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心
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数日後。
達宣は練習の合間、ベンチに座ってペットボトルの水を飲んでいた。
少し前から気になっていることがあった。
練習のことでも、誰かとの関係のことでもない。
自分でもうまく説明できない、ちょっとした悩み。
別に、誰かに相談するほどのことじゃない。
そう思っていたはずなのに。
「大塚」
声をかけられて顔を上げると、祐希が立っていた。
「祐希さん! どうしたんですか?」
「いや、休憩してるのかなと思って」
「してます! めっちゃしてます」
「そっか」
祐希は隣に腰を下ろした。
それだけで、達宣は自然と話し始めていた。
今日の練習のこと。
最近うまくいかないこと。
そのうち、話すつもりのなかった悩みまで、ぽつりと口から出た。
「……まあ、俺がもっとちゃんと考えればいいだけなんですけどね」
最後は少し笑ってごまかした。
祐希はすぐには答えなかった。
「うん」
ただ、続きを待ってくれていた。
達宣は少し迷ってから、もう少しだけ自分の気持ちを話した。
うまくいかないと焦ること。
自分では大丈夫だと思っていても、あとから気になってしまうこと。
話し終えるころには、思っていたより長い時間が経っていた。
「……すみません。なんか、めっちゃ話しちゃいましたね」
達宣は照れくさそうに頬をかいた。
「別に、謝らなくていいよ」
祐希は落ち着いた声で言った。
「話してくれてよかった」
その言葉に、達宣は少しだけ目を丸くした。
「……そうですか?」
「うん」
祐希は、達宣の顔を見ていた。
何かを言ってあげたい気持ちはあった。
けれど、簡単に答えを出せることではないとも思った。
だから、まずは聞いた。
達宣が自分で考えて、自分の言葉で話してくれたことを、大切にしたかった。
「焦ることはあると思うけど、大塚がちゃんと考えてるのは伝わってるよ」
「……ありがとうございます」
達宣は少し照れたように笑った。
その笑顔を見て、祐希の胸が静かに温かくなる。
自分の前で、こんなふうに話してくれる。
それがうれしかった。
ただ、それを達宣に意識させたいとは思わなかった。
「そろそろ戻ろうか」
「ですね!」
二人は立ち上がり、並んで歩き出した。
達宣は、さっきまで話していた内容を思い出して、少しだけ恥ずかしくなった。
話しすぎたかもしれない。
でも、不思議と後悔はなかった。
祐希さんは、最後まで聞いてくれた。
変にからかったり、無理に励ましたりもしなかった。
ただ、ちゃんと聞いてくれた。
それが、思っていた以上にうれしかった。
「祐希さん」
「ん?」
「また、聞いてもらってもいいですか?」
言ってから、達宣は自分で少し驚いた。
祐希は一瞬だけ目を見開き、それから穏やかに笑った。
「もちろん」
その返事を聞いて、達宣も笑った。
「……ありがとうございます!」
その笑顔を見ながら、祐希は思う。
この時間を、ずっと大切にしたい。
達宣が自分の隣で、無理をせずに笑っていられるように。
そして、いつか。
自分の気持ちを伝えられる日が来るのなら。
そのときも、達宣が安心して自分の言葉を選べるように。
祐希はまだ、その日を急がない。
達宣はまだ、何も知らない。
けれど二人の間には、少しずつ、確かなものが積み重なっていた。
恋だと気づくよりも先に。
大切だと、思うよりも先に。
もうすでに、二人は互いの毎日の中に、自然と居場所を作り始めていた。
コメント
1件
「うん」だけで待ってくれる祐希さん、尊すぎない!?😭 達宣くんが「また聞いてもらってもいいですか?」って自分から言えたの、めちゃくちゃ成長だしキュンとした♡ 答えを急がず、ただちゃんと聞く。その優しさがもう恋の予感でしかない…! ラストの「自然と居場所を作り始めていた」で完全に撃ち抜かれました🌸 続き待ってます!