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夕方になったので、俺達は帰宅していた。
「悪いけどまた待っていてくれ」
「いえ。お土産が楽しみですので、いくらでも待ちます!」
「ふふ。ミランちゃん楽しみにね!」
俺と聖奈さんは、転移室からマンションへと転移した。
「俺は宝石を売りに行ってくるが、聖奈はどうする?」
「私は会社に行くから、途中まで乗せていってね」
俺達は車に乗り込み、目的地へと向かった。
ここまでで良いと言われ、途中で聖奈さんを降ろした後、買取専門店に行き、宝石を売った。
サファイア以外もしっかりと売れたが、買った値段より安くなってしまった。
当然か。
最近麻痺してきたが、帯のついた現金は大金だ。しっかりとカバンに入れたことを確認し、会社へと向かう為、コインパーキングに停めていた車へと乗り込む。ここからなら車で15分程度だ。
「あれ?聖奈さんから着信があるな。なんだろ?」
車を出す前にスマホをチェックすると、着信アリの表示。
特に用事はなかったはずだが……
そう思ったが無視するはずもなく、すぐに折り返した。
トゥルルルットゥルルルッ
トゥルルルットゥルルルッ
出ないな。
メッセージも来ていない。
少し胸騒ぎを感じた俺は、会社へと急ぎ向かった。
会社へと着いた俺は、2階に電気が付いていることを確認して安堵する。…?
「待て。じゃあ何で、電話に出ないんだ?」
嫌な予感がした俺は、車に隠していた銃を取り出して、外階段を音もなく上がっていった。
(何か声がするな。誰だ?)
『どうすれば…』
『・・悪くない・・・くんが、どうに・・』
男の声(?)と聖奈さんの声だ。
俺は音を立てずにドアを開けた。
「須藤…?」
そこに居たのは須藤だった。
俺の声に、すぐ近くにいた聖奈さんと須藤がこちらを見る。
「聖!?ち、違うんだ!わざとじゃ…」
「聖くん。ドアを閉めてこっちに来て。大声は出さないようにね」
須藤は俺の顔を見て狼狽えているが、聖奈さんは逆に落ち着いている。
それが俺には酷く怖かったが、逃げるわけにもいかない。
「どうした?」
俺は聖奈さんだけが見えるように銃をチラつかせたが、聖奈さんは首を振った。
銃は要らないようだな。
「聖くん。驚かないでね」
そう言って聖奈さんがその場を退けると、その向こうに……っ!?
「誰だ、こいつは…」
俺は倒れている人物から視線を外し、二人へ問いかけた。
「この人は、私のストーカーらしいよ」
俺の質問には聖奈さんが答える。須藤は俯いたままだ。
「こいつが……須藤はどうして一緒に?」
「須藤くんは聖くんが頼んでくれていたんでしょ?ストーカーを見つけるようにって」
そうか。ようやく理解したぞ。
「須藤が聖奈を守ってくれたんだな?」
俯いていた須藤が青白い顔を向ける。おいおい。ヒーローがなんて顔してんだよ。
「…殺すつもりはなかったんだ」
やはり死んでいるのか。初めて死体を見たな。
死体と聞いても、何故かあまり動揺はしなかった。
やはり、異世界で魔物と言えど、人型を殺しているからか?
「わかってる。ありがとう。須藤には感謝しかない」
「長濱さんもそう言ってくれたけど……俺はなんてことを…」
「須藤くん。確かにこのまま警察を呼んでも、おそらく罪には問われないと思うの。
でも、経歴にはついて回ってしまう。今日のことは中々忘れられないと思うけど、忘れてもらえないかな?」
「一体…何を…?」
「この人のことは私達に任せて欲しいの。絶対見つからせないわ。
もし見つかっても、私が殺したって証言する。
私の恩人でもある須藤くんに背負わせたりなんかしない。
聖くんも自分の彼女の恩人にそんなことをしないのは、須藤くんもわかるでしょ?」
おい…こいつにも彼女だって嘘をついているのかよ……
「須藤。聖奈の言う通りだ。この事は早く忘れろ。今日お前はここへは来ていない。
いいな?」
「ふ、二人とも…」
「泣くなよ。感謝で泣きたいのは俺たちの方だからな。
ちなみにこいつは誰かの知り合いか?」
「私は一度アニ◯イトで会ったかも…覚えてないけど」
「俺は見たことないな。偶々友達の家から帰る途中に長濱さんを見かけて、声を掛けようとしたら、この男が長濱さんをつけているのに気付いたんだ。それ、で…」
なるほどな。面識がないのなら二人とも疑われることはないな。
もしあったとしても大分先のことだし、その頃には目撃者もいないことだろう。
問題はこの男が聖奈さんの情報をどこかに残していないかだが……
もしあっても、大柄な男だから、女性である聖奈さんが疑われる可能性は低いか。
「とりあえず須藤を送るよ」
「うん。そうしてあげて」
「いや!死体を隠すなら手伝うよっ!」
須藤…ありがたいが……
「須藤には感謝している。だが、この後のことは知らない方がいい」
「…わかった。聖が友達で良かったよ」
「何言ってんだ?それはこっちのセリフだ」
「いいなぁ……男の友情ぉ…」
聖奈さんが変な視線を向けてきているが、今は無視だ。
俺は須藤を連れて車に乗った。
「でも良かったよ。長濱さんが無事で。
最悪の気分だけど、もし今日を何度繰り返しても、結果は同じだとも思う」
こいつは善人だ。俺や聖奈さんと違って……
須藤には悪いことをしたと思うが、俺も何度繰り返しても、お前を頼ったと思う。
「ありがとうな。でも、この話はこれっきりにしよう。
顔が真っ青だぞ?」
「そ、そうか?
