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『こんなところでどうしたんだい?』
『えっその…お母さんに怒られて…あっでもお母さんは悪くないんだ!!
僕が…役立たずだから…ごめんなさい!!ごめんなさい!!』
…
台本にある文字を言霊で綴る。ここまで台本の通りにこの物語は進んでいる。
「っ…?」
視界が歪む。まるでプールに目を開けたまま入ったような、ぼやけた視界。何かに、乗っ取られたように思考までも霞掛かる。
『私は李徴。この先にある寺の和尚なんだ。…』
そこから先はまだ台詞があったはずなのに、聞き取れない。
自分の代わりの自分が、台本通りにいつもの台詞で答えて、舞台袖へ走っていった。
急いで水色に透ける羽織を着てちりとりを持ち、〈李先生〉の後ろを追って行く。
自分は舞台上にいるというのに。また視界が涙で歪む。多分、乗っ取ってきた者への精一杯の、抗い。涙は、零さないように。
そうこうしてるうちに一旦出番は終わった。
別に何も間違えなかった。そのままいつもと同じ演技をこなした。
いつもと違ったのは、その後だった。
自分の出番が終わると、休憩に入った。
舞台袖に入ったとき、泣いている演出さんと目が合った。その瞬間、耐えていた涙は呆気なく零れ落ちた。
何かが吹っ切れたか、大切なものを失ったんだと思う。
そこから休憩が終わるまで、団員の人に見守られながら、そしてたくさんの人を巻き込みながら、たくさん泣いた。
自分の出番が来た。
また同じことにならないか心配だったけど、そんなものは不要だったようだ。
その代わりに、自分の台詞につっかかった。
コメント
1件
「第1話」読了しました。冒頭の「言霊で綴る」という設定、舞台という閉じた空間で自分の代わりの自分が動く感覚……これ、すごく好きです。言うべき台詞が頭に流れ込んでくるのに、それを“外側から見ている”という表現が生々しくて。特に、泣いている演出さんと目が合って涙が零れる瞬間、一気に引き込まれました。“乗っ取られ”と“自分の台詞につっかかる”の対比が鮮烈で、ここからどう展開するのか気になりますね。李徴和尚という存在にも意味がありそうで、続きが待ち遠しいです。