テラーノベル
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友達なんて、所詮は他人だ。
親友だと思っていた奴が、俺を平気で見捨てた時に、全て悟ってしまった。
小学生の頃、俺には親友と呼べる奴と、友達と呼べる奴らが沢山いた。
でも、それは俺だけだった。
「親友? ちげーよ、こいつはただのパシリだって」
「うわ、ひでーこと言うじゃん!」
中学生に脅されていた親友を、俺は迷うことなく助けようと思ったのに。
代わりに俺が相手にボコられ、親友だった奴は平然とそう吐き捨てた。
その周辺にいた友達だった奴らの態度も見て、俺だけがバカだったのだと思い知った。
その日から俺は、友達を作っていない。
いつも通りの孤独な時間。
高校の授業はつまらなくて、窓の外を眺めるばかり。
塾で習った範囲、よそ見をしていた俺に、数学の教師が答えてみろと問題を投げかける。
俺は教壇へと足を運び、スラスラと黒板に、過程から回答まで全て書き上げていった。
「どうですか?」
「せ、正解だ。さっさと戻りなさい」
教室から驚きの声が所々から聞こえる。
友達のいない俺には、もはや勉強しかすることがなかった。
俺は入学当初からクラス、学年内ともに成績1位を保ち続けている。
「あれが噂の?」
「そうそう、揺るがない絶対王者だって」
学校ではそんな言葉が聞こえてくる。
「たまには友達と遊んだりしたら?」
母からはよくそう言われる。
でも、俺は気づいている。孤独の方が生きやすいということに。
そんなことを思いながら、何気ない日常を送っていたある日のこと。
校庭のベンチで弁当を広げていると、目の前に何か落ちているのが見えた。
「人形?」
顔はなく、服も着ていない、肌色のまっさらな人形。
不思議に思っていると、綺麗な顔立ちの女性が歩いてきた。
「ここに落としていたのですね」
「それ、あなたのですか?」
「そうですね、そうとも言えるかもしれません」
訳の分からない事を言う女性。
人形を静かに拾った女性は、俺にそれを差し出してきた。
「な、何ですか急に」
「君、お友達が欲しいのでしょう?」
笑顔で聞いてくる女性に、俺は苛立ちを覚えた。
「ふざけないでください。何が言いたいんですか」
「私は君に、少し提案をしたいだけですよ。ほら、こちらへ」
女性に手を握られた瞬間、辺りは一面、星空のような空間になった。
俺は驚きで、その場に硬直する。
「なんだよこれ……」
「驚かせてしまってごめんなさい。私は天、この部屋の門番です」
説明をされても、何一つ理解できない。
「い、意味が分からない、一体なんなんだよ!」
「落ち着いてください、この子が怯えています」
天と名乗る女性の後ろに、俺と同い年ぐらいの男が立っていた。
女性の服の裾をぎゅっと掴み、不思議そうにこちらを見ている。
「誰だよ、そいつ」
「この子は先ほどの人形ですよ」
こいつがさっきの人形? そんなことありえない。
「そんなわけ……」
「天様? この人がお友達?」
男が喋った。年齢に似合わない、子供っぽい口調で。
「そうですよ」
「お、おい、俺はそんなんじゃ……」
「やったー! お名前は?」
話についていけない。
「お名前を教えていただけますか?」
「俺は、田辺友絆だ」
俺は仕方なく名前を答える。
女性は男に対し、柔らかな笑顔を浮かべ、俺の方を向き直した。
俺はさらに説明を求めた。
「この子と、お友達になってもらえませんか?」
その結果、女性から発せられた言葉はこの一つだった。
「なんで俺なんだ」
「君が、お友達を欲しがっていたからですよ」
それは嘘だ。俺がそんなことを思うはずがない。しかし、もう考えるのも面倒だ。
「はあ、分かったよ。で、そいつの名前は?」
「この子に名前はありません。君がつけてくれますか?」
とことん意味が分からないが、俺は少し考えて、思い浮かんだ名前を呟いた。
「トモ、でいいか?」
「だそうですよ、トモくん」
「トモくん! トモくんっていうお名前!」
男、もといトモは名前を連呼しながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「こいつ、大丈夫か?」
「人間になりたてなので、そこは許してあげてください」
人間になりたて、というよく分からない言葉に困惑しながらも、俺はなんとか受け入れることにした。
名前を付けた時、辺りの景色は校庭に戻っていた。
トモが俺に抱きついて離れない。
「その子、天野トモくんは、君が大事にすればするほど、人間として成長していきます。逆に蔑ろにすると、人形に戻ってしまうので、気を付けてくださいね」
その言葉を残し、女性は去っていった。
「意味分かんねえよ」
「ゆうきくん、トモくん、どうしたらいい?」
それはこっちのセリフだ。
周りの目線が痛い。
「いいから、まずは離れてくれ」
「でも、人間はみんなこうするって、天様が……」
「んなわけあるかよ」
これは骨が折れそうだ。
高校では、トモは転校生としてやってきたことになっていた。
相変わらず、子供っぽさが抜けていない。
「天野、この問題を解きなさい」
「え、えっと、トモくん、分かりません!」
