「とんでもないです。莉穂の出産祝いまでいただいて感謝してます。でも、夏希とお付き合いされてるなんてびっくりです。本当に……すごく嬉しいです」
一弥先輩は、一口、ビールを飲んだ。
咽が動く。
「大変だったよ。本当、すごく大変だった。恭香ちゃんを忘れるの」
そう言って、また、もう一口飲んだ。
そして、星空を見上げながら言った。
「正直、まだ……忘れられない。情けないよね。だけど、恭香ちゃんが結婚して、子どもができて、一つ一つ、自分の中でその現実を受け止めようと頑張ったんだ」
「……」
「だって、僕は恭香ちゃんのこと本気だったし、誰よりも好きだったんだから。そんな簡単に割り切れなかった」
「私なんかをどうしてそこまで……?」
「恭香ちゃんは、自分の魅力に気が付いてないんだよ。男は、恭香ちゃんみたいな子に癒されたいって思うんだよ。僕もそうだった。だから、恭香ちゃんが本宮君を助けたいって、病院で必死だった時、本当に……つらかったよ」
「ごめんなさい。私、あの時、夢中で……。ただ、朋也さんに生きてほしいって」
「うん、わかってるよ。だから、僕は……もう恭香ちゃんを忘れなきゃって、諦めるしかないんだって、無理やり自分にそう言い聞かせた」
一弥先輩は、ほんの少しだけ寂しそうな顔をしたけれど、すぐに笑顔になって、
「夏希ちゃんに告白されて、もちろんいい子だし、なんか……人生をやり直すチャンスかなって。夏希ちゃんには本当に申し訳ないけどね。だけど、今は彼女をちゃんと大事にしなきゃなって、本気で思ってるから」
私は、大きくうなづいた。
素敵な2人を応援したい……心から思った。
「一弥先輩には本当にお世話になりました。感謝しかないです。私はまだまだ未熟だけど、これからも子育てや、いつかはコピーライターの仕事も頑張りたいです。そして、朋也さんと莉穂と、家族みんなで幸せになります。だから、一弥先輩も、夏希と幸せになって下さい」
言葉にするうち、胸が熱くなり、目が潤んだ。
「ああ、そうだね。僕もいろいろ前向きに頑張るから。ありがとう、恭香ちゃん」
一弥先輩は笑顔だった。
憧れの優しくてカッコ良い一弥先輩は、やっぱりいつまでも素敵だ。
「恭香! こっちこっち。見てこの料理、美味しそう」
夏希が私を手招きしながら呼ぶ。
「え~、どんなの?」
私は、夏希のところに駆け寄った。
「さすがだね~。うちじゃあ、こんな高級なお肉食べられないから」
「そんなことないよ。一弥先輩、たくさん頑張ってるんだから。ほらっ、これ食べてみて。すごく美味しいよ」
「本当だ、美味しそう。……そだね、あの人、頑張ってるもんね。いつか、こんな高級なお肉、食べきれないくらい買ってもらわなきゃね。いただきまーす!」
夏希の幸せそうな顔を見ていたら、私まで幸せな気分になる。
ずっとそうやって、私は助けられてきた。
ありがとう、夏希。
「幸せになってね」
「ん? 何か言った? 聞こえないよ~」
「やだ、また酔っ払ってるの?」
「酔ってない、酔ってない。今日は控えてるよ~」
2人で笑っていると、朋也さんが近寄ってきた。
「夏希ちゃん、いっぱい食べてる?」
「は~い、食べてま~す!」
一弥先輩も一緒に、私達は改めて乾杯した。
「みんなのこれからの明るい未来に!!」
「乾杯~!!」
私達はバーベキューをめいっぱい楽しんだ。
美味しい食事に、会話も弾む。
久しぶりの再会に私もテンションが上がっていた。
この感じ、何だか良い……
またこうやって、時々集まれたら嬉しい。
笑顔溢れる夜は、まだまだ続く……
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