テラーノベル
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無我夢中で彼女の手を引いて、屋上へ駆け上がっていく。
涙は絵を描いている様に床へ着地してゆく。
息を切らした私達は、その場に座り込んだ。沈黙の中には、星々が光る音が微かに聞こえるだろう。
私は彼女の手をもう一度強く優しく握って、目を見た。
「ねぇ…何があったの?君、入学してから3日くらいは見たけど、それから見てなかったんだ」
優しく問い詰めるように私は彼女に訊く。彼女からしたら高圧的かもしれない。でも、それしか方法は浮かばなかった。彼女は少し戸惑ったように見えたが、息を呑んで私に話し始める。
「…いじめを、受けているんです」
「いじめ?」
いじめとだけいえば、随分聞き馴染みのある言葉だ。実際あるとなると想像しやすいようでし難いもの。
「はい。中学から同じ子がいて、その子に…」
また一粒二粒と目から涙が零れ落ちていく。彼女の目は聡明で弱々しく、今にも萎れそうな花に類似た。
「…他に誰かには言ったの?」
今度は気掛かりでついそう訊いてしまった。
「言っていません。…言える人が居ないので。友達も居ませんし、親もあんまり家に帰ってこないですし…」
嗚咽が湿った夏の夜空に溶けていく。
私は申し訳ない気持ちを代弁するように彼女を軽く抱きしめて
「じゃあさ、私に相談してよ」
彼女は目を少し丸くして、その後軽く微笑んでまた涙が零れ落ちていく。
「ありがとうございます」
こんなに美しくて、感情的で繊細な笑みを私はこの時初めて見た。
「あ、そうそう。私の名前、何ていうか知ってる?」
名前を知っていなければ相談もし辛いだろう。
「…ごめんなさい、分からないです」
私はそんな謝罪の言葉を打ち消せるように明るく笑えば
「私は白城紬って言うんだ。紬でも白城でも何でも良いよ」
私が立ち上がると彼女は私を見上げた。優しく涼しい風が私達を包み込む。
「白城さん…って呼ばせてもらいます。自分は、空川叶恵と言います」
目を細くして、目の中に映る私と星々に語りかけたように見えた。
「叶恵ちゃんね。これからよろしく」
暗く明るい夜空は、対照的な私達を照らし合わせる様だった。
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