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今日も今日とて💚💙
第十六話 ⏳ 恋が整う三分前
翔太side
今日も今日とて、サウナで汗をかく。
蒸気に包まれた室内で、亮平の呼吸が少しだけ荒い。
目を閉じた横顔。額を伝う汗。
最近、仕事が忙しいのは知っている。
帰る時間も、食事のタイミングも、少しずつ噛み合わなくなっていた。
最近、亮平の帰りが遅い。
それを責める気はない。
ただ、少しだけ触れ足りない。
亮平の睫毛の先で汗が揺れる。
それを見ている自分のほうが、落ち着かない。
整うまで、あと三分。
「亮平、無理するなよ」
先輩風を吹かせたつもりの声は、思ったよりやわらかい。
亮平が小さく笑う。
「翔太こそ」
視線が合う。
逸らさない。今日は。
整うまで、あと一分。
荒かった呼吸が、少しずつ揃っていく。
俺の鼓動も、同じ速さになる。
外気浴の椅子に並んで腰を下ろす。
夜風が濡れた肌を撫でる。
少し冷たい。
「整った?」
そう聞きながら、本当は自分のほうが確かめている。
「うん。……やっと」
その一言で、胸の奥の何かがほどける。
少しの沈黙。
触れたい。
そっと手を伸ばす。
触れるだけのつもりだった。
なのに、指が離れなかった。
亮平が、きゅっと握り返す。
それだけで、全部戻ってくる。
「最近、ちゃんと触ってなかった」
冗談みたいに言う。
でも半分、本音だ。
亮平が目を開ける。
「じゃあ、今から取り戻す?」
軽く肩がぶつかる。
笑う。
離れない。
整ったのは、身体だけじゃない。
ずれていた時間も、呼吸も、
ちゃんと隣に戻ってくる。
「なあ、もう一セット行く?」
言いながら、少しだけ引き寄せる。
亮平が笑う。
「それとも、このまま?」
触れた体温が、今度はちゃんと熱を持つ。
恋が整う三分前。
それはきっと、触れ直すための時間。
そして今は、
ちゃんと好きだと確かめる時間。
――そのあと。
サウナを出て、夜道を並んで歩く。
まだ身体は熱いのに、夜風は思ったより冷たい。
亮平の濡れた髪の先からは、ぽたりと水が落ち色っぽい。
つい見てしまう。
腕をさすって寒そうにしている。
その瞬間。
「……っくし」
小さなくしゃみ。
視線が即座に向く。
「寒い?」
「平気。喉ちょっと乾いただけ」
そう言って笑う。
歩きながら、もう一度。
「……っくし」
さっきより深い。
でも、本人は気にしていない。
俺だけが、気にしている。
⸻
【健康保全課 観測記録】
・外気浴中 くしゃみ一回
・帰路途中 追加くしゃみ二回
・発言「喉乾いた」確認
合計三回。
要注意ライン、到達。
危険度:中。
感情影響:高。
⸻
帰宅後。
亮平がシャワーを浴びている間に、加湿器の水を満たす。
目盛り、最大。
自然に。
偶然を装って。
「なんか今日、湿度高くない?」
脱衣所から声。
「乾燥してるよりマシだろ」
即答。
⸻
布団に入る。
隣の呼吸が、ほんの少し掠れる。
気のせいかもしれない。
でも。
帰り道のことを思い出す。
キス、したのがいけなかったかもしれない。
亮平、濡れたままだったし。
外、寒かったし。
……いや。
でも。
あんな顔で、せがまれたら
断れるわけないだろ。
「顔赤いけど、大丈夫?」
「……お前こそ喉、平気なのかよ」
「んー、ちょっとだけ」
やっぱり。
⸻
【健康保全課 翌日対応予定】
・朝の様子、重点観察
・温かい飲料準備
・ビタミン強化メニュー検討
承認。
⸻
寝返り。
腕が伸びてくる。
無意識に、抱き寄せるみたいに。
心臓が跳ねる。
でも、動かない。
そのまま受け止める。
守る。
好きは、気安く言わない。
でも、守る。
目を閉じる。
胸の奥で、静かにカウントが始まる。
風邪発症まで――
あと、何時間。
俺が守りきれるまで、あと何時間。
⸻
コードネーム:S。
健康保全課、稼働確認。
対象者、安定。
料理指導:涼太。予定要確認。
環境調整:完了。
観測事項: 対象者、声色変化あり。
呼吸安定。
愛、未申告。
だが――
体温、共有中。
継続可能。
※対外関係警戒室
継続監視中。
持続可能な設計書【参】
コメント
4件
なんでまた💙報告書出てんのよ🤣🤣🤣
