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憂海歌
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Haru
740
心
745
それから数日後。
練習の合間、達宣はいつものように祐希の隣に座った。
「祐希さん、今日ちょっと眠くないですか?」
「そう?」
「うん。なんか、いつもより静か」
「大塚はいつもよく見てるね」
「え、そうですか?」
自分ではそんなつもりはなかった。
ただ、祐希が少し疲れていそうだったから気になった。それだけだ。
「大塚は、この前のこと大丈夫?」
「……この前?」
「悩んでたこと。焦るって言ってたでしょ」
一瞬、達宣は目を丸くした。
まさか覚えているとは思わなかった。
あのときは、話しているうちに自然と口から出てしまっただけだった。祐希に相談しようと決めていたわけでもないし、特別な話をしたつもりもなかった。
それなのに。
「……あ、はい! 大丈夫です。ちょっとずつですけど」
「そっか。ならよかった」
祐希はそれだけ言って、ペットボトルに口をつけた。
大げさに心配するわけでも、詳しく聞き出そうとするわけでもない。
ただ、覚えていてくれた。
それが、達宣には妙にうれしかった。
「祐希さんって、ほんと優しいですよね」
思ったことが、そのまま口から出た。
祐希は一瞬だけ動きを止める。
「……そう?」
「そうですよ。なんか、ちゃんと覚えててくれるし」
「大塚が話してくれたことだから」
あまりにも自然な返事だった。
まるで、それが当たり前だと言うように。
達宣はなぜか少し恥ずかしくなって、手元の飲み物に視線を落とした。
「……そっか」
「うん」
それ以上、会話は続かなかった。
けれど、沈黙は気まずくなかった。
隣に座っているだけで落ち着く。無理に話題を探さなくてもいい。
達宣はその心地よさを、まだうまく説明できなかった。
ただひとつ思ったのは。
――また、祐希さんに話したいな。
ということだった。
その隣で、祐希は何も言わずに達宣を見た。
自分の言葉に少し照れたような顔。
いつもよりほんの少し、近い距離。
そんな小さな変化を見つけるたび、胸の奥があたたかくなる。
けれど、それを恋だと気づいているのは、今のところ自分だけだった。
それでいいと思っていた。
達宣が自分の隣で安心して笑ってくれるなら。
今は、まだ。
コメント
1件
達宣くんの「ちゃんと覚えてくれてるんだ」って気づきにほっとした感じ、すごく伝わる。祐希さんがベタに優しくなくてけんじめて距離がちょっとずつ縮まる感じが嬉しかったんだそう。この恋だと気づきは自分だけが気づいているのがまた良い。前話の焦りから少しずつ安心変わってく流れがいい。その心の動きをそんな風に描くのが自然な自然に感じた。なあ、Haruさん、このまま続く人たちがどこで気づくのか気になるところで。