『昨日、人殺した』
私の愛する人は、そう言っていた。
その時は梅雨で、レイはずぶ濡れだった。
私の家に駆け込んできたレイは、震えていた。夏が始まったばかりだったのに。
『アヤちゃん、殺しちゃった。いつも、いじめられてた、からさ。もう、やんなっちゃって。ころ、すきは無かったんだけどさ。肩、軽く押した、ら、階段、落ちてっちゃって』
泣きながら話すレイの声は嗚咽混じりで、少し聞き取りにくかった。
アヤちゃん、斎藤彩。いつも君を虐めてた、学校でも有名ないじめっ子。彼女を敵にしたらもう学校には行けなくなる。でも、君は耐えてた。頑張ってた。
『も、う、ここにはいれない、と、思うんだ。だか、らさ、どっか、遠い、所で死んでくる』
何を言っているんだろうか。自分の耳を疑った。別に自分を虐めてた奴に一矢報いただけじゃないか。レイは、何も悪くない。
、、、でも、今の君に何を言っても何も聞いてくれないのは、分かっている。
死ぬのはダメ、だとか、死んでもいい事ない、なんて根拠のない偽善よりも今私が言わなきゃ行けないことは、
『じゃあ、私も連れて行って』
そう言った時の君の顔はすごく驚いていて、アホ顔だったのを覚えてる。
『、、、本当?』
君の声は小さく震えていた。
『本当。』
この言葉に、嘘偽りはない。
『そっ、か、、、』
『、、、準備、しよ』
そう、小さく呟いてレイは立ち上がった。
もう、さっきみたいな泣いてぐちゃぐちゃな顔ではなかった。
3500円入った財布、台所にあった中で1番大きい包丁、あと、暇な時にやる用の携帯ゲーム。
一通り必要なものを君とお揃いのカバンの中に詰めて、
『あと必要なのは?』
『壊していこう、全部。私たちが生きた痕跡も』
レイはそう言った。何かを決意した顔で。
家族との写真も、卒業アルバムも、お気に入りのクマのぬいぐるみも、全部包丁で壊した。でも、ひとつ持っていくことにした。レイとの写真。
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