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#佐野勇斗
luv
1,397
屋上。
あの日以来、俺は無意識にそこに通うようになっていた。
静かで、誰にも見られない場所。
——のはずだった。
「またここか」
聞き慣れた声。
「……先生、暇なんですか」
「お前がいるから来てんだよ」
当たり前みたいに隣に座る。
(なんで毎回いるんだよ)
でも、不思議と追い返す気にはならない。
最初は会話なんてなかった。
ただ、隣にいるだけ。
それなのに、
(……落ち着くんだよなあぁ……)
それが一番おかしかった。
「昼、ちゃんと食ってるか」
「食ってます」
「嘘だな」
「なんで分かるんですか」
「顔」
「なにそれ」
思わず目を逸らす。
「ほら」
コンビニのパンを押し付けられる。
「いらないです」
「いいから食え」
強引に手に握らされる。
仕方なく口にする。
「……おいしい」
「だろ」
少しだけ笑う声。
そのやり取りが、妙に心地いい。
放課後。
「帰るなよ」
「……またですか」
「今日はちゃんと勉強」
誰もいない教室。
隣に座る距離が近い。
「ここ分かるか?」
「……分かります」
「じゃあなんで解かない」
「めんどくさい」
「正直でよろしい」
軽く頭を小突かれる。
その距離に、少しだけ息が詰まる。
「……先生」
「ん?」
「なんで、俺なんですか」
前にも聞いた質問。
でも今度は、少しだけ意味が違う。
「他にもいるでしょ、生徒」
「いるな」
「じゃあ、」
言いかけて、止まる。
「……なんでもないです」
「いや、言えよ」
顔を覗き込まれる。
近い。
逃げられない。
「……なんで俺ばっかり構うんですか」
少しの沈黙。
「お前が一番放っとけないから」
その言葉に、心臓が跳ねる。
「……迷惑です…」
「嘘つけ」
自分でも分かってる。
帰り道。
気づけば隣にいる。
「送る」
「いらないです」
「危ないだろ」
「何がですか」
「全部」
意味分からないのに、なぜか拒否できなかった。
(なんなんだよ、この人)
でも気づいてしまう。
先生がいない時間が、少しだけ長く感じることに。
そして——
その“先生といる当たり前”が、もうでき始めていることに。
佐野side
「佐野せんって、ほんと山中さんのこと好きですよね~」
昼休み。
女子生徒が笑いながらそう言ってきた。
「は?」
思わず変な声が出る。
「いやだって、めっちゃ話しかけてるじゃないですか」
「他の人にはあんな構わないし~」
周りも「たしかに」と笑う。
適当に流そうとして、ふと、気づく。
(……そんな分かりやすいか?)
自覚は、あった。
最近、気づけば山中を探している。
教室にいるか。
ちゃんと飯を食ってるか。
今日は寝れてるのか。
どうでもいいことのはずなのに、目に入る。
いや、違う。
“目に入ってしまう”。
職員室。
提出されたプリントを整理しながら、窓の外を見る。
グラウンド。
騒ぐ生徒たち。
その端を、ひとりで歩く山中。
輪の中には入らない。
誰かと話しているところも見たことがない。
でも不思議と、孤独に慣れているようにも見えた。
(……あんな顔するか、普通)
初めて見たときから思っていた。
山中は、諦めている。
期待していない。
誰にも。
だからだろうか。
あいつが少しでも感情を見せると、妙に嬉しくなる。
「……重症だな」
ぼそっと呟く。
ただの生徒相手に何考えてるんだ、俺は。
放課後。
なんとなく足が屋上へ向かう。
もう理由なんて考えなくなっていた。
ドアを開ける。
案の定、いた。
屋上の端の近くに座り、ぼんやり空を見ている。
「また来たんですか」
俺を見るなり、呆れた声。
「悪いかよ」
「……別に」
でも、“帰れ”とは言わない。
それだけで十分だった。
隣に座る。
風が吹く。
沈黙。
普通なら気まずくなるような時間。
でも、山中とは不思議と苦じゃない。
「先生」
「ん?」
「なんで教師になったんですか」
珍しく向こうから話しかけてくる。
「急だな」
「……暇なんで」
絶対嘘だ。
でも少し嬉しくなる。
「恩師に憧れたから、かな」
「へぇ」
興味なさそうな返事。
でもちゃんと聞いてる。
「お前は」
聞き返す。
「将来とか考えてんの」
その瞬間。
山中の表情が、少しだけ曇ったのを俺は見逃さなかった。
「あんまり」
短い返事。
それ以上踏み込むなって空気。
「そっか」
それだけで終わらせた。
すると山中が少しだけ驚いた顔をする。
「……聞かないんですね」
「無理に聞くことじゃないだろ」
小さく笑う声。
「変な先生」
「褒め言葉?」
「さあ」
でも、ほんの少しだけ。
本当に少しだけ、
山中の空気が柔らかくなった気がした。
その日の帰り道。
職員室へ戻る途中、廊下の角で数人の男子生徒が話しているのが聞こえた。
「山中ってほんと顔いいよな、まじであいつの顔で抜ける」
「きもお前!」
「でもなんか怖くね?」
「男たらしって噂あるし」
笑い声。
軽い悪意。
どこにでもある会話。
でも——
「おい」
気づけば声をかけていた。
男子たちがびくっと振り返る。
「佐野せん?」
「他人を面白半分で話すの、感心しねぇな」
空気が凍る。
「……さーせん」
気まずそうに去っていく背中を見送りながら、自分でも驚いていた。
(何やってんだ、俺)
こんなの、今までなら流していた。
わざわざ首を突っ込むタイプじゃない。
なのに。
屋上で見た横顔を思い出す。
“誰にも期待していない目”。
あんな目をするまで、
あいつはどれだけ諦めてきたんだろう。
考えた瞬間、胸の奥が妙にざわついた。
「……放っとけねぇよ」
ぽつりと零れる。
たぶん最初は、ただの興味だった。
危うくて、目が離せないだけ。
でも今は違う。
もっと深いところまで入り込んでる。
気づけば、山中が笑っただけで安心して、
少しでも暗い顔をすると気になって、
他のやつに名前を呼ばれてるだけで、妙にイラつく。
(……ああ、やばいな)
完全に侵食されている。
たぶん、先に堕ちたのは俺の方だ。
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コメント嬉しいです☺️
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話が好きすぎる😭今日更新待ってます🆙✨