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「坪井くんのこと言ったら芹那は会いたいって……言うし、あの子今、彼氏と別れたばっかりだし。私は真衣香と坪井くんを別れさせたいし……ちょうどいいじゃんって、私……ごめん、勝手に」
気まずそうにして再び俯いた優里を、黙って見ていた真衣香。
その横で黙ってられないとばかりに坪井が口を挟む。
「いやー、マジで勝手だよね。立花の為みたいな言い方して優里ちゃんの自己満足でしょ」
「……そう、だね」
低く、明らかな怒りを含んだ声に優里が萎縮する。
真衣香はそんな優里の姿に、どんな感情を持つことが正解なのかわからず言葉を探した。
「……ねえ、優里っていつも思い込んだら突っ走るとこあるけど、でもちゃんと相談してくれるよね?」
「……うん」
「何で今回は黙ってたの」
坪井とは逆に、落ち着いた様子で真衣香は優里に問いかける。
しかし、もちろん本当に落ち着いているわけではない。
そうでもしなければ、すぐに大きな声を出してしまいそうで。抑え込むのに必死なだけだ。
「自分でも、よくわからなかったから……」
「何が?」
すぐに聞き返した真衣香の迫力のせいか。
優里の声が少し、震えた。
「真衣香と仲良くなった頃、私も似たような状況だったでしょ、芹那と」
思い返す真衣香の隣で、坪井が息を呑んだ気配がした。
「真衣香覚えてる? 私が一人で汚されたロッカー片付けてたら、いきなり話しかけに来てくれたの」
(当たり前だよ……もちろん、覚えてる)
優里は、中学の頃から目立つ美人で、坪井から聞かされていた芹那と同じく、目立つ相手と付き合っていた……ことがあった。
それがきっかけで、クラスで孤立させられた優里。
まるで別世界に生きているかのような人気者だった優里の明るい笑顔が消えていき、教室という小さな世界を見渡すことに怯えるよう、下ばかりを見るようになった。その様子を真衣香は同じ教室で、ただ見ていた。
優里にとっては、つらい記憶。
けれど、仲良くなれたきっかけも〝それ〟だったから。
――初めて話しかけたのは、優里の私物が汚されたり破られたり。それらが押し込まれた教室のロッカー前で。
もともとプライドの高い優里は、話しかけられたことよりも現状を見られたことに対して、気まずさが募ったのだろう。
とても不機嫌そうに眉を寄せて、真衣香を睨みつけた。