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コメント
8件
え。え。えーーー!説得させたの…すご。尊敬だわ。ちょっと、やり方教えて欲しいw🐱くんのその勇敢な心が欲しいわ…!ちゃんと弁償するのも2人の優しさでよき💕意外と彼氏がいい人っていうかわかってくれる人で安心😮💨これはリピ確👍最終回までお疲れ様でした!次の作品も楽しみにしてます♪
初コメント失礼します。めちゃくちゃハピエンで大歓喜しています。次の展開はどうなるだろうとずっとハラハラしながら読んでたので、本当に青桃が成立してよかったですうれしいです...幸せな気持ちになりました。本当にありがとうございます!!
最後の「君のせい」がとっても心に響きました!それに、別投稿サイトの作品も見させていただきました!どれもすてきな作品でした!ハラハラしたり、思わず感激し涙なんかも…ものすごく楽しかったです!これからも、更新頑張ってください!また、最終話お疲れ様でした!!!
【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します
ご本人様方とは一切関係ありません
スパダリ攻め(青)×ネガティブ思考受(桃)
桃視点(最終話)
リビングのソファの上、足を上げて体育座りの状態で膝を抱えた。
あの後、まろに言われた通り社長室で15分経過するのをじっと待った。
時計を確認して長針が90度進んだ瞬間、荷物を手に事務所を飛び出すと、まろの姿もあの黒い車の影ももう既にそこにはなかった。
何が起こっているか全然分からない。
ただ、まろが俺のために「彼」に何らかの働きかけをしようとしているんだということは漠然と認識する。
家に戻って子供が親の言いつけを守るように、中からしっかりと鍵をかけた。
そうしてリビングのソファに座ったわけだけれど、何をする気も起きるはずがなくただ膝を抱えていることしかできない。
壁にかけた時計の秒針が、カチカチと時を刻む音だけが響く。
膝に顔を埋めて、じっと待つだけの時間は驚くほど永く感じられた。
やがてインターホンが鳴ったのは、もう丑三つ時と言われる時刻になってからだった。
バッと顔を上げ、モニターに食いつくように駆け寄る。
そこに映った影に、俺はろくに返事をするのも忘れて急いでロックを開錠した。
玄関へと走りそこの鍵も開ける。
エントランスドアを抜けただろうまろがここへ辿りつくまでのほんの数分の間も、まるで生きた心地がしなかった。
胸はドクドクと早鐘を鳴らし、呼吸がしづらくなるように苦しい。
フロアを歩いてくる足音が近づいてきたと思った瞬間、今度は家のインターホンが直接鳴らされた。
それを認識するより前に、俺はバンと勢いよくドアを押し開く。
慌てすぎたせいで、勢い余ったそれが思ったよりも乱暴に開かれた。
「うわっ」と小さく声を上げて驚いたまろは、寸でのところで後ろに身を引いて直撃を避ける。
そしてそれから、慌てている俺を見てふっと目元を緩めた。
「ただいま、ないこ。お前のとこに戻るって約束、ちゃんと守ったやろ?」
そう言って笑うまろを見上げ俺はまた泣きそうになる。
ぐっと眉間に皺を寄せて、何とかそれを堪えた。
部屋に上がったまろは、リビングのテーブルに荷物を置いた。
手にしていたのはどこかの店のショッパー。
中を覗くとどれも見覚えのある物ばかりだ。
「…え…もしかして行ったの?」
驚きながらの俺の問いに、まろは意味ありげに笑うだけだ。
袋の中に手を入れ、そこにある物を取り出していく。
それは服や日用品の一部で、俺があの『彼』の家に置いていた私物だった。
「どういうこと?」
「全部持って帰ってきたつもりやけど、残っとるもんがあったら処分してって言うといた。そんなに重要なもんは置いてないやろ?」
「何考えてんのまろ!? あんな脅してくるような奴のところに行ったら危ないじゃん…!」
思わず大きな声を上げた俺に、まろは目尻を下げて笑う。
「ないこの言うた通りやったよ」
そんな突拍子もないセリフを吐くものだから、俺は「え」と怪訝な顔で首を傾げた。
「ないこ、前にほとけに言うたやん。『付き合う人間は選んでる』って。今回のあの彼氏も…まぁ急にないこが別れ話出したからちょっと突発的にやりすぎただけで、根は悪い人間じゃなさそうやったよ。冷静に話したらちゃんと分かってくれた」
そう言いながらまろは、中身を全部出し終えたショッパーを畳んだ。
それから何かを思い出したかのように苦笑いを浮かべる。
「…うん、でもPCと複数持っとったスマホを全部壊されたんはちょっとかわいそうやったな」
「壊した!?」
他人事のように言ったまろだったけれど、「誰が」やったのかは聞かなくても分かる。
「動画も写真も全部削除させたし、隠しカメラも全部出させて壊してきた」
「まろがそんなことしたら第二の炎上ネタに…」
「ならんよ。弁償するって言うて振込先も聞いてきたし、ちゃんと話して納得してもらったから」
…納得「させた」の間違いじゃなくて?
