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蒼乃 月
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ずっと会社とラグビーの生活をしていた文也にとって、魅力のある独身女性は、本当に長い間お目にかかっていなかった
そして目の前の人ほど魅力がある女性と巡り合うのは、なんだか初めてなような気がする
「神崎広告代理店?あそこの威勢の良いやり手ウーマンさんのプレゼンテーションが、とても良かったのを覚えているよ」
「ずいぶん噛みつかれたでしょ?」
「あはははっ」
文也は思わずジェニが竜馬に噛みついていた時のことを思い出した、すると彼女も可愛らしく笑った
クスクス「あなた笑ったらえくぼが出来るのね」
「うわっ・・・見ないで」
咄嗟に文也が真っ赤になって口元を隠す
「おかしいだろ?嫌なんだよ・・・男のくせに小学校の頃、これでよくからかわれたんだ」
文也はわざと傷ついたような表情を浮かべた
「あら?ちっとも恥ずかしくないわよ、えくぼがある人って魅力的よ、私だって欲しいもの」
藤子は微笑んだ
「えくぼは「天使のディープキスの痕」だって知ってた?」
きょとんと文也が目を見開いて、首を傾げた
「今鳥肌が立った・・・ずいぶん詩的だな」
「そりゃぁ、コピーライターですもの」
フフフと藤子がその綺麗な顔を文也に向けて笑った、途端に文也は息を詰まらせた、初対面の女性に対してこれほどまでに強く反応している自分に驚いた
初めての経験だった・・・心の風船がぷく~~~~っと膨れてパンッと弾けた気分だ、彼女は見るからにレディだ、よくラグビーを見学しに来る選手の筋肉の体目当ての、安っぽくて軽薄な女性ではなく、とびきりセクシーだが、立派な教養のある、気さくで感じのいい女性だ
そして絶対年上だ、いくつなんだろう?しかしこんな女性を口説き落とすような魅力は、今の自分には無い、文也はめまいを覚えながらゆっくり息を吐いた
心臓がドキドキしてる・・・感情の高ぶりは心臓に悪い、途端に肺がかゆくなった、昨日一晩中悩まされた咳の嵐が襲ってきた、文也は激しく咳込んだ、口元を押さえ、藤子にすまないと手を振り、彼女に背を向けて丸くなって地面にむかってゴホゴホ咳こむ
「あらあら・・・大丈夫?コロナかしら?」
なんと彼女が優しく背中を撫でてくれた
ゴホッ・・・「検査をしたら違うかったんだけど・・・今日どうしてもやらなきゃいけない仕事があって出社したんだ、でも咳が止まらくて・・・オフィスじゃみんなに嫌がられて、だからここでやってるんだけど、ゴホッ・・・ああっごめん!」
そういって文也はマスクをつけた、しかし鼻も詰まっているので息苦しくてしかたがない、ああ・・・情けない・・・
「何を飲んでいるの?」
「アイスコーヒーだけど・・・」
「まぁ、それは駄目よ、ちょっとカバン見てて」
そう言うと藤子はルイヴィトンの三つ折り財布を片手に持ち、椅子から降りてパタパタとレジカウンターに向かっていった、彼女の飲んでいるカップにはマジックで
―藤子ちゃん午後もファイティン♪―
と書かれている。どうやらここの店員と仲が良いらしい
「ハイ」
5分後、文也の前に茶色のカップホルダーが付いた、白いドリンクが藤子から差し出された
「これは?」
「ホットミルクよ、それとこれを飲む前に、もしよかったら私の持っている喉スプレー試してみる?行きつけの漢方屋さんで調合してもらってるんだけど、喉の腫れに即効性があるの、とっても良く効くのよ、ハイ、あ~~~ん」
「あ~~~~ん!」
