テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「お前は他の子とは違う。対等ではない」
父は実里を酷い目に遭わせた後でもいつもと変わらなかった。高圧的な口調でこれが常識だとでも言うように話をする。
「遊び相手がほしいのなら、これからはあの子達を上手く使いなさい。九條に生まれた彼らは、所詮スペアにすぎない。お前にとっての駒なのだから」
親戚もクラスメイトもみんな……対等ではない。盤上にいるチェスの駒でプレイヤーは僕一人。ゲームすら成立しない一人遊び。
あの事件以来、父の圧力によって武蔵も潤もみんな従うようになってしまった。
酷くつまらない。退屈で馬鹿らしい日々。
そんな時、目の前に現れたのが――彼女だった。
入学式が終わった後の渡り廊下は教室へ向かう生徒達でごった返していて、転んだ女の子に誰も手を差し伸べない。ちらりと視線を向けながらも横切っていく無情な人達。
「ねぇ」
気まぐれだった。ただの教室に着くまでの退屈凌ぎ。
「大丈夫? 怪我してない?」
武蔵が僕に手を差し伸べた時のように、彼女に手を差し伸べた。
仲良くする気なんてなかった。けれど、その日から彼女――水沢さんは僕に『おはよう』と声をかけてくれるようになった。
他愛のない会話。それなのに不思議とつまらないとは感じなくて、色々な表情をする水沢さんを見ているのが楽しかった。
あまり周りに人に話したことがないという家庭環境のことを、僕なんかに話しちゃって馬鹿だなぁなんて思いながらも、初めての感情ばかりが芽生えていく。
本当の僕のことなんて知らないくせに。
それなのに曇りのない瞳で僕を頼って相談をしてくれる彼女を、色々な表情を見せてくれて知らなかった感情を与えてくれる彼女を好きだと思った。
けれど、僕には許されない。
誰かを好きだと思う気持ち。
このゲームは賭けだ。たとえ歪んでいると言われても構わない。これが僕の願い。
これが九條泉として————にやるべきこと。
「ねぇ、水沢さん。王子を誰にするか決まった?」
困ったように眉を寄せて水沢さんは静かに首を横に振った。
やっぱりまだ決まらないか。
「じゃあ、恋人になりたいと思う人はいる?」
「なんで……」
見ていればわかるよ。あの中に君に想いを寄せている人がいるくらい。君は優しいから突き放さずに真正面から素直に答えようと悩むんだろう。
「その優しさが相手を期待させるんだよ」
黒い大きな瞳が揺れた。
……何か思い当たることでもあったかな。早速誰か強引に迫ってるのか。
まぁ、誰かは予想がつくけれど。
「そろそろ出ようか」
外の人達の視線が怖いから。
海の紅月くらげさん