テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
レミラー駅構内――――
〜♪
駅のコンコースに置かれたストリートピアノ。
そこに一人の男。鍵盤を滑らかに叩いていた。
流行りのポップ音楽。
人々は綺麗な音に足を止め、耳を引きつける。
「メモリィだ!」
誰かの声が飛ぶ。
男はただピアノを弾いていた。
自分の好きな音楽を、弾いていた。
音に引き寄せられた人々、人だかりが出来ていた。
男は弾き終わるとゆっくり立ち上がる。
それが合図のようにパチパチと拍手が駅に鳴り響く。
「……。」
男は後ろに人がいたことに驚くも、ぺこりと会釈をしピアノを離れる。
「お兄さん凄いですね!なんて名前ですか!?」
女子高生二人が男を囲う。
「……。」
フルフルと首を振り、<趣味です>と手話で話す。
「えっ、お兄さん話せないの?」
女子高生の言葉にこくりと頷く。
その瞬間、ブーブーっと、男の携帯が鳴る。
<じゃあね>と手をひらりとさせ、携帯を持ち、歩き出す。
電話のマークを押した。
「もしもし。」
「「いや喋れるんかーい!あはははっ」」
男の鉄板ネタに、女子高生はお腹を抱えて笑い出していた。
『今どこにいる?』
電話越しの低い男の声が聞こえてくる。
「レミラー駅です。」
『そうか、ならちょうどいい、そこに向かう電車にターゲットが乗っている。やれるな?』
仕事の話だった。空気が張り詰める。
「……詳細お願いします。」
『老人達に麻薬入りサプリを高値で売る詐欺師だ。警察が掴めなかったやつを――うちの”目”が捉えた。』
淡々と続ける。
『レミラー経由のロンガートン4号車にやつはいる。小太りでメガネをかけているそうだ。』
「分かりました。」
『よろしく。……あぁ、そうだった。やつも異能力使いだ。異能の回収も頼む。慎重にな。”スイセン”』
電話越しの男の声が、低く圧を出していた。
「はい。了解。ボス。」
スイセンと呼ばれた男は目を細めた。
『ではな。――”ブーケの名にかけて”』
ツーツーと、電話が切れる。
「……異能力持ちか。めんどくさいなぁ。……やるけどもさ。」
改札前の物陰に隠れ、灰色パーカーのフードを被る。
「すぅ……はぁー。」
深く深呼吸をした。
パーカーの上のボタンを留め、カチリとスイッチを入れる。
ビリビリっと電気を帯び、戦闘服へと変化する。
スイセンは覚悟を決め、目を開く。
「――”ブーケの名にかけて、花束を。”」
先程までの気怠げとは反転、真剣な目へと変わった。
「ミッション、スタート。」
戦闘服が再び電気を纏い、透明となる。
改札を飛び越え、電車へと向かう。
プルルルルッ。
33,754
電車のドアの閉まる合図がなった。
タッタッと駆け込み、電車は走り出した。
「4号車って言ったか。ここは、3号車か。」
4号車へと歩き出した。
周りにはスイセンは見えていない。
……いや、他人を見ようとはしていない。
ガラガラと、4号車の扉を開け1歩踏み出す。
その時、小さな音で音楽が聞こえてきた。
聞こえた方を見ると、オタクっぽい人がイヤホンで音楽を聞いていた。
聞いたことある声、だが聞いた事のない曲だった。
(ラビィの声。……そうか、今日リリース日だったか)
スイセンは推しの声に聞き惚れていた。
「……ん?うわぁ、なんですか!?」
オタクは目の前でじーっと見てくるスイセンを見て驚いていた。
「……あ、透明保つの忘れてた。」
推しの声に耳を奪われ、いつの間にか透明が解けていた。
その時、ガタガタッ。
4号車の奥の方で、窓を開け逃げ出そうとする小太りな男がいた。
「あいつか。」
スイセンは走り出し、男の元へ近づくも。
男は窓から屋根の上に登って行った。
「逃がすかっ。」
スイセンも窓から身を乗り出し、屋根に登ろうとした瞬間だった。
――《超音波》
キイイイイイーーーン!!
小太りの男から超音波が発せられた。
「――ッッ!!」
スイセンは思わず耳を塞ぎ、電車から手を離し転げ落ちた。
ゴロゴロと草を踏み転がる。
「いってぇ……落ちちゃった……」
ゆっくりと上半身を起こし、頭をさする。
「汚ねぇ音聞かされた……最悪……」
ぶつぶつと呟く。
「……あー、電車行っちゃうよ。どうする……?」
独り言を呟き、周りを見る。
「……あれなら、行けるかな。」
上に電気が通る、電線を見つけた。
首にかけてたヘッドホンを耳にセットする。
「これで、多少はマシか?」
鼻で笑いながら、
左胸ポケットのダイヤルを回し、ボルト調整をする。
その瞬間、バチバチっと体に電気が巡り出す。
「よっ。」
軽くジャンプをして、電気に引っ張られるように電線を掴む。
「ちょっと借りますよっと。」
――《電気操作》
バチバチっと音を立てながら、電線を滑るように電車の方へと向かう。
電流が走る音。それすら、スイセンには“音楽”だった。
「〜♪」
推しの音楽を口ずさむ。
「げっ、アイツ電線に乗ってる!?電気異能か!?それならまた落とすのみっ!!」
小太りの男は大きく息を吸い、口を膨らせた。
――《超音波》
ギィィャアアアアアアッ!
金属音が混じったような音がスイセンへと向けられた。
「……気持ちわりぃ音出すんじゃねぇ。」
電車に近づくと、滑る勢いのまま、ぱっと手を離し小太り男へ飛び込む。
「うぐっ!?」
小太り男の頭を踏み、前転の勢いで男の首筋を電気の刃で切りつける。
異能力封じのツボを一切りだった。
「が、あ……」
男は異能力を封じられ、力なく倒れ込む。
スタッと屋根に着地をしたスイセンは、
立ち上がり、戦闘服の中からつぼみの花を出す。
白い、まだ閉じたままの花。
「……せめて、静かに終われよ」
男の首元に、つぼみを突き立てた。
――バチバチッ。
電流が走る。
つぼみが、ゆっくりと震えながら開いていく。
花びらの隙間から、微かな電気が漏れ出す。
そして――
「ジジ、ミ〜……ジジジ」
透き通るはずの音は、どこか粘つくようにノイズが走り歪んでいた。
「……最悪だな」
スイセンは小さく吐き捨てる。
完全に開いた花を、指先で摘み上げた。
ピピッ。インカムに触れ、
「……一輪、摘みました。」
『ごくろう。戻ってこい。』
「了解。」
ボスの返事が返ってくると、小型収納器を取り出した。
小型収納器のボタンを押し、展開する。
男の体を光が包み、みるみるうちに収納されていく。
「ミッションクリア。……帰るか。ラビィの新曲聞かねぇと。」
収納器を手に取り、
スイセンはまた電線へと飛び乗り、
そのまま夜の中へと滑り出した。
『スイセン』――花言葉は、自己愛とプライドを持つ花。
絶対音感を持つ彼は、汚い音が嫌いだった。
自分の音に、誰よりも誇りを持っていた。
正義の殺し屋組織『ブーケ』
”ブーケの名のもとに、花束を。”
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!