素直に彼女の言う通り、文也はパカッと大きな口を開けた「シュッ」と藤子が文也の喉に向かってスプレーを拭きつけた所がちょうど、奥の唾を飲み込んだ時に激しく痛む箇所に、クリーンヒットした
ウッ「ガホッゴホッゴホッゲホッゴホゴホゴホゴホッッッゴホホホホホホホホゴホホホホホホホホッゴホホホホホホホホ」
ポンポン・・・「あ~~~そうよね~~染みるよね~~痛いね~~~よ~しよし我慢、我慢」
激しく咳込む文也の顔を胸に抱き寄せ、文也の背中をポンポン優しく叩く
喉に火が着いたように痛み、息が出来ない、まるで炎症している所に消毒液を垂らされたようだ、目に涙をいっぱい溜めながらガホゴホ咳込む文也は、今ありえないことに彼女の胸に顔を埋めているのを自覚した
途端に喉は死ぬほど痛いが、文也の頭の中に花が咲く・・・ああ天国だ・・・
「えくぼ君、大丈夫?」
藤子が心配そうに胸に抱いている文也に聞く、喉の痛みと顔面埋め尽くしている柔らかさを文也は堪能した
―う~ん・・・もう少しこのまま・・・おっぱいってこんなに柔らかいんだ―
「全然・・大丈夫じゃない・・・」
藤子が同情の声を出す、まだ彼女は優しく背中をさすってくれている、思わず彼女の背骨がきしむほど抱きしめそうになる、いや・・・それはたぶん犯罪だ、絶対だめだ!
「今は辛いかもしれないけど、このまま30分は何も飲まないでね、30分経ったらこのミルクを一気飲みしてね」
「うん・・・」
「これ貸しといてあげるから、朝晩二回喉にスプレーしてね、消炎剤や抗生剤を飲むより即効性があるから」
ほや~ん「うん・・・うん・・・」
目をつぶって藤子のおっぱいの柔らかさを堪能していたら、途端にべりっと彼女にはがされた
「いけない!もういかなきゃ!クライアントが待ってるわ」
「え?もう行くの?」
突然お預けをくらった犬のように耳を垂らして藤子を見る、慌てて藤子がカウンターテーブルに広げている持ち物を片付けて、ブリーフケースにしまい込む
「またね!えくぼ君!」
そう言うと、彼女は爽やかに微笑み、まるでヒーローの様に去っていった
.:・.。. .。.:・
しばらく文也はぼーっとそこに座っていた
―今のは・・・幻じゃないよな・・・―
彼女の綺麗な顔・・・綺麗な髪・・・大嫌いだった自分のえくぼを「天使のディープキスの痕」と言った詩的な表現・・・さすがはコピーライターだ
そして彼女の優しさ・・・彼女のフワフワのおっぱい・・・そうやって今起こった出来事をぼんやり思い出していると、パソコンの時計を見たらすでに30分経っていた、文也は藤子にもらったミルクを一気飲みした
ミルクはすっかり冷めていたが美味かった、そして今一度ゴクンと唾を飲み込んで気がついた
「治ってる・・・」
.:・.。. .。.:・
あれほど今朝から喉にずっと針を刺されていたかのように痛んで、何もする気がしなかったのに、信じられない事に今は唾を飲み込んでも一切痛みはなかった
そして咳も止まっているし、体のダルさも無くなって、それどころか栄養ドリンクを飲んだように体は活気づいている
あれほどの魅力を発散させている女性には初めて会った・・・
文也は喉スプレーを握りしめてポツリと呟いた
「ふじこちゅわん・・・(はぁと)」
ここに新たな藤子信者が誕生した
コメント
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第36話、読み終わりました!もう「えくぼ君」って呼び方からして可愛いし、藤子さんの「天使のディープキスの痕」って詩的表現にやられました。風邪で苦しむ文也にホットミルクと漢方スプレーを差し出して、優しく背中を撫でる藤子さんの包容力…あの胸に顔を埋める流れは反則級にドキドキしましたね。最後の「ふじこちゅわん…」で確実に藤子信者が増えた瞬間、最高でした。