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#シークレットベビー
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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「楽しくて気持ちが高揚しちゃってさ。目がギンギンなの」
「あはは。すき焼きの大根に感動していたね」
「うん。卵につけて食べたら最高だった。吾妻プロレスの奴らにも流行らせるよ」
得意げに言ったのち、滑車から降りて私の横に寄り添った。
私の手に恐る恐る乗った瞬間、手を握られる感触が伝わってくる。
私の中の変化。
ハムスターに見えていたのに、だんだんとじわじわと一慶さんの輪郭が現れてきている。
「流伽は、どんな時でも駆け付けたくなる親友と笑いの絶えない家族と、恐怖がない夜、安心して眠りにつけていたんだなって。だから俺は俺が持っていないものすべて持っている流伽に惹かれて、救われて、隣にいるのが嬉しいんだと思う」
ぎゅっと強く手を握られ、私も握り返したくてハムスターの背中を撫でた。
「私は今の、目の前にいるテンションの高いハムスターの一慶さんをどんどん好きになってるよ」
「ほわ? なんで?」
「……えーなんでって。絶対に人の悪口を言わないし、真剣な場面でもふざけるけど、人の気持ちに寄り添いたおうとしたり励ましたり。あといつも何事にも一生懸命で嘘偽りがないし」
「そ、そうかなあ、過大評価しちゃったらハムスターじゃない俺に幻滅しちゃうんじゃないかな、あはは、パンツ一枚でうろうろしちゃうし」
「そこは困るけど、貴方が自分を飾らない、素敵な人だって気づいたよ」
「流伽……」
「法律で強制は嫌だけど、今はちょっと感謝かな。再び一慶さんと会わせてもらえたし」
悪いことばかりじゃないって、一慶さんみたいにポジティブに考えてみようって思えたんだ。特別に何かすごいことをしたわけじゃないけど、一慶さんを見ていたら、この人の前で自分を偽るのは恥ずかしく思えてくるんだ。
「あら、二人ともまだ寝ないの?」
「お父さんたちはもう寝るぞー」
リビングを確認しに来たお父さんとお母さんが、庭にやってきた。
すると一慶さんは、私の手を握ったまま走り出す。
「あの、未来のお父様、お母様」
「ぶふ」
噴出した私に、握っている手が熱くなってくる。
「俺たち、お見合いを断ろうと思います。それでも、友達として交際をスタートしたいと思っています」
「友達として交際!」
なんだ、それって笑った私をお母さんが睨む。
いや、一慶さんが真面目で、緊張していて、言葉が上手く出てこないのは分かっている。でも意味が分からなくてつい。
「流伽に少女漫画を見せていただいて、こんな恋愛にあこがれている流伽が益々可愛くて好きになったし、俺も彼女に俺自身を好きになってもらいたい。少女漫画みたいにときめいてもらいたい」
お父さんとお母さんは、微笑んで頷いてくれていた。
「お見合い結婚の何が幸せって、国からの莫大な補助金なだけでしょう。だったら俺は、頑張って働くし、流伽からもらった『お金以上のしあわせなもの』を俺も沢山あげたい。今は未熟な俺と高校生になったばかりの流伽には青春が大事だと思うので、友達としてスタートし直したいんです」
「私も。ハムスターの時点でけっこう一慶さんが好きだし。お見合い解除して恋愛結婚憧憬症候群が治ってからちゃんと向き合いたいなって。お見合いは私の性には合わないみたいだから」
正式に明日、お見合いを断ろうと思います。
一慶さんが震える声で真っすぐにお父さんとお母さんを見て言った。
お父さんとお母さんは顔を見合わせて、再び微笑んでから私たちを見た。
「貴方たちが迷って悩んで、考えて出した答えだから」
「お父さんたちは反対しないよ」
「一慶くんならいつでもウエルカムだからね」
今は『息子』にならないと思うと、寂しくてたまらないわとお母さんが言った。
その言葉にハムスターの目から大粒の涙がこぼれていく。
「さ、お父さんと寝よう。格好いい技を教えてくれ。泥棒が来たらやっつけるような」
お父さんが手招きすると、私の手を握っていた感触が離れていく。
それが少しだけ寂しく感じた。それがすごく体温を奪われて悲しくなった。
ハムスターではない一慶さんが私はもっと知りたい。
今でさえ嬉しい気持ちを沢山くれるんだもの。
私たちは明日、お見合いを解消する。
国の法律によってお見合いした相手と解消。
でももう全然、後ろめたさも申し訳なさも何もない。
晴れ晴れした清々しい気持ちだった。
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