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◆孤独を引きずる
NEET部隊の一角、静かな屋上
笑い声の響く隊舎の下で、陰キャ転生はひとり、夜風に当たっていた
誰にも気づかれずに、誰とも目を合わせずに
NEET部隊は、奇人変人の巣窟だった
メンヘラ、変態、冷静系、脳筋、厨二、ストーカー。騒がしい“問題児”たちは、案外すんなりと陰キャ転生を受け入れた
「大佐~、こないだの戦闘データ、どうやって引いたんすか!」「へぇ!マジつよやん!」「さっすが死に損なった英雄!」
どれも、冗談めかした賞賛。軽いノリで交わされる気安い会話
だが彼は、そのどれにも真正面から返さなかった
「……ふん」
それが精一杯。なぜなら──
“その笑い声の向こうに、いつもいたはずの存在が、そこにいなかったから”
ある晩、誰もいない廊下に立ち尽くす陰キャ転生の姿を、できおこが見かけた
「……大佐?」
声をかけると、陰キャ転生はぴくりと肩を震わせた
無言のまま、扉に背を預けている
「大丈夫っすか?」
できおこが近づいたその時だった
「──うるさい。吠えるな、ギン」
ぽつりと呟いた彼の言葉に、できおこは固まる
その視線の先には、何もいない
けれど彼の目は、まるで“何か”を見ていた
ギンの重みを感じる肩
ギンの咆哮が聞こえる耳
ギンの血の臭いがする指先
幻覚、幻聴、幻痛。それらは未だに、彼の中で終わっていなかった
だから、仲間と騒ぐことが怖かった
楽しげな場にいても、ふと空白ができる
「ここに……ギンがいたはずなのに」
その瞬間に、全てが崩れそうになる
⸻
◆守りを忘れた男
「おい。座れ」
面談室に入ってきた陰キャ転生を、KUNは片腕で指さした
部隊長同士の面談。だが内容は、軍規でも評価でもない。
「聞いてるぞ。お前、また斬り込み役買って出たな。しかも三回連続」
「俺がやった方が早い」
陰キャ転生は椅子に座ると同時に答えた
その声には、疲れも、焦りもなかった。だからこそKUNの顔が険しくなる
「早いかどうかじゃねぇ。……“死にに行ってる”ように見えんだよ」
言葉が空気を打つ
陰キャ転生は、表情ひとつ変えない。ただ、目を伏せた。
「敵を減らすのが俺の役目だ」
「減らした数より、“お前が残った意味”の方が大事だって言ってんだよ!」
バン、と机を片腕で叩く
それでも陰キャ転生は表情を崩さない
「……なら、代わりに誰を行かせる」
「全員だ」
即答。KUNの声は低く、鋭かった
「NEET部隊の奴らは、できる。誰一人、お荷物じゃねぇ。あいつらは“お前が守る子供たち”じゃねぇよ」
「……違う」
「何が?」
沈黙が落ちる
しばらくして、陰キャ転生はようやく口を開いた
「……守れなかったら、また俺が壊れる」
ようやく吐き出した言葉に、KUNは息を止める
そして静かに言った
「壊れるな。“死んでない”ことに、意味を持たせろ。でなきゃ、ギンが浮かばれねぇ」
その名前に、陰キャ転生のまぶたが僅かに揺れた
ネックレスに手をやる。牙が、いつもより少しだけ、重たかった