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「私の名はカガリ・ショー。このニシノアカツキ王国の軍務卿だ。東の果てより参られた二人の名を聞かせてくれ」
貴族達を伴って現れた赤髪の偉丈夫は、軍務卿だったようだ。
城内に入らせないくらいだから王族は来ないよな。
軍務卿はよく知らないけど軍務省の長ってことだろうから、軍務大臣と同じなのかな?
それとも事務次官的な?
俺があれこれ考えていると聖奈から声が上がる。
「私はエマ・ワトソン。彼はトム・クルーズです」
おいっ!!不意打ちやめろよなっ!?
まあ聖奈は名付けのセンスが皆無だから仕方ないか。
仕方ないのか…?
「それで?異国の武器商人は何を売ってくれるのだ?いや、何が対価なのだ?」
「売るモノは先程皆様に披露しました。もう一度と言われるのであればこちらに否はありません。武器の数は全軍人に行き渡らせる程度にはあります。そして、対価ですが…一つ望みがあります」
「ほう?なんだ?」
普通の商人であればより高くより多く買ってくれるところに売るもんなのだ。
連邦という太客がいるのに態々ここに売るんだ。
何か裏がないとここには来ないと考えるのは当然か。
対価はもちろん連邦を抑え込むことだけど、聖奈はなんて言うんだ?
「取引の際に現金ではなく、物品との交換をお願いしたいのです」
「そんなことであれば、こちらとしては…」
ああ…なるほどな。
この国のお金なんか貰っても仕方ないよな。
物なら地球でも売れるし、それもずっとというわけではないから手間もそこまでかからんか。
軍務卿は裏があると読んでいたが、聖奈の条件が条件とも言えないようなモノだったから、尚更疑心暗鬼になっているな。
「軍務卿閣下からすれば、私の申し出はあまりにも自分達に有利なもので不可解に感じるかと思います。
国を預かる者であればそれは当然の疑問。
ですが、今一度お考えください。
私の提案で其方に不利になるモノがあるのかを。
私も商人ですので自分達に不利益な取引はしません。
私はニシノアカツキ王国の織物などを含めた生産品が欲しいのです。
連邦は大国ですが、私達が望むモノは持っていません。
そして王国は連邦に対抗する力が欲しい。
今回の提案は時代と情勢が偶々私たちに味方したという話です。以上になります」
モノはいいようだな…丸々嘘でもないけど、本音は隠す。
政治家ってどの世界もどの時代も一緒だな……
「……何が狙いだ?」
「それがあったとしても、ニシノアカツキ王国に不利がなければ同じことではないでしょうか?」
軍務卿は政治には向いてなさそうだな。
隠す気ないもん。
「……話はわかった。だが、私の一存では決められん。陛下も交えて話し合いを行う。それまで二人の身柄は我が家で預かろうと思うが…良いか?」
「構いません。お世話になります」
ここまで堂々とされたら不気味を通り越して諦めの境地に入りそうだな……
俺は聖奈の言葉に合わせて会釈しておいた。
俺達は城から程近い貴族街にある軍務卿の家に来ている。
流石一国の要職を預かっているだけあって立派な家だ。
俺たち二人くらい増えたところで、どうにでもなりそうな屋敷の一室に監視もなく放置されている。
『今日はどうするんだ?』
『城には帰らないよ。流石に大っぴらには見張りはいなくても、監視はされているだろうからね』
俺達は声を出さずに日本語で筆談をしている。
大っぴらな監視は無くとも、俺の魔力波に反応があったから、覗かれているか話を聞かれているのだろう。
『天井裏と床下にもいるんだよね?』
『そうだ』
『その人達ってトイレどうするのかな?』
『……漏らされたら嫌だな。特に天井裏…』
こういう監視の人達のトイレ事情ってどうなってるんだ?
知らぬが仏か……
『物々交換って言っていたが、目ぼしい物があったのか?』
『ううん。ないよ。でもお金よりは活用しやすいし、この国からお金を抜き過ぎたら連邦に呑み込まれる前に経済破綻しちゃって、何をしに来たのかわからなくなっちゃうからね』
『そうか。宝石はもう向こうでは売らないんだろ?今回は流石に赤字になりそうだな』
ドブトリー(?)ドリトニー(?)の財産が莫大だった為、これ以上地球で貴金属を売るのはやめることになっていた。
まだまだドリトニー財産は残っているし、そもそもすでに地球のお金は飽和状態だからいらんけど。
『?赤字になるわけないよ?そもそもこんなところまで来て、赤字になるような取引するわけないでしょ?』
すんません……
『それよりも聖くんはこの国をどう見たの?』
『どうって?良くも悪くも戦争の気配が強過ぎてわからんな』
『違うよ。この国の文化の成り立ちについてだよ。確かに今、転生者は居ないだろうけど、その知識は確実に取り込まれているよね?』
あれ?そっち?
