テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
涼ちゃんが静かに席を立ち、部屋を離れたあと――手芸をしていた高校生たちの間に、そっとざわめきが広がった。
「ねえ、さっきの子……なんで帰っちゃったの?」
「体調悪そうだったよね。顔色もあんまりだし……」
「去年もずっと入院してたって聞いたことある」
「しゃべったことないなあ、ちょっと静かすぎて」
手元の糸やビーズをいじりながら、
小声でひそひそと話し合う。
「大丈夫かな」
「うーん、そういう病気なのかな……」
「前からあんまり誰ともしゃべらないよね」
「たしかに。いつも一番端っこにいるし……」
「同い年っぽいのにね」
誰かがそっと答えると、
「そうだよね。最初から元気なかったし」
「いつも一人で静かだよね、あの子」
「去年も入院長かったって他の子が言ってた」
やさしさからの心配も、どこか遠慮がちで当惑したものも、
それぞれの噂が静かに、そっと教室の空気に混じっていく。
明るい笑い声の余韻の中、
涼ちゃんのことは、ほんの一瞬だけ話題になり――
やがて誰もがまた、自分たちの作業や話題に戻っていった。