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「ちげーよ! 妬くなんてそんな低レベルな感情じゃなくて、俺は呆れ果ててるんだ。別れた相手なのに気安く接する、雅輝の神経はどうなってるんだろうってさ」


身振り手振りまで駆使し、全力で否定する橋本のらしくない言動を目の当たりにした榊は、堪えていた笑いが決壊しそうになった。


「橋本さんってば、宮本さんと付き合ってから、いい意味で素直になりましたよね」

「何言ってんだ、俺は最初から素直だろ……」


視線を右往左往しながら告げられた橋本の言葉に、榊はぷぷっと吹き出すなり、声を立てて盛大に笑いだした。

寒風吹き荒ぶ天候の中、突っ立ったまま恋人の帰りを待ち続けるせいで、無性に肌寒さを感じた。そんな現状でお腹を抱えながら爆笑する友人のお蔭だろうか、何となく寒さが吹き飛んでいく気がする。

橋本はいろんな意味を込めて、じと目で隣を見上げた。榊は大笑いしたせいで涙目になり、それを拭いながら口を開く。


「宮本さんのおおらかさを考えたら、橋本さんのはじめてを貰ったことについて、あまり気にしない可能性も捨てきれないですけどね」


自分の考えを打ち砕くことを言い出したので、橋本は一気に心がざわつく。


「ちょっ、えっ? マジか!?」

「無駄に考えるよりも、結婚しちゃえばいいと思いますよ。宮本さんってば、人当たりがすごーく良さそうだから、今後モテちゃうことだってあるかもしれないしー」


まるで自分の親にでもなったかのように結婚を勧める榊の言葉から、かなりしつこさを感じたものの、真剣な顔で告げられるせいで、耳を貸さずにはいられない。


「……モテるのか?」

「橋本さんと付き合って、毎日楽しそうにしていたら、自ずとキラキラしますよね? 仕事関連で顔を突き合わせる女性が見たとき、以前よりもキラキラしている宮本さんに、魅力を感じないわけがないなぁと思ったんです。さっきだって橋本さんの車を運転していた横顔もキリッとしていて、いい感じに見えましたよ」

「なんでだろ、反論したいのにできない。イケメンでモテメンの恭介が言うから、妙に説得力ありすぎだろ」


橋本は俯きながら、着ているセーターの裾を無意味に触ってしまった。榊のセリフが、頭の中でぐるぐる反芻される。

人の好さがにじみ出る宮本の魅力は橋本だけじゃなく、榊にも伝わった――何度か顔を合わせているのもあり、自分と付き合う前後の違いを指摘されたこともわかった。


「なぁ恭介……」

「なんでしょうか?」


俯かせていた顔をちょっとだけ上げながら、榊の顔色を窺う。


「その、な。結婚を前提にした付き合いって、縛られる感じというか、重たく感じたりしないのかなぁってさ」

「逆に聞きますけど、宮本さんに結婚を前提とした付き合いがしたいって言われたら、橋本さんはどんな気分になりますか?」


(俺からじゃなく雅輝の口から、結婚という二文字を言われたとして――)


榊の問いかけで、それを妄想してみる。

大事なことを言うからと、いつもよりお洒落な格好をしている宮本を見て、容赦なくツッコミする自分がいる気がした。


『休日や祭日じゃない、ごくごく普通の平日だっていうのに、なんでそんな決めまくった格好をしているのやら』

『だって! あのその、むぅ……』

『まったく。どんな格好でも、俺はおまえが――』

『陽さんとずっと一緒にいたいです、だから結婚してくださいっ!』


「( ゚∀゚)・∵ブハッ!」

「橋本さん?」


両手に拳を作り、顔全部を真っ赤にして宮本に告げられたシーンを考えただけで、橋本は激しく吹いてしまった。


「ぁあ、やっ、何ていうか――」

「重たいなっていう気分を、橋本さんは味わいましたか?」


いつもなら、からかってくるタイミングなのにそれをせず、真摯に向き合ってくれる榊の対応は神がかって見えた。


「橋本さんを見てると、なんだか思い出すな、和臣に結婚しようって言ったときのことを」


どうにも照れて、無意味にもじもじしている橋本に、榊から話しかけた。


「そうか……」

「同性婚法が成立したから、この波に乗らなきゃと俺は思ったのに、和臣は渋い顔で『浮気してるでしょ』って、ありもしないことを言ってきたんですよ」


大好きな榊に結婚を申し込まれたというのに、意外すぎる和臣の対応を聞いて、橋本はぽかんとした。

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