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無音。まだ遅い時間でもないのに、気持ち悪いほどマンションの廊下は静まり返ってる。
「准はずっと前……俺を信じて、自分が同性愛者だって打ち明けてくれたよな。そのとき、俺もお前と同じなんだって言いたかった。けど惨め過ぎて、とてもじゃないけど言えなかったよ」
創は薄暗い表情で白い息を吐いた。
「俺はお前のことが好きなのに、お前の視界に俺は入ってない。そんなんで打ち明けても虚しいだけだろ? だから今までずっと……隠してきた」
「……っ」
創が自分と同じ。
でも彼は親の為に霧山と結婚しようとしている。俺とは選んだ道が違い過ぎる。
ただ、霧山も好きな相手と結婚できないと言っていた。じゃあもしかして、彼女も……。
情報過多だ。一度に整理できなくてグルグル考えてると、急に顎を掴まれ引き寄せられた。
「俺が結婚して子どもをつくれば、当面跡継ぎは心配ない。何がなんでもお前が結婚しなきゃいけないわけじゃなくなる。そう思って玲那と婚約したんだけど」
創の慈しむような眼は、突如獲物を襲うような鋭い眼へ変貌した。
「お前は出会い系なんか漁って男を見つけることに夢中になるし。俺を選ばなかったくせに、相手の男はテキトーに選んでるんだって事を知ったら……何か猛烈に我慢できなくなっちゃったんだよね」
思いがけない言葉に息することすら忘れた。涼の存在すら霞むほど、全力で否定する。
「適当になんて選んでねえよ! 勘違いすんな!」
「ふぅん。じゃあ今一番想ってる相手は誰? 言ってみろよ」
今度は強い力で腕を掴まれる。
「……っ」
今、一番想ってる相手。
それを言ったら、創はそいつにすさまじい仕打ちをする気がした。
涼は、もしかしたら言うかもしれないと思った。俺が加東さんに好意を抱いてることを知ってるから。でも彼は何も言わずに黙っている。口を開く様子はない。
妙な違和感を感じた。創の言ってることと、涼のこれまでの行動は……矛盾が生じてるいる。
しかし今は混乱の方が強くて、違和感の正体を探し当てることができない。
「何躊躇ってんだ。遠慮しないで言えよ」
創は催促してきたけど、やっぱり違うんだ。
一番想ってる相手。涼がいるこの場で、それを言うのは……なにか違う気がして。
「好きな……人は」
創の手を振りほどいて、やっとの思いで声を出す。
「今は……いない」