「少し時間ちょうだい」
だけど思っていなかった言葉を伝えてきた樹。
「・・・え?」
「多分今すぐは、透子もオレが何言っても信じられないだろうから」
そう。こうやって樹は全部わかってしまうんだよね。
「だから透子も少し落ち着いて考えてみて。オレの存在」
だけど樹は私から離れるとは言わなかった。
「なん・・で・・?」
「ん?何が?」
「終わりにしないの・・?」
「だから何が(笑)」
樹は私の気持ちを察してないのか、それともわかっててわざとそう答えてるのかはわからないけど。
特に何もないようにいつものように笑って答える。
「だって・・私信じれないんだよ?」
「うん。わかってるよ」
「面倒なだけじゃん。こんな女」
「全然。だから信じてもらえるまで待つしかないよね」
面倒なこと嫌なくせに。
なんで待つとか言うんだろう。
他に好きな人がいるくせに、なんでそんな風にさり気なく言ってしまえるのだろう。
好きだなんて言われてないのに、自分がそう想われてるのかと勘違いしてしまいそうになる。
自分にくれたその言葉を信じたいのに。
それを受け止めれば幸せなのに。
どうしても、ずっと想い続けている誰かの存在が浮かんできてしまう。
それを思い出して、気持ちが小さくなってしまう。
その存在を知らなければ。
知らないまま幸せでいれたのに。
「ちゃんとその時が来たら、きっと信じさせてみせるから」
そしてなぜか樹は躊躇なくそんなことを言い切る。
「その時って・・・?」
「その時が来たらわかるよ。それまで無理せずゆっくり考えて」
「意味わかんない・・・」
「だからその時までオレは透子から離れることはないから。そして、きっと透子もオレからきっと離れないから」
「何それ・・」
どうしてこの人はこんな時でも余裕で自信満々なんだろう。
「だけど・・・」
だけど・・何?
樹の次の言葉が怖い。
「・・・それまでオレたちのこの関係、一旦距離置こう」
樹のその言葉が胸に突き刺さる。
離れることはないけど、距離置く?
結局どういうこと・・・?
・・・多分、私が悪いんだよね。
私がどっちつかずの反応してるから・・・。
だけど、彼が結局どうしたいのかわからない。
続けたいのか終わらせたいのか。
私だけが悶々としてて、彼はやっぱりこんな時も動揺もせずに余裕で。
ただ私だけが勝手に惑わされてる。
樹だけ余裕で、私ほど気にしてないようで悔しい。
私だけ好きで悔しい。
だけど離れられない私を、樹は決して解放しようとしない。
その気持ちを楽しむかのように、完全には突き放さない。
きっと私次第でどうにでもなるこの関係。
結局私がどうするかでこの関係は決まるんだ。
きっと樹にとってそんな感じのどっちでもいい関係なんだ。
「わかった・・・」
だけどそんな私をきっと樹はもうわかってる。
私が返すこの言葉もきっとわかってる。
「気持ち落ち着いたらまた連絡して」
そして樹は私次第でまだこの関係を続けようとする。
「プロジェクトはオレで出来る分は進めとくから。そっちもそっちで進められる分は進めといて」
「わかった・・・」
そして仕事のサポートもちゃんと考えられる余裕。
「じゃあごめん。仕事中呼び出して」
「・・・じゃあまた」
「また」
声を荒げることなく、そこで別れ話が出ることもなく、静かに話が終わって会議室を後にする。
結局これからどうなるんだろう。
結局私はこれからどうしたいんだろう。
時間が経てば、この関係は変わるのだろうか。
時間が経てば、私のこの気持ちに、この関係に答えが出るのだろうか。
結局、こうなったのは私が樹を信じられないから。
どうしてもまだ樹の気持ちを疑ってしまうから。
だから、私が離れるように自分で仕向けてしまったことだってわかってるのに。
いざ樹に受け入れられてしまうとこんなにもツラいんだ。
そして、今更どう後悔しても、もう離れることになってしまったのは確かな現実で。
どこかで、樹は適当に誤魔化してくれるかもと思ってた。
それならそれで、誤魔化されたままでいれば、また樹と一緒にいれたかもしれない。
だけど、樹は誤魔化さずに、一旦距離を置くことを選んだ。
きっと樹はわかっていた。
心の距離が遠くなってしまっていること。
あんなにも近くに感じられてたのに。
こんな簡単に遠くなってしまうんだ。
だけど、私はこの先この距離を埋められるのだろうか。
距離を置こうって言われたあの瞬間で、胸が張り裂けそうだったのに。
ホントに私はこの先こんな風に樹と離れたままでやっていけるのだろうか。
距離を置いたところで、樹の気持ちは私に戻って来るのだろうか。
樹が好きだからこそ素直になれなくて、樹を手放したくないからだってわかってるのに。
だけど。
距離を置いても樹は平気なんだと思ってしまう自分が情けない。
この距離で樹の心は離れてしまうかもしれないのに。
だからホントはそうなるのが怖かったのに。
例え誰か他に好きな人がいても、例え自分は一番じゃなくたって、少しでも私を必要としてくれていれば、一緒にいられたのなら、それだけでよかったのに。
ドキドキさせてくれる関係だけだったのに、いつからかそのドキドキだけじゃ物足りなくなって。
その上辺だけの関係だけじゃ物足りなくなって、その気持ちが、本当の気持ちが欲しくなってしまった。
自分を一番必要だと思ってほしい。
他の誰より私を好きだと思ってほしい。
なのに。
どう伝えていいかわからない。
どうすればそう思ってくれるのかがわからない。
どうしたら樹は私を一番に好きになってくれるんだろう。
どうしたら樹の本当の気持ちを手に入れられるのだろう。
今はまだその答えはわからないけれど。
この先どうなるかはわからないけれど。
でも。
今、自分でわかる確かなことは。
こんなにも樹のことが好きで、こんなにも胸が痛くなるほど、樹が大切だということ・・・。
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