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館の大広間。
天井から吊るされたシャンデリアが赤黒い光を落とし、長い食卓には誰も手を付けない豪華な料理が並んでいた。
FORSAKENではよくある光景だった。
“祝宴”。
誰も満腹にならない宴。
スペクターはその中央に座っている。
赤いシルクハット。
脚を組み、
片肘をつき、
まるで王みたいに笑っていた。
その周囲には従者達。
アズール。
ホスフォラス。
そしてノスフェラトゥ。
「今日は随分静かだね、ノスフェラトゥ」
スペクターが楽しそうに言う。
ノスフェラトゥは返事をしなかった。
赤い仮面の奥から、ただ視線だけを向ける。
原因は明白だった。
数分前。
スペクターがアズールの顎を撫でていた。
「よくやった」
「いい子だ」
そう言いながら。
アズールは魔女帽子のつばを押さえ、くすくす笑っていた。
「ふふ、ありがとうございますスペクター様」
その光景が、妙に頭から離れない。
別にどうでもいい。
そう。
本来なら。
なのに。
胸の奥がざらつく。
不快だ。
イライラする。
スペクターが誰に触れようが関係ないはずなのに。
「……」
ノスフェラトゥの耳がぴく、と揺れた。
その様子を、向かい側のホスフォラスが見逃さなかった。
淡い紫色の尾が揺れる。
「ねぇアズール」
ホスフォラスがニヤニヤ笑う。
「見た?」
「見た見た」
アズールも口元を隠して笑った。
「“お気に入り”が拗ねてる」
ノスフェラトゥの視線が鋭くなる。
「……殺すぞ」
「怖ぁい」
ホスフォラスは全然怖がらない。
むしろ面白がっていた。
黒いマントを翻しながら、わざとスペクターの肩へ寄りかかる。
「スペクター様ぁ、ノスフェラトゥが睨んでます」
スペクターはちらりとノスフェラトゥを見る。
それだけで。
ノスフェラトゥの身体がぴくりと反応した。
悔しい。
本当に悔しい。
自分だけ、あの視線一つで神経を揺らされる。
スペクターは笑った。
「ああ、嫉妬してるんだよ」
「してない」
即答。
だが。
耳が下を向く。
沈黙。
次の瞬間、アズールが吹き出した。
「あははっ、わかりやす!」
「うるさい」
「スペクター様に構ってほしいんでしょ?」
「違う」
「じゃあなんで、アズール触られた瞬間から機嫌悪いの?」
図星だった。
ノスフェラトゥの爪が机へ食い込む。
スペクターはそれを見ながら、楽しそうにワイングラスを揺らしていた。
「……ノスフェラトゥ」
低い声。
呼ばれた瞬間、反射で顔が向く。
それだけで、またアズール達が笑う。
「ほんと従順になったよねぇ」
「最初は噛みつきそうだったのに」
「黙れ」
ノスフェラトゥが睨む。
だがスペクターは、指を軽く動かした。
「おいで」
その一言。
逆らえなかった。
ノスフェラトゥは苛立ちながら立ち上がる。
ブーツの音を鳴らし、スペクターの傍まで行く。
すると。
スペクターは当然みたいに、ノスフェラトゥの腰を引き寄せた。
「……!」
ぐら、と体勢が崩れる。
そのままスペクターの椅子の肘掛けへ座らされる形になった。
「スペクター様、いま会議中なんだけど」
ホスフォラスが笑う。
「構わないよ」
スペクターはノスフェラトゥの耳元で囁いた。
「この子、放っておくと拗ねるから」
「……ッ」
耳が熱くなる。
ノスフェラトゥは逃げようとした。
だが腰を抱かれて動けない。
しかも。
スペクターはわざと見せつけるように、喉元へ指を滑らせてくる。
「や、めろ……」
「どうして?」
「皆見てる」
「だから?」
最低だった。
アズール達は完全に面白がっている。
ホスフォラスなど、尾を揺らしながら笑い転げていた。
「スペクター様に嫉妬とか」
「かわい〜」
「ノスフェラトゥってもっと孤高タイプかと思ってた」
「うるさい……!」
ノスフェラトゥは顔を背ける。
だが。
スペクターはその顎を掴み、正面へ向かせた。
「嫉妬するくらいなら」
「ちゃんと可愛がられる側でいなよ」
その声に、ぞくりと背筋が粟立つ。
悔しい。
屈辱だ。
なのに。
胸の奥が熱くなる。
ノスフェラトゥの耳は完全に伏せきっていた。
スペクターはそれを満足そうに眺める。
「いい子だ」
その一言で。
ノスフェラトゥの呼吸が、また乱れた。