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第5話 〚声を出す、という勇気〛
前期委員会を決める日。
その言葉を聞いた瞬間、白雪澪の胸は少し重くなった。
――委員会は、必ず二人以上。
一人で静かに過ごすことが許されない時間。
「じゃあ、希望がある人、挙手してー」
担任の声が教室に響く。
学級委員、生活委員、保健委員。
次々と名前が挙がっていく。
澪は、机の上で指先を絡めた。
(……放送委員)
原稿を読むだけ。
人前に出るわけじゃない。
声を出すのも、短い時間だけ。
――できるかもしれない。
「……放送委員、いませんか?」
一瞬、教室が静まった。
誰も手を挙げない。
ざわ、と小さな笑い声。
「誰もやらないでしょ」
「地味だし」
澪は、息を吸った。
心臓が、痛いくらいに鳴る。
(……今、挙げなかったら)
未来が、見えた気がした。
何も変わらない日々。
ずっと、声を出せない自分。
澪は、そっと手を挙げた。
小さく。
でも、確かに。
「……白雪さん?」
担任が驚いた声を出す。
教室の視線が、一斉に集まった。
「え、澪?」
「放送委員?」
ひそひそ声。
(……やっぱり、無理だったかな)
澪は、唇を噛みしめる。
昔から、勉強が出来なかった。
テストの順位は、いつも下の方。
だから、
「澪なんか、委員会できるの?」
そんな視線には、慣れていた。
――どうせ、そう思われてる。
「でもさ」
誰かが小さく言う。
「一人じゃできなくない?」
担任が、頷いた。
「そうだね。放送委員は二人必要だ」
澪の胸が、きゅっと縮む。
(……やっぱり)
そのとき。
「じゃあ、俺も入ります」
迷いのない声。
橘海翔だった。
教室が、ざわつく。
「え?」
「なんで海翔が?」
澪は、顔を上げる。
「橘……くん?」
海翔は、少し照れたように頭をかいた。
「委員会、まだ決めてなかったし」
「放送、興味ある」
それは、嘘じゃない。
でも、それだけじゃないと、澪には分かった。
――助けてくれている。
「じゃあ、放送委員は白雪さんと橘くんで決定ね」
担任の声が、少し明るくなる。
澪の手が、震えた。
(……私で、いいの?)
海翔は、澪の方を見て、
小さく笑った。
「よろしくね」
「……はい」
声は小さかったけれど、
今までで一番、はっきりしていた。
その瞬間。
澪は、思う。
勉強が出来なくても。
話すのが苦手でも。
誰かが隣にいれば、
前に進めることがある。
――声を出す、という勇気は。
――一人じゃなくても、いい。
放送委員の席で並んだ二人は、
まだ知らない。
この選択が、
また一つ、未来を変えることを。