『偶々日本風の様式を辿っているだけじゃ無いのか?』
『あり得ないよ。それこそ天文学的な確率じゃないかな?私の予想は、大昔この国ができる前に転生者が居た。もしくは文献などで他所からその知識を誰かが手にしたか、だと思うよ』
くっ…俺はてっきり気候条件とかが日本に近くて、瓦や羽織が文化として根付いたんだと思ってたのに…違うのかよ……
もう考えるのやめよかな?
……ん?
『誰か近づいてくる』
『わかったよ』
今回は俺が当てられると思っていた考えが最愛の妻に否定されたことで項垂れていると、この部屋へと近づく魔力を魔力波が捉えた。
コンコンッ
「はい」
ノックに聖奈が返事をすると、入ってきたのは……
「旦那様がお呼びです」
使用人さんだった。
「わかりました。行きます」
待つ事三時間ほど。
どうやらこの程度で済んだようだ。
いや、それだけこの国に残されている時間が少ないということなのかもしれないな。
「待たせたな」
使用人に案内されたのは軍務卿の執務室だった。
広さは12畳ほどあり、上座に執務机があり、その手前に四人掛けのテーブルと椅子がある部屋だ。
軍務卿はそのテーブルの上座に座り、護衛がその後ろに控えている。
「座ってくれ」
「失礼します」「失礼します」
あれ?俺この人の前で初めて喋った気がする……
いや、俺は主人公だ。
きっと気のせいだろう。うん。
「御前会議にて、其方の武器を買うことに決まった。もちろん値段次第ではあるが、私に一任されている」
「そうですか。では、取引を始めても?」
「構わん」
そこからは…そこからも聖奈の独壇場だった。
『何!?その様な対価でいいのか!?』
『えっ!?そ、そんなにはいらない…』
『わ、わかった。備えあれば憂いなしということだな?』
執務室からは軍務卿の驚きの声ばかり上がった。
やっぱ、驚かすのはおっさんより美女に限るな……
これは一体、誰得なんだよ……
「して、それだけの数を運ぶにはどれくらいの時間がかかる?足元を見られないように伏せていたが、この国に残された時間は少ない。間に合うのか?」
俺達の身元をこの国で調べるのは不可能な為、契約書も何もない。
意味がないからだ。
その為、物々交換は現物が揃ってからとなったのだが、軍務卿は時間の心配をする。
当然だよな。
「我々の方は今からでも問題ありません」
「?どういう意味だ?」
「魔法の鞄を幾つか所持しているのです。ご存知ですか?」
軍務卿は聖奈の言葉の意味が理解できない様子だ。
そりゃそうだろう…いくら現物は手のひらサイズとはいえ、全軍人に渡しても余りある量の取引数だからな。
この大きな屋敷が手榴弾で埋め尽くせる程の量だ。
「魔法の鞄は知っているが…アレは希少な物だろう?」
「ええ。ですが我が祖国からすれば、そこまで希少でもありません。失礼ながらそれほど文明に差があります」
呼吸をするように嘘を吐けるのって凄いね!
「そ、そうか…世界は広いな…」
天井を見上げてそう呟いた軍務卿は考えるのをやめたようだ。
俺の仲間かな?
「はい。ですので其方に用意していただくのは広い倉庫です。出来れば数は少ない方がいいので、その様に手配していただけると助かります」
「わかった。早急に手配する。そこに我々も運べば良いのだな?」
「はい。ですが、信用の証として、初めに私共が武器を入れておきます。それを確認して回収された後、倉庫へと交換の品を入れておいて下さい」
「良いのか?」
「はい。失礼ながら力の差は歴然ですので、其方が約束を破るとは思えません。それに破れば…いえ、これは愚問ですね」
「………」
いや、圧力外交はやめよう?
まぁ上手くいくならなんでもいいけど…軍務卿さんの胃に穴が開くぞ?
話し合いは終わり、その日は先程の部屋で休むこととなった。
軍務卿さんへと、こっそり地球産の胃薬を渡したのは、許されるはず……
〓〓〓〓〓〓〓〓後書き〓〓〓〓〓〓〓〓
役職で軍務卿は見慣れないですが、ある所にはあると思って読んでもらえたら助かります。そこまで出てこないので気にせずに見てやってください。
蛇足になってしまいすみません。
蛇と言えば、先日家の近くで大きなアオダイショウを見ました。というか、足元を見ていなくて踏みそうになりました…
踏んでいたら足を噛まれてそれこそ『蛇足』に……なんちゃって…
↑はい。これが本物の蛇足です!!