コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
3人の点数を見て歩美は頭を抱えた。
「……うーん……これは……骨が折れるね……」
アーサーの点数は、5教科平均80点。国語が45点で、他の教科は全て90点越え。
アイリスの点数は、5教科平均30点。カタカナ、英語で答える部分はまだ答えられている。英語は85点取れるらしい。
そして、アルバートは、英語は百点満点だが、残りの教科の点数が絶望的だ。
「ホームズさんは何とかなるだろうけど……アイリスとアルバートは……」
アーサーは三年生だが、苦手科目が国語。学年は関係ないし、彼は基礎知識をつけることができれば、何とか点数がとることができるだろう。
しかし、アイリスとアルバートはそう簡単にはいかない。
アイリスに関しては漢字が読めない時点でもう半分諦められる。アルバートは、残りの4教科の平均が48点で、こちらも諦められる。
「まあ、ホームズさんの国語は課題のワークと、教科書を暗記すれば何とかなりますよ。見たところ間違っているのも、漢字ミスや、文法が多いですし、今回は国語メインで勉強してください。他の教科は勉強しなくてもほどほどの点数はとれるでしょう。課題のワークは全て合うまで解き直してください、それで、平均よりに10点高くとれるでしょう」
テスト用紙を眺めながらその向こうにいるアーサーを見つめて言った。
アーサーは固唾を飲みこみ、小さく頷いた。
歩美はアーサーに彼のテスト用紙を返すと、残り二人のテスト用紙をその二人につき返した。
「アイリスちゃん、君は漢字をひたすら書いて覚えて。もちろん読み方も。社会と理科は覚えたらどうにかなる。数学に関しては計算だし、問題文の言っていることが分かれば、解けるよ」
「はい、分かりました」
アイリスに優しい眼差しを向けた歩美だったが、次の瞬間、顔色が変わり、視線はアルバートに移った。
「君が全く二人に勉強を教えられない理由が分かった。そりゃこんなに点数悪かったら、教えられるものも教えられるか!!これからスマホなどの電子機器はすべて禁止!!ゲームは私が預けるから!それと、あなた、社会苦手すぎ、理科と数学、英語は帰国子女だからまだしも……国語と社会は点数取ってよ!!あなたもホームズさんと同じで、ワークの解き直しをしてください。最低三周。丸付けは私がする。直しも終わったら私に持ってきて」
歩美はそう言って、二人にテスト用紙を返した。
「ホームズさんも私に持ってきてください。五十分通して、十分休憩でこれを五時間しますよ」
歩美は書斎机の後ろに在る椅子に腰かけると、自分の筆箱から赤ボールペンを取り出した。
「アイリスちゃん、私の青ペン貸してあげる、これを使ってノートにびっしり書いてね。そうしたら覚えられるよ。回答の部分は隠して、ノートにテストして、持ってる赤ペンで丸付け、それだけだから自分でやってね」
そう言ってアイリスに青ペンを渡した。
「歩美さん。できました」
青ペンを抱えたアイリスが小さく会釈して、席に戻った時、アーサーがノートにワークを解いて、渡してきた。
「うーん……この漢字、線が一本足りません。1⃣の(2)は専門の門が間違っています。”もん”は”問”ではありません、このページ、解き直してください」
「え、あ、はい」
アーサーは歩美からノートを受け取ると、大きくため息を吐いて席に戻った。
「アルバート、社会してるの?分からなかったら、問題飛ばして持ってきてね」
「は、はい」
アルバートは、歩美の方に身体を向けていて、真っ直ぐ座っていなかった。
「アルバート、真っ直ぐ座って解いてね」
「す、すみません」
アルバートは真っ直ぐ座りなおすと、シャーペンをもどかしそうに動かした。
「で、できました!!」
アルバートは勢い良く立つと、歩美に小走りで持ってきた。
歩美はノートを見て驚いた。番号だけ書いて、答えがないからだ。答えが書いてあったのはわずか四問。
「……ねえ、アルバート、これ全部分からなかったの?」
「え、あ、はい」
「えーまじか。あーどうしよう、記述は百歩譲っていいけど……語句は暗記だからな……直ししたら持ってきてね」
「分かりました」
アルバートは歩美からノートを受け取ると、席に戻った。
「……」
アルバートは席に戻ってシャーペンを再び持ったが、挙動がおかしかった。
「アルバート?どうしたの?」
「あ、いや……別に」
自分の席の前に座っているアイリスに小声でそう聞かれた時、アルバートは顔から大量の汗が噴き出していることに気が付いた。
「熱、ある?」
「へっ?な、なんで!?」
アルバートは自分の額を焦って抑えた。
「顔、赤い。Why?(なぜ?)」
「Who knows!!(知るか!!)」
アルバートが焦って、叫ぶと、目の前のアイリスはもちろん、アイリスの隣にいたアーサーも驚いた。
「What’s up?(どうした?)」
「I’m not sure.(さあ)」
アイリスは、首を傾げた。
もどかしいような紅い顔で、二人の顔をじっと見た。
「Gotcha!(分かった!)」
いきなり、叫んだアイリスに驚いて、二人がアイリスの方を見る。
「Whoa! What’s the deal, man?(うわ!何が分かったんだよ?)」