混乱する頭を抱えたい心境にかられながら、俺はため息をつく。
「弁償…って…それ俺がするよ。元々俺の問題だし」
そう言った俺に、まろはそれでも首を縦に振りはしなかった。
「でも壊したんは実際俺やしな」
「いや、でも…」
「じゃあ半分こする?」
まるで目の前にあるチョコレートを分ける相談みたいなノリで言って、まろはまた小さく笑みを漏らす。
そしてそれから改めて体ごと俺の方へ向き直った。
「もう大丈夫。今後ないこに近づかんようにって話もつけてきたから」
…本当に? 自分じゃもうどうしようもないと…相手の要求に応じるしかないと思っていた。
まろが出てきてくれただけでこんなに早く事態が収束する?
そりゃ今まで仕事でだって随分救われてきたけれど。
途端に申し訳なさがこみ上げてきて、「…ごめん」と小さく呟いた。
俺の囁き程度の声は、それでもまろの耳に届いただろう。
俺の目を見つめ返して、もう一度苦笑いを漏らす。
「ごめんやなくて、もっと違う言葉が聞きたい」
言われた意味が瞬時には脳内で嚙み砕けず、多分俺の頭の上には大きな疑問符が飛び交っていたと思う。
…「違う言葉」……?
「…『ありがとう』?」
何とか捻り出した言葉を口にすると、まろは「…はっ」と堪えきれないように吹き出して笑った。
…こんな心の底から楽しそうに笑うまろを久しぶりに見た気がする。
いつもはただ、意味ありげに穏やかな顔で俺を見ているだけのくせに。
一瞬がくりとわざとらしく肩を落としたまろは、次に顔を上げたときには同時にその手を前へ伸ばした。
俺の方に差し出されたそれは、手のひらが天井を向く。
「ないこの本音が聞きたい」
「…え…」
本音……本音??
思考を巡らせてはみたけれど、これまで奥底に押し込めてきて絶対に口にしてはいけないと自制していた言葉しか思い浮かばない。
それを声に乗せるのは憚れる。
差し出された手を取る勇気もなくて、俺はただ息を飲みこむしかできなかった。
「なぁないこ、気づいとる?」
手も口も動かせないままの俺に、まろはそう話を改めながら笑みを見せた。
呆れられたわけではなさそうで少しだけ安堵する。
俺が取れなかった手を引っ込めたまろは、そのままダイニングテーブルの上に腰かけるようにしてもたれかかった。
「実はずっと前から、全肯定するんはないこの方なんよ」
続いた言葉に俺は「え?」と困惑した呟きを漏らすことしかできない。
テーブルに後ろ手をついた態勢で、まろは顔だけこちらへ向けた。
「お前はいつでも俺のことを全肯定する。何でもできる、自分の失敗すら全部尻ぬぐいするって。…違う?」
問われた意味を俺が考える前に、まろはそのまま言葉を続けた。
「でもそうじゃない。俺は聖人でもないし、欠点もいくらでもある。ただないこが自分のために俺が何でもしてくれると思うなら、それは俺が完璧な人間だからやないよ」
一度声を途切れさせて、生まれる空白。
「ないこやから」
そんなほんの一瞬の空白で、まろの声はより重い響きを含ませる。
それでも苦しい重さではなかった。
「ないこが好きやから、かっこつけたくて必死に頑張っとるだけ」
これまで逸らしてきた目線と意識は、もうまろの前から固定されて動かすことができなかった。
「……まろが?」
唇を薄く開いて、震えそうな声が小さく漏れる。
それに「そう」と頷いたまろは、頬を緩ませてただ穏やかに笑った。
「ないこは?」
そのまま尋ねられて、瞬時に自分の胸の内で熱くせり上がってきそうな感情があることを自覚する。
これまで絶対に言ってはいけないと…早くなかったことにしなければいけないと思って、忘れようと努めていた言葉。
「…すき、だよ」
ぽつりと漏らした声は、自分でも驚くほど掠れていた。
それでも確かな重さを携えていたはずだ。
「本当はずっと好きだった…でも忘れなきゃいけないと思ってたから…あんなことして…」
自分のシャツの、胸の辺りをぐっと掴む。
そうして力を入れていないと極度の緊張といたたまれなさから卒倒しそうだった。
だけどそんなこちらの重い感情すら、まろはふっと笑んで軽やかな空気を辺りに舞わせてしまう。
「うん、あほやなぁ」
そう言って再度差し伸べられる大きな手。
いつもなら「あほってなんだよ!」とかなんとか喚いていたかもしれない。
だけど今日だけは、まろが溢れさせるこの穏やかな雰囲気に飲まれるように鼻と喉の奥がツンとする。
言い返すべき言葉なんてあるわけもなくて、俺は恐る恐る手を伸ばした。
まろが差し出したそれにゆっくりと乗せる。
「もうそんなことせんでえぇよ。もう「自分なんか」って思わんやろ? もしまだ自分のことを認められん気持ちが少しでもあるなら、その時は俺のこと信じて。ないこは俺のこと全肯定するやん。そんな俺がお前がいいって言うんやから、それを信じて」
