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海の紅月くらげさん
『お前には友達なんて必要ない。それよりも学を身につけろ』
父にいつもそう言われていた。
傲慢な父に逆らう気なんて毛頭なかったけれど、小学校の頃は寂しくてよく泣いていた。
放課後や休日に遊んでいる周りの子達が羨ましかった。僕だってみんなと遊びたいのに。どうして我慢しなくちゃいけないの?
そんなことばかり考えていた。不自由な自分が酷く惨めだと思った時もあった。いきなりベランダからやってきて、馬鹿みたい笑いながら連れ出しにきたんだ。
「ふあはっはっは! 忍者みたいでかっこいいだろう? 最近流行ってるんだぞ!」
「……」
でも、あの時の僕にとって武蔵はヒーローみたくかっこよく見えた。
「こんなところにいつまでもいて退屈しないか?」
自由なことがもの凄く羨ましかった。
それと同時に妬ましいとも思った。自分は武蔵のようにはなれない。
父に決められたことしかしてはいけない。そういう運命なんだ。
「でも……」
「行こう!」
「っ、でも」
「泉!俺が連れ出してやる! 」
それなのに手をとってしまった。父にバレたらと考えると身が凍るほどの思いだったのに、あっさりと迷いは消えて手をとっていた。ただ単純に名前を呼んでもらえたことが嬉しかったんだ。自分の存在を認めてもらえたような気がしたから。
あの日、彼らと内緒で遊んでいた。
中でも実里と気があって、いつのまにか二人きりになっていた。
きっとそれが潤の一番の後悔だろうね。そして歩も和葉も武蔵にとっても後悔だろう。
その時にブランコから落ちて怪我をしたんだ。憤慨した父は僕のことを直接責めない代わりに戒めのように実里を閉じ込めた。
始めの数日間は、実里の泣き声や叫び声が聞こえていた。
それは、今でも耳の奥に残っているような気がしてしまう程の、誰もが恐怖を抱き言葉にならないような泣き叫ぶ声だった。
『たすけて』
『ごめんなさい』
『じゅんにい、たすけて』
そんな言葉も叫び声の中に時々混ざって聞こえていた。
でもだんだんとそれが聞こえなくなっていった。恐らくそこからだろう。実里の中で何かが変わったのは。
僕は実里に対して罪悪感を感じるのと同時に、どうして同じ九條なのに彼らには周りに友人がいるんだろうと妬ましくて醜い気持ちが浸食していった。
友人という立場で親しくすれば、その関係は父の力でいとも簡単に崩れていく。
やっぱり僕の周りには何も残らない。
孤独で虚しいだけの人生は、これからもそのままなのかもしれない。
それから僕らの関係は歪なものになり、実里は暗闇がトラウマになって心を閉ざしてしまった。
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