この作品はいかがでしたか?
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菜乃葉
「何かあったの。言い争っているように聞こえたけど」
ニコニコと、いかにも無害そうな微笑みを浮かべながら、菜乃葉は二人に問いかける。少女が口を開きかけるが、男が答える方が早かった。
「いや、これは違うんだ。ちょっとトラブルというか……あれ、もしかして君も魔法学校の新入生かい?」
この時期にこんな辺鄙(へんぴ)な地区にわざわざ訪れる若者は、菜乃葉のような学校関係者くらいだ。慌てて話し始めた男も、言葉の途中でそう気が付いたらしい。
菜乃葉
「そう。今からハリコルオン魔法学校に入学に行くところ」
「わぁ!それなら私と一緒ですね!」
菜乃葉の言葉を聞いた途端、少女が嬉しそうに声を上げた。少女は慌てて頭を下げつつも、言葉を続ける。
「すみません、急に大きな声を出したりして。嬉しかったもので、つい」
菜乃葉
「構わないけ、ど……」
菜乃葉は答えながら少女の顔に目を向けた。その少女は綺麗だった。目元は赤く泣き腫らしてしまっているし、表情は疲労と不安の色が強い。緩くウェーブのかかった銀髪も、長旅のせいか少し傷(いた)んでいる。そんな状態でも、少女の美しさは損(そこ)なわれていなかった。まだあどけなさは残っているものの、成長したら更に美人になることだろう。
少女の髪からは銀色の小さな猫のような耳が直角に伸びており、頬からは黒く真っ直ぐ伸びたヒゲが生えていた。
「私、美音(みおん)って言います。知り合いもいないし、一人でこんな遠出(とおで)をするのも初めてだし、ここまで不安で不安で……。やっと同じ新入生に会えて、すっごく嬉しい!」
菜乃葉
「そ。私は菜乃葉」
元気な自己紹介をする美音とは違い、ぶっきらぼうな返事と名前だけを返した菜乃葉だが、テンションの上がった美音は、それだけの簡単な返答(へんとう)では満足しなかった。
彼女はググッと顔を近づけつつ、間髪(かんぱつ)入れずに質問を続けた。
美音
「ねえ、菜乃葉ちゃんって何歳?」
菜乃葉
「15」
美音
「本当に? 良かった、なら同い年だ! なんか落ち着いてるから、年上かと思っちゃった」
菜乃葉
「へぇ…ぇ同い年…?」
思いがけない言葉に、菜乃葉は絶句(ぜっく)した。美音の方が年下だと、無意識に思い込んでいた。幼女らしい言動(げんどう)はついつい保護心(ほごしん)が湧き出すし、さっきだって泣いていたから菜乃葉は「元気な子供だなぁ」と思っていた。
しかしその沈黙(ちんもく)を、美音は違う意味で受け取ったらしい。
美音
「あーっ、菜乃葉ちゃん今、同い年の割には大人っぽいな、って思ったでしょ?私は頭も良いからね!無理もないよね!…あっ!!!!」
少し自慢気に返した美音は、急に大きな声を出したかと思うと、みるみる内に顔を青を青くした
美音
「大変、どうしようおじさん! 菜乃葉ちゃんも学校行けないよ!」
「うーむ、そうだなぁ。どうにかしてやりたいのは山々なんだが……」
二人はそう言い合うと、そろって頭を抱えて悩み出してしまう。
菜乃葉は「まず説明をしろよ」と心の中で突っ込んだ。とはいえ、大体事情は想像がつく。菜乃葉は自分で話を進めることにした。
菜乃葉
「ね、もしかして渡しの舟がもう無いの?学校に向かうための舟が」
「ああ、実はそうなんだ。今年は新入生が特に多いみたいでね。ここいらの舟はもう全部出払ってしまっているんだよ。そのうち戻っては来るだろうけど、色々と学校側で仕入れをしてからだから、数日はかかる」
美音
「でも舟が戻るのを待っていると、入学には全然間に合わないの!」
菜乃葉
「……ぅゎ…めんど」
たしかに菜乃葉が見てきた範囲(はんい)でも、渡しの舟は出払っていた。男の話に嘘は無いようだ。
ここまで来て学校に辿り着けず、入学も出来ないとあっては、美音が動揺(どうよう)するのも無理はない。舟が足りないなら別に迎えを手配するべきだが、おそらく学校側はこの状況に気がついていないのだろう。
「入学後なら転送門(ゲート)で学校に行けるようになるんだけど、君たちはまだ使えないだろう? 残念ながら、来年の入学時期(にゅうがくじき)を待つしかないね」
美音
「そ、そんなっ!」
美音の悲鳴に、おじさんが困ったような表情で答える。
「なんとかしてあげたいのは山々なんだけどね。泳いでいける距離でもないし、飛行魔法(ひこうまほう)でも使わない限りは無理ってもんだ」
美音
「……飛行魔法…ぁ」
美音の反応に、おじさんは慌てて手を振って否定(ひてい)する。
「ああいや、それはものの例えだ。そりゃ飛行魔法を使えるような凄腕(すごうで)なら、学校にも簡単に行けるだろうけどよ」
美音
「学校には、行ける……」
「おいおい、ちゃんと話を聞いてたか? あくまで、飛行魔法を使えるならの話だぞ?」
さっきまで元気で泣きそうな顔をしていた美音は急に静かになり、うーんとうねった。
内心面倒くさい(ないしんめんどくさい)しか考えていない菜乃葉は(もう帰ろ)しか考えていない。
美音
「……出来る!私ならできる!」
「いやいや、出来るわけないだろ! 飛行魔法だぞ!?」
また急に元気を取り戻した美音は「できる!」と意気込んで(いきごんで)菜乃葉に近寄った。
美音
「入学式に遅れるなんて、私は絶対イヤ!」
菜乃葉
「………」
美音
「ねぇ菜乃葉ちゃん!手を貸してくれない?」
菜乃葉
「ぇ、うん?はい」
美音が手を差し出すと、菜乃葉はよくわからないままに、自分の手を重(かさ)ねる。
「そもそもなぁ、飛行魔法ってのは希少(きしょう)な魔法なんだぞ。君達が持っているような感じは」
菜乃葉
「…え?」
「いやだから……え?」
おじさんが菜乃葉たちに目を向けた時、2人の身体はもう、宙(ちゅう)に浮き始めていた。
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美音
女
元気でバカっぽいけど頭はいい
面白いことや動物が好き
動物を虐める子やいじめっ子は嫌い
所持魔法…コピー系(特にコピーするのはファイアー系)、動物変化魔法
コメント
3件
可愛い子来た〜‼︎ 菜乃葉と仲良くして欲しいな〜