テラーノベル
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深夜。
店を出たあと。
セブンは一人で帰る。
足音だけが響く。
頭の中には、さっきの言葉が残っている。
“教えるだろ”
“守るって、止めることじゃない”
「……」
答えは出ていない。
でも、消えてもいない。
——家。
ドアを開ける。
静か。
電気はついている。
「……起きてるのか」
靴を脱ぎながら言う。
リビング。
クールキッドがいる。
床に座っている。
タブレットを持って。
「パパ」
顔を上げる。
眠そうじゃない。
むしろ、待っていた顔。
「……寝てろ」
「ねれなかった」
短い会話。
セブンは少しだけ眉を寄せる。
違和感。
ただ起きてただけじゃない。
「……何してた」
「みてた」
即答。
「……何を」
クールキッドは少し考える。
それから。
「パパと、にいに」
空気が変わる。
一瞬で。
セブンの動きが止まる。
クールキッドはタブレットを持ち上げる。
「これ」
画面。
暗い。
でも、履歴が残っている。
複数の映像。
店内。
カウンター。
ログ画面。
「……」
セブンは近づく。
一目で分かる。
防犯カメラ。
店の端末。
経由している。
繋げている。
「……どうやって」
聞いても意味はない。
もう分かっている。
クールキッドは答えない。
ただ、セブンを見る。
「ケンカしたの?」
ぽつりと聞く。
セブンはしばらく黙る。
否定も肯定もしない。
「……違う」
結局、それだけ言う。
クールキッドは首を傾げる。
「でも、おおきいこえ」
「……」
「にいに、すごいって言ってた」
セブンの目がわずかに動く。
「パパは、だめって言った」
言葉が並ぶ。
そのまま。
そのまま受け取っている。
「……そういう事をするな」
セブンが言う。
低く。
少し強く。
タブレットを見る。
クールキッドを見る。
「見るな。繋ぐな」
命令。
説明はない。
クールキッドの表情が少し変わる。
戸惑い。
「……なんで」
小さな声。
でも——
セブンはまた答えない。
沈黙。
それが続く。
クールキッドは視線を落とす。
タブレット。
自分の手。
それから。
ぽつりと。
「どっち?」
顔を上げる。
まっすぐ見る。
「……何が」
「すごいの?」
「だめなの?」
セブンは言葉を失う。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
何も出てこない。
「……」
クールキッドは待つ。
でも、答えは来ない。
その沈黙が——
一番はっきりした答えになる。
クールキッドはゆっくり口を開く。
「……ほめてくれる」
小さく。
でも、はっきり。
「にいにのほうが、すき」
その一言で。
空気が完全に変わる。
セブンの中で、何かが止まる。
何かが刺さる。
深く。
でも。
表には出さない。
出せない。
ただ。
「……」
立っている。
動かない。
言葉が出ない。
クールキッドはそれ以上何も言わない。
またタブレットを見る。
でも。
さっきみたいに触らない。
ただ持っているだけ。
セブンはそれを見ている。
長く。
痛いほど分かる。
“否定だけ”では足りない。
でも。
何を言えばいいか、まだ分からない。
エリオットの言葉が浮かぶ。
“教えるだろ”
「……」
セブンはゆっくり息を吐く。
それから。
「……寝ろ」
結局、それしか言えない。
クールキッドは少しだけ間を置く。
それから。
「……うん」
小さく頷く。
立ち上がる。
歩く。
ベッドへ。
振り返らない。
そのまま、潜る。
静かになる。
完全に。
セブンはその場に残る。
一人で。
タブレットを手に取る。
画面を見る。
自分。
エリオット。
言い合い。
全部、残っている。
「……」
ゆっくり画面を消す。
暗くなる。
その中で。
自分の顔だけが、うっすら映る。
「……」
初めて。
ほんの少しだけ。
迷いが、はっきり形になる。
——止めるだけじゃ、足りない。
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#見捨てられた