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何だか嫌な予感が…😱
「はぁ……」
「どうしたの?ため息なんかついて。葵ちゃんにフラれちゃった?」
営業時間前、スマホを片手にお客さんへ連絡をしていると、春人がうしろから抱きついてきた。
「はぁ!?んなわけねーだろ」
そんなこと想像しただけで辛くなる。
「じゃあ、なんで元気ないのさ?」
「葵が明日から自分のマンションに帰るんだよ」
「あっ、そうなんだ。鍵、直ったんだね。良かったじゃん」
普通に考えたら良いことかもしれない。
葵にとっても。
慣れている自分の部屋の方が居心地はやっぱり良いだろうし。
「なになに?流星、寂しくてそんな顔してるのー?大型犬が捨てられたみたいな顔しているよ」
なんだよ、それ。
「葵ちゃんのご飯、美味しかったなー」
当たり前だ。
「だろ?」
「帰ったあとさ、結婚するなら、ああいう子の方がいいんだろうなって真剣に考えちゃったよ。ご飯はやっぱり大切だから。俺も遊んでないで、そろそろ将来について考えた方がいいのかなー?」
そんなことを話していた時
「流星さん、春人さん、すみません。お話が」
普段はあまり使わない控室にマネジャーに呼び出された。
そこには歩夢もいた。
なんかあったのか?
「なになにどうしたの?俺たちなんかしたー?」
空気を読んでいるのか、読んでないのかわからないが、春人がマネジャーに呼び出した理由を聞く。
「それが……。白蓮さんが飛びました」
「…!」
三人とも一瞬言葉を失う。
「マジっすか」
歩夢でさえ、スマホを見ずに視線を前に向けた。そういえばあいつ、最近体調不良とかで休むことが多かったな。白蓮は俺たちの次に売上があったホストだ。
「別にいいじゃん。この業界、よくある話だし」
春人が興味がなさそうに呟く。
「本当に飛んだのか?」
「はい。無断欠勤が続いたので、心配で家に行ってみたんです。そしたらもう引っ越した後で。スマホも繋がらないし」
「あいつがいなくなったことでの損害は?」
はい……と神妙な面持ちでマネジャーは話し出す。
「白蓮さんは、よくツケでお客さんに飲んでもらっていました。最近は禁止されたので、金額が増えてはいませんが。過去のものが回収できなくなる可能性があるのと、今日、白蓮さんのエースが来る予定なんです」
「まぁ、説明して帰ってもらうか担当変更じゃないっすか?」
歩夢が冷静に答える。
「普通はそうなんですが、白蓮さん、何を思ったのかそのお客さんには前払いでもう支払いをしてもらってるんです。たぶん、飛ぶのを計画してだと思うんですが」
最近あいつ、俺たちに対する態度も良くなかったからな。
「しょうがないから、お金返しちゃえば?面倒だし。俺、あいつのお客さん苦手なんだよねー」
やだやだと春人。
「通常であれば、営業時間前なんですが。それがもういらしているので、私の方から説明をしたんです。そしたら、契約違反だって。詐欺だっておっしゃってまして。簡単にはいかなそうで……」
前払いの契約なんて、うちの店にないんだけどな。
「いくら払ってんの?」
「二百万円ほどです」
あいつにしては、額が大きい。
「わかった。俺から謝ってみるよ。どうなるかわからないけど」
って言っても、俺も白蓮のお客さん苦手なんだけど。
「すみません。お願いします」
「俺も行くよ、流星一人じゃ可哀想じゃん」
「俺も」
春人と歩夢が立ち上がる。
「ありがとう。助かる」
「大変申し訳ございません」
白蓮の客に向かって、三人で頭を下げる。
「どういうお店?なんで白蓮がいないの?あんたたちが彼を虐めたんじゃないの?よく彼が愚痴ってたし」
虐めるって、言い方子どもかよ。
四十代半ばだろうか。
ブランド品に身を包んではいるが、もともとの金持ちかどっかの社長の妻か。
あまり品が感じられない言葉遣いと、体型にも気を遣っていなさそうだ。
露出の多い服を着ているが、短く太い足、腹回りの贅肉、肉が揺れている二の腕、綺麗とは言えない容姿。
金で物を言わせているような感じだな。
「お支払いいただいている金額については、もちろん全額返金いたします。申し訳ございませんでした」
これで終わってくれればいいんだけどな。
「何よそれ。お金だけ返してそれで終わりってこと?」
「では、どのようなことをご希望なのでしょうか?」
春人が問いかける。
俺に指をさしながら
「ふんっ、あんた、ここでは人気キャストなのよね?あんたが今日一日相手して」
ずっとは無理だ。予約も入っている。
「予約のお客様がいらっしゃるので、ずっとお傍にいることはできかねます」
「じゃあ、その間はあんたたちが相手をしてよ?」
春人と歩夢に指をさした。
どうする?どうすればいい?
「かしこまりました。できるだけ今日は俺がお相手をします。それでご理解いただけないでしょうか?」
「おいっ、流星……」
春人に肘を当てる。
「わかったわ。あんた、よく見ると可愛い顔しているし。まぁ、白蓮には負けるけど」
そうですか。それはすみませんね、心の中で舌打ちをした。
「では、お飲み物を準備させていただきますので、少々お待ちください」
ドリンクを準備すると言って、一旦退席をする。
裏では
「おいっ、なんであんな条件のんだんだよ!」
春人が珍しく声を大きくした。
「あの手の客は、他の客やこの辺の関係者と繋がっている可能性が高い。店の評判を落としたくはない。とりあえず、今日は我慢する。だけど……」
春人に耳打ちをする。
「……――?」
「わかった」
嫌々ながらも返事をしてくれた。
「歩夢も頼むな」
「はい」
「ってわけで、マネジャー、頼むわ」
「わかりました。流星さん」
「失礼します」
白蓮の客の隣に座る。
「待ってたわよ」
近いな、肩が触れる距離まで移動してきた。
「さぁ、持ってきてちょうだい?」
ヘルプがシャンパンを持ってくる。
俺が注ごうとすると
「私はいらない。あんたが全部、飲んで」
このボトル、全部飲めってことか?
「いや、もし良かったら俺が……」
ヘルプが助け船を出してくれるが
「ダメよ。あんたに飲んでほしいの」
はぁ……。マジか。一本目からこれかよ。
久しぶりだな、こんなことするの。
今日は、早く帰るって葵と約束したのに。
「かしこまりました」
ヘルプを何人か呼び、シャンパンコールが始まった。
「一発目からあれ!?マジないわ。あのおばさん。マネジャー、なんとかなんないの?」
「申し訳ございません。何かあった時はすぐに対応します」