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「吉田くん」
「んーー?」
名前を呼んで、ふと、思った。
俺はあと何回、目の前の生徒に勉強を教えてあげられるだろう。
あと何回、放課後の教室を2人で占領できるだろう。
「吉田くん」
「なに」
いずれ卒業して、高校生になり大学生になったら、吉田くんは俺のことなど忘れてしまうだろう。
「吉田くん」
「さっきからどうしたw」
吉田くんはいつまで俺を「センセー」と呼んでくれるのだろう。
「吉田くん」
「だから なにって」
俺はあと何回、
吉田くんの近くで、
隣で、
「吉田くん」
「なんだよ!」
堪りかねたように顔を上げた吉田くんの____
顔がすぐ近くにあった。
窓から入る微風がカーテンを揺らし、運動部の掛け声が遠く響いた。
唇が重なっていた時間は10秒も無かった。
吉田くんは持っていたシャーペンを机に置いた。
運動部の掛け声だけが遠く響く。
教室内は静寂。
顔を赤くして小さくなっている俺の耳に、吉田くんのため息の音が流れた。
そして吉田くんは沈黙を破った。
「下手くそ」
ネクタイが引っ張られ、
もう1度唇が重なった。
俺は、あと何回、
吉田くんの戯れに振り回されるのだろう。