そう言いながら、まろは俺の手が乗せられた自分のそれをグイと引いた。
力いっぱい引っ張られてよろけそうになった俺の体が、トンとその長身の体にぶつかる。
そのままぎゅっと抱き寄せられた。
すっぽりとその大きな腕に包み込まれる。
あぁ…そっか、俺、自分じゃなくてまろのことなら信じられるかな。
最初から手を引いてくれるだけだったら疑心暗鬼状態が続いて無理だったかもしれない。
でも、俺がその一歩を自ら踏み出すまで待ってくれていたまろのことなら…。
そんなことを考えていた俺から、まろが少しだけ体を離した。
至近距離で青い髪が揺れる。
それと同じ色の瞳に覗きこまれたと思った瞬間、まるで合図のように俺は自分の目をそっと閉じた。
唇に押し当てられた柔らかい感触に、ドクリと鼓動が大きく跳ねる。
軽く触れては離れるキスを、まろは何度か繰り返した。
やがてちゅっと音を立てたそれに、俺はたまらなくなってその首に腕を回す。
すがりつくように力をこめたそれが引き金になるみたいに、段々と深くなっていく。
俺の後頭部に添えられた左手と、腰に回した右腕をさらにぐっと引き寄せて、まろは開いた唇の隙間から舌をねじこませてきた。
ズクンと全身が疼くような感覚に、息をするのも忘れて必死で応じようとする。
…キスってこんなに気持ちよかったっけ?
単純にまろがうまいとかそんな話じゃない気がする。
今まで誰としても、こんなに快感に溺れるような感覚に陥ったことはない。
必死に縋りついて苦しいのに、まろに息をつかせる隙すら与えたくない。
まろももっと俺に溺れてよ。
ゼロ距離を更に縮めるかのように、俺はぐっと再び腕に力をこめる。
引き寄せる強さに少し苦しくなったのか、まろが「痛い」と囁きながらふっと吹き出すように笑った。
それから「そうや」と小さく呟いて、俺の腕に手をかける。
ゆるりとした手つきでそれを自分の首から外しながら、俺の目を覗き込んだ。
「しばらくはこれ以上のことはせんから」
「…え…!?」
一瞬、言われた意味が全く分からなかった。
半拍遅れて聞き返した俺の肩をぐいと押し戻して、まろは意地悪く笑う。
…あ、その顔も、これまで長い間一緒にいたのに初めて見る表情かもしれない。
「ないこも少しは思い知ったらいいと思って。俺がどんな気持ちやったと思う? 目の前で次から次へと恋人かえられて、あぁ今度はこいつとやっとるんかなって思わされる気持ち。夜道でキスしとるとこ見かけたりキスマ付けてきたり、頭狂うかと思った」
「……」
ぐうの音も出ないっていうのはこういうことだろうか。
思わず押し黙るしかなかった俺に、まろは更に目を細めて笑む。
「あと今回の彼氏に動画削除させるとき、確認でざっと一応全部に目を通したけど発狂するかと思ったわ」
「…ごめん…」
「だからしばらくないこに手は出さんよ。好きな相手が目の前におるのにそれ以上進めん辛さ、味わってみたら?」
「……」
「お前が今までに付き合ってきた連中と一緒にされるんも癪やし」
…確かに、これまで軽く付き合ってきた人たちはどちらかと言うと体目当ての人が多かった。
こっちだって同じだったし、その方が楽だったから。
たまに今回のように本気になられることもあったけど…………けど!
「やだよそんなん。我慢できるわけないじゃん」
今だってキスされただけで、こんなに全身でまろを求めているのに。
疼く熱をそのまま放置されたような状態で、俺は縋るようにまろの腕に手を伸ばした。
「ざんねーん。ないこはそうかもしれんけど、俺の忍耐強さは今回で証明されたやろ?」
んはは、といつものふざけた笑いを零す。
…その顔は知ってる。
俺が好きな、いつものまろの楽しそうな表情。
「…あの人たちと、一緒なわけないじゃん。まろが俺の今後の人生で最後の人だし」
腕を掴んだ手を、ぎゅっと更に強く握る。
俺のそんな言葉にまろは思わずと言った感じで目を丸くした。
少し驚いたような表情の後、こちらから目線を逸らしながら苦笑を浮かべる。
小さく吐息を漏らした後、俺の頬に左手を伸ばしてきた。
「…ずるいなぁ、その殺し文句は」
添えられた手が、頬を撫でる。
くすぐったいような嬉しいようなそれに目を伏せると、じんわりとした温かさが胸に広がっていくのを感じた。
たった一歩踏み出して、たった一センチの距離手を伸ばした先の未来。
それは確かに明るくて、これまでの自分には眩しすぎるくらいだった。
そこにたどり着いたのも、俺の視界が拓けたのも。
今こんなにもこの胸が震えるのも。
全部全部…、『君のせい』。
ーEND-