それにしても良い車に乗ってるな!
やっぱ社長は儲かるのかっ!?」
うん。普段の須藤だな。まだ顔色は悪いが。
「俺は切っ掛けに過ぎないんだけどな。聖奈がここまで大きくしてくれたんだ。
須藤も就職先に困ったらいつでも雇ってやるよ。
聖奈が…」
俺に人事権などないっ!
「はははっ!仕事でも尻に敷かれてそうだな!」
でも、とはなんだ!でも、とは!
「……優秀な経営者は、人に任せられるんだよ」
苦し紛れの言い分は、笑われてしまった。
「じゃあな。海外とかにも行ってるから電話は取れないかもしれないけど、メッセージを残してくれたら返事をするよ」
須藤のアパートの前に着き、お別れの挨拶をする。
「ああ。就職先に困ったらすぐに連絡するよ」
俺達は別れ、俺は会社へと向かった。
「それでどうする?」
死体を前に聖奈さんに問いかけた。
「備品のビニールシートがあるからそれに包もう。
視界に入れたくないからね」
確かに死体は見たくない。聖奈さんはまるでゴブリンの死体のように、何でもないかのように死体を扱う。
人に危害を加える点では、ゴブリンもストーカーも俺たちには大差ないか。
サイズ的にはゴブリンというよりも、オークだけどな。
死体をシートにくるんで、ガムテープで何か気持ち悪い液体とかが溢れないようにした。
「もう月は見えないね。ミランちゃん心配するだろうなぁ」
時刻は9時半を過ぎていて月は見えない。確か今の時期は9時台の月の入だ。
「明日の夕方まで持っていけないな。
とりあえず何があったのか、詳しく教えてくれ」
俺は詳細を聞いた。
聖奈さんは会社へと向かう途中、ストーカーに後をつけられ始めたようだ。
待ち構えていたのか、偶々なのかはわからないが、多分待ち構えていたんだろうな。
聖奈さんは時々電車で会社に向かうことがあったようだし。
その時はストーカーに探られないように、駅からは気をつけてタクシーなどで会社に向かっていたが、今日は駅の近くに下ろしたこともあり、油断して徒歩で会社に向かったとのこと。
会社に着いたら下のドアが閉まっていることを確認した後、階段を登った。
その時に後ろから羽交い締めにされて脅されたが、駆けつけた須藤により剥がされて、その拍子にストーカーは階段から落ちた。
「と、須藤くんは思ってるの」
やっぱり何かしたのか……
「これを使ったの」
聖奈さんはスカートの中から何かを取り出した。
「スタンガン?」
「そう。護身用に過去に市販されていたものだよ」
ふーん。怖いじゃん。僕に使うのはやめてね。
というか、スカートの中からそんな物出すなよ…オタク拗らせ過ぎだろ……
「それで階段から落ちたストーカーは打ちどころも悪く死んだと」
「そういうことだね。さっ!運びましょう?」
ん?どこに???
「何を驚いてるの?明日の午前中にはバイトさん達がくるんだよ?」
「そうだった…この重そうな奴を運ぶのか…」
「聖くんが魔法の転移を使ってもいいけど、出来るかどうか、出来ても失敗した場合取り返しのつかないことになるかもね」
そんなギャンブルはしません。
「それに須藤くんはここまで運んだんだよ?」
「そういえばそうだな。聖奈も手伝ったんだろ?」
「うん。足を持ってただけだけどね」
このストーカーを須藤は下から上半身を持ってあげたのか。
聖奈さんは多分足を上から持ったんだろうな。
それなら聖奈さんでも待てただろう。
「仕方ない。車に積んでいる聖奈の膝掛けを犠牲にしよう」
俺が上半身を持って最初に降りれば、間違いなく一緒に落ちる自信がある。
「えぇー。あれ、気に入ってたのにぃ」
「今度買うから諦めてくれ」
「やったぁ!約束ね!」
そんなことで階段から落ちなくて済むのならいくらでも買おう!
着信については、須藤の気が動転していたから、折り返しの電話には出られなかったようだ。
そもそも最初の着信は携帯の操作ミスだったんだと。
その後俺達は、めちゃくちゃ引き摺った。