アーサーが聞くと、アイリスは、いたずらを考えるような子供の顔でアルバートに言った。
「Albert, do you fancy Ami?(アルバート、歩美さんのこと好きなんでしょ?)」
「Not really…? I mean, I’m not into her or anything.(別に……?好きじゃないけど?)」
「Well, poor Ami… Should I just go tell her?(ええ、歩美さん可哀想……本人に言っちゃおうかな~?)」
アルバートが誤魔化すと、アイリスは、アルバートをいじるように笑った。
「Alright, I got it! I’ll tell you! Yeah, I fancy her!(分かったから!教えるよ!そうだよ好きだよ)」
2人の様子を見て、アーサーは言った。
「Should I lend a hand?(俺が協力しようか?)」
「Why? What’s the reason?(え?どうしてですか)」
「Because I’m the ultimate love guru of the senior class, that’s why. If I cooperate with you, it’s gonna work out perfectly, guaranteed!(だって俺は、学年で一番の恋愛マスターだからだ。もし俺が協力すれば絶対うまくいくさ!)」
アーサーは得意気に言った。
「Yeah, what’s crucial in love is none other than “gap moe”!(そう、恋愛に必要なのはすなわちギャップ萌えだよ!)」
「What’s that?(なんですかそれ?)」
アイリスは首を傾げて、アーサーに問う。
「You mean like, “Wait, that person?!” It’s when you’re taken aback by someone’s unexpected side.(「え!?あの人が?」みたいな感じで、意外な一面にドキッとすることだよ)」
「Oh, really?(ふーん)」
「So, if I do well on the next exam, there’s a chance…(ってことは、次のテストで良い点を取れば、もしかしたら……)」
アルバートが、希望に満ちた顔で、天井のシャンデリアを見上げた。
「Well then, I better study hard!(じゃあ、勉強頑張らないと!)」
「Certainly!(もちろん!)」
アルバートは、小さくガッツポーズすると、勉強に精を出した。
来る日も来る日も、勉強を欠かさず、スマホも触ることなく、勉強した。
俺はイギリスの帰国子女だ。それでも英語はかなりできる方だ。そもそも、父がアメリカ人だからアメリカ英語もできる。だから英語はいつも百点満点だ。
しかし!社会も国語も点数を取らなければ、歩美さんは振り向かない。
俺が、歩美さんにワークを丸つけて貰った時のあの人の顔……絶望的に脈なしだろう。
いやしかし、この期末テストでいい点とれば、きっと、振り向いてくれるはず……――
――テスト返却日(?)
「歩美さんのおかげで、国語も社会も百点です。ありがとうございます」
「わあ、すごーい!見直したよアルバート!」
――よし、行ける、全科目百点目指すぞ!
テスト返却日――。
事務所の中には、ピリついた空気が漂っていた。
そして3人の成績表を握りしめていた歩美は、アーサーの方を見て言った。
「ホームズさん。すごい!平均点95点。頑張りましたね」
「どうも」
アーサーの国語は、最高点、90点を記録し、平均点が95点を記録した。偏差値は66を記録。
「これで、受験も安泰です。本当にありがとうございました」
「いえいえ」
歩美はアイリスに視線を移すと、優しい笑顔で言った。
「点数が平均まで持っていけてる。国語も、前より上がってる。漢字も全部できてるね。他の科目もこれからがんばろ」
「ありがとうございます」
そして、歩美は厳しい視線をアルバートに向けた。
「全教科、平均80点。すごいじゃん。やればできるんだね」
「あ、ありがとう……ございます……」
アルバートの目の下にはクマがひどかった。
「じゃ、今日でゲーム返すから。頑張ったね」
「……はい」
しかし、歩美の表情が険しくなった。
「でも、国語は60、社会は50。あれ?数学と理科は百点満点なのに、なんでこの2つはこんなに低いのかな?」
「えっと……それは……」
アルバートが言葉に詰まっていると、アーサーとアイリスが背中を押した。
「アルバートを責めないでやってください。これでも頑張った方なんです」
「そーです。アルバート、歩美さんに褒める、してもらうために……」
アイリスが少しだけ流暢になった言葉で反論した。
「まあ、そうだよね。頑張った方だよね。夏休み明けの実力テストは期待してるから」
歩美は仕方ないなというような顔をした後、屈託のない笑顔を3人に見せた。
「……」
口の上に違和感を感じ、アルバートは手で鼻を押さえた。
「やべっ、鼻血が……」
「ティッシュがいるな」
「私、持ってくる」
「大丈夫?」
事務所の中には、和やかな空気が漂っていた。