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透明な放課後
 
 
 昼休み。教室。
 俺は机に座ったまま、視線を前に送る。
 (……スマイルがいない)
 誰も気にとめていない。broooockもシャークんも教室でそれぞれ昼食をとっている。
でも、そこにいるはずのスマイルの席 が、
ぽっかりと空いていた。
 
 隣の席のbroooockが、サンドウィッチをほおばりながら話しかけてくる。
 「今日、静かだねnakamu。どうしたの?」
 「……スマイル、来てないんだよ」
 「え?スマイルって誰?」
 「……は?」
 俺は、思わずbroooockの顔をみた。
 「スマイルだよ。スマイル。
昨日まで普通にいたじゃん。グループで…。」
 「nakamu、大丈夫?グループって私たち4人でしょ?
nakamuと、きんときとシャークんと僕。」
 「……きんとき?」
 「うん。ていうか、なに?なんでそんな当たり前のこと聞くの?」
 俺の背中を、じわりと汗が伝わった。
 きんときが消え、今度はスマイルも──
(俺の記憶が狂ってる?それとも、周りの方が壊れてる?)
 
 
 
 
 放課後。
 俺は、シャークんのもとを再び訪ねた。
 校舎裏のベンチ。
シャークんはすでに待っていた。
 「スマイルのこと、まだ覚えてる?」
 シャークんは驚いた。
 「うん。……やっぱり、消された。」
 「また、記録も?」
 「いや、写真はもうない。ノートの字もかすれてた。でも──声は覚えてる。最後に話した時の言葉も、まだ。」
 俺は拳を握った。
 「なんで、そんなことが起きてるの?
なにかに試されてる?罰?それともゲーム?」
 「nakamu」
 シャークんが、まっすぐ目を見てきた。
 「お前にしか見えないものがある。
それは多分──**”選ぶ力”**なんだと思う。」
 「選ぶ……?」
 「未来の自分とあったって言ってたよね。」
 「うん……教室で。”誰かを選べ”って言われた。選ばなきゃ、全員が消えるって」
 シャークんは、目を伏せて続けた。
 「俺も見た事がある。”自分じゃない俺”を。
彼は、俺にこういった。」
 『誰かが、真実から目を逸らしたから世界が壊れている”』
 「……って。」
 「…それって、」
 「その”誰か”が誰かは、わからない。でも、少なくとも、nakamuはまだ真実を見ようとしている。だから、消えていない。」
 俺の胸が、ズキリとした。
 「もし、俺が”見るのをやめたら”……」
 「その瞬間、お前も消える。」
 
 
 その時だった。
 空が、急に曇った。
 風が吹き抜け、ベンチの上のノートが1ページめくられる。
 そこに、赤い字で書かれていた。
 
 
 『きりやんは、全てを知っている。
だか、きりやんは口を開かない。』
 
 
 
 俺は、凍りついた。
 きりやん──
今まで誰よりも静かだったあいつ。
グループの中で最も目立たない、けれど、いつも皆の会話を聞いていたあいつ。
 (きりやんが、”鍵”…?)
 俺は立ち上がった。
 「会いに行かなきゃ。きりやんに。話を聞かなくちゃ。」
 シャークんはそっと頷いた。
 「気をつけて。きりやんは、危ない。
お前を”見ている”かもしれない。」
 「……どういう意味?」
 「”あの目”を見たことがある。……全部、
知っている人の目だった。」
 
 
 
 夕焼けが、旧校舎の屋上を赤く染めていた。
 俺は、階段を登っていく。
きりやんに、会うために。
つづく
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