クラスからどっと笑い声が溢れる。
周りの奴らは、トモに対しておかしい子という認識を持っていた。
「おい、田辺、教えてやりなさい」
こんな感じで、毎回俺が教える羽目になる。
トモは周りの目を気にも留めず、いつも笑顔で俺にくっついてくる。
「トモくんね、トモくんはね」
そう詰め寄ってくるトモに、俺は制止をかけた。
「いい加減、一人称を変えろよ」
「いちにんしょう、って何?」
「その、トモくんじゃなくてさ、俺とか僕とかにしろってこと」
トモは少し考え、その日から僕と言うようになった。
高校にいる時はいつも一緒。
登下校も、もちろん一緒。
俺が家に帰る時、トモはあの女性のところに帰り、毎朝俺の家のチャイムを鳴らす。
これが友達、いや、こんなのは所詮『ごっこ』だ。
トモは俺がどれだけ無視しても、必死でついてきた。
「嫌にならないのかよ」
ある日、俺はそんなことを聞いた。
「だって僕たちは友達だからね!」
トモは変わらない笑顔で答えた。
どうせ元は人形だから、人間じゃないから、こいつには正常な判断ができないだけだ。
「俺以外にも話しかけてみたらどうだ?」
冗談交じりにそう言ってみた。
「分かった!」
トモは片っ端からクラスメイトに話しかけていく。
「マジかよ……」
俺はドン引きしながら、その様子を見ていた。
みんなは当然、トモを無視していく。
最終的に、トモは俺のところに戻ってきた。
「ゆうきくん、みんな話してくれないよ?」
「だろうな」
俺は一言だけ話して、教室を離れた。
トモの悪口が聞こえてくる。
「天野くんってさ、田辺くんに迷惑かけて恥ずかしくないのかな」
「あー、あのキチガイでしょ? そんなの分かんないって」
当たり前の反応だ。でも、俺の心はなぜかもやもやしている。
「天野って奴、変なの気づかねえのかって」
「絡まれてる田辺が可哀そう」
俺の悪口でもないのに、無性にイライラしてくる。
「おい、言い過ぎだ」
気づけば、名前も知らない奴に口を出していた。
「なんだよ、お前だって良く思ってないだろ?」
「パシリぐらいだよな、あんな奴と仲良くするなんてさ」
へらへらしながらそう言う奴らに、俺は感情のままに叫んだ。
「お前らにあいつの何が分かる!」
なぜそんなに必死になったのか、俺も分からなかった。
「いきなりびっくりするだろ、もう行こうぜ」
周囲の目が、俺を軽蔑しているように感じた。
結局、友達なんてろくなもんじゃないんだ。
俺はトモから距離を取り続けた。
「ゆうきくん、お話しようよ」
「お前がちゃんとしたらな」
そう言って、俺は向き合おうとしなかった。
「んん、ゆ、友絆、僕と話そう」
「え? いや、ちゃんとしたらな」
俺がそう言う度に、トモは俺たちと何ら変わりなく話すようになり、人形とは思えなくなっていた。
「友絆、僕に勉強を教えてよ」
「……分かった」
仕方なく付き合ってあげているだけだ、こいつは人間じゃないんだから。
あんなに俺に付きまとっていたトモの姿が、今日は見当たらなかった。
何か嫌な予感がする。
考える前に体が動いていた。
校内をくまなく探し、最後に向かった屋上に、校内で有名な不良たちとトモがいた。
「ほらほら、その辺だって」
「早く探せって」
不良たちにそそのかされて、トモはフェンスの向こう側に立っていた。
突如強風が吹き、風に煽られたトモが体勢を崩す。
「危ない!」
俺は思わず叫んでいた。
それに気づいた不良たちは、やばいと思ったのかその場から立ち去る。
不良たちと入れ替わるようにして、俺はすぐにトモの元へと向かうが、一足遅かった。
屋上からトモの姿が消える。俺は無我夢中でフェンスを登り、向こう側へと着地。下を覗き込むと、間一髪で片手でしがみつくトモの姿があった。
苦しそうな顔をするトモの腕をすぐに掴む。
「あ、あれ、友絆……?」
「お前、なんでこんなことしてるんだよ!」
トモは俺の顔を見るや否や、笑顔で答える。
「あの人たちがね、友絆が大切な物を無くしたって教えてくれてね、探してたんだ」
「そ、そんなの真っ赤な嘘だ!」
どうしてか、トモは俺の手を掴もうとしない。
「そっかあ、それなら良かった。重いでしょ? 離して大丈夫だよ」
いつもと変わらない笑顔で、残酷なことを言うトモ。
「何言ってんだよ、そんなことできるわけないだろ!」
「僕は人間じゃないから、落ちたって、人形に戻るだけだもん」
トモの口から、そんなこと聞きたくなかった。
俺が黙っていると、トモは気にせず話し続ける。
「ここまでしてくれるなんて、友絆は最高の友達だよ」
「どうして、そこまで俺の事……俺はお前を蔑ろにしてたんだぞ!」
トモは静かに首を振った。
「本当に蔑ろにしてたら、僕はとっくに人形に戻ってるよ」
その言葉で、俺は自分の本心に気づいた。
俺は、本当にトモの事を友達だと思っていたんだ。
渾身の力を込め、俺は気合いでトモを引きずり上げた。
「うおりゃああああああ!」
無事に戻ってきたトモが不思議な顔をする。
「どうして?」
「トモが、大切な友達だからだ」
俺はもう、自分に嘘はつかない。
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