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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第97話 〚 呼ばれる前の、音のしない時間〛
― 澪視点 ―
その日は、
何も言われていないのに。
なぜか、
胸の奥が落ち着かなかった。
授業中、
黒板を写しながら、
ふと先生を見る。
目が合う――
……気がした。
でも、
すぐに逸らされた。
(気のせい、だよね)
そう思おうとしても、
心のどこかで、
違う気がしてしまう。
修学旅行の振り返りプリントは、
もう提出した。
呼ばれる理由なんて、
ないはずなのに。
チャイムが鳴るたび、
少しだけ肩が跳ねる。
廊下で先生の声がすると、
無意識に背筋が伸びる。
(……来る)
根拠はない。
でも、
そう思ってしまう。
私は、
何かを隠したわけじゃない。
書かなかっただけ。
言わなかっただけ。
それなのに――
それが、
見つかってしまった気がした。
休み時間。
えまが隣で、
楽しそうに話している。
私は、
相づちを打ちながら、
教室の後ろを見た。
海翔は、
いつも通り。
でも、
視線が一度だけ、
私に向いた。
ほんの一瞬。
「……?」
何か言いたげで、
でも言わない目。
その瞬間、
胸の奥が、
きゅっと縮む。
(やっぱり……)
先生だけじゃない。
誰かが、
もう気づいている。
私が、
全部は書いていないこと。
全部は、
終わっていないこと。
放課後が近づく。
先生が、
名簿を机に置く音がした。
その音だけで、
心臓が少し速くなる。
(呼ばれたら、どうしよう)
何を、
話せばいいんだろう。
どこまで、
言えばいいんだろう。
でも――
呼ばれないままの方が、
もっと怖い気もした。
私は、
膝の上で手を握る。
大丈夫。
まだ、何も起きてない。
そう言い聞かせながら。
なぜかもう、
「先生に呼ばれる未来」を
心のどこかで
受け入れてしまっていた。