
訊かないでください。
仕事中にもう一回、スライドを出せとか言うみたいな口調で訊かないでください。
そして、駄目です。
そんなことしたら、社長のどきどきを超えてしまいますっ、と思ったが、貴弘は地上に居るときより少し近くに見える星空の下、今まで一番やさしくキスしてきた。