テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
仕事終わり。夜の駅前で待ち合わせをしていた。
「お疲れ🌸」
「お疲れ様!」
2人は手を繋ぎイルミネーションが輝く通りを歩いていく。
街は、昔よりも少し大人びた光り方をしていた。イルミネーションは洗練され、流れる音楽もどこか落ち着いている。
「寒くない?」
隣を歩く黒尾が、いつもの軽い調子で聞いてくる。
コート越しでも分かる、変わらない低くて安心する声。
「平気。てつくんがいるし」
そう言うと、黒尾は一瞬だけ言葉に詰まってから、わざとらしく咳払いをした。
「ハイハイ。そういうことサラッと言うようになったなぁ、🌸さんは」
大人になった二人。
だけど、並んで歩く距離や、指先が自然に絡む感じは、あの頃と変わらない。
「あ、ねぇ
ここ、覚えてる?」
🌸が足を止めたのは、ガラス張りのビルの前。
そこに映るイルミネーションを見た瞬間、黒尾の目が細くなる。
「覚えてるも何も…
高校の時、毎年夜のクリスマスデートした場所だろ」
あの日。
白いニットに身を包んだ🌸を見た瞬間、言葉を失った自分。
可愛い、って言うのが恥ずかしくて、でも隠せなくて。
「反則だろ」なんて言いながら、ずっと手を離せなかった。
「てつくん、あの時さ」
🌸が少し照れたように笑う。
「ずっと一緒に歩くって、言ったよね」
黒尾は足を止め、🌸の方を見下ろした。
「……言ったな」
「あれ、本気だった?」
その問いに、黒尾は迷わず答える。
「当たり前だろ。
俺、嘘つく時はもっと軽い」
そう言って、🌸の肩を引き寄せる。
昔よりも自然で、守るような仕草。
「ほら、見ろよ」
指さした先には、巨大なクリスマスツリー。
ゆっくり瞬く光が、二人を包み込む。
「高校の時はさ、
正直、クリスマス=デートってだけで精一杯だった」
黒尾は少し照れたように続ける。
「でも今は違う。
一緒にどんな店行って、何食って、
帰りにどんな顔で笑うかまで想像してる」
「それ、ちょっと重くない?」
からかうように言う🌸に、黒尾はニヤッと笑った。
「今さら。
もう逃がす気ねぇし」
二人はレストランに入る。
キャンドルの灯り、静かな音楽、グラスが触れ合う音。
「乾杯」
「メリークリスマス、🌸」
「メリークリスマス、てつくん」
食事の途中、🌸がふと黒尾を見る。
「ねぇ。
私、あの時の夜、すごく幸せだった」
「どの時?」
「高3のクリスマス。
受験勉強はきつかったけど、イルミネーション見ながら、手繋いで歩いたやつ」
黒尾は一瞬黙ってから、静かに笑った。
「俺も。
あの夜があったから、今があるんだろうな」
店を出ると、雪が少しだけ舞い始めていた。
「うわ、ロマンチック」
「狙って降ってくるなら、雪もなかなかやるな」
黒尾はコートの中に🌸を引き寄せる。
「なぁ」
「なに?」
「来年のクリスマスも、再来年も、
こうして一緒に歩こうぜ」
🌸は黒尾の胸に額を預けて、静かに頷いた。
「うん。
あの時の続き、ちゃんと今に繋がってるもんね」
イルミネーションの下。
高校生だった二人の影と、
大人になった二人の影が、重なるように伸びていた。
――今年も、来年も、その先も。
黒尾と🌸のクリスマスは、ちゃんと続